魔王子アクシャの人間界エンジョイ生活

もちごめ

プロローグっていうか、今おもんないねんって

 薄紅の髪。

 かつて女髪と言われた男は薄暗い城の椅子に座っていた。

今やそんな声はない。災いの薄紅と呼ばれ、畏怖の対象となっている。


 翼は禍々しく、尾はしなやかで凶悪な先端。

 男はそれを伸ばし、欠伸を交えてだらしなく声を出した。


「あーーーーーーーーーーーーーーーおもんな」


 高く、ハスキーな声は怠さを伴って響き、城の空気に馴染んで霞む。


 溜め息は窓に見える曇り空に消え、鈍い光を彼のツノに返した。ツノは暗く鮮やかな紅紫になる。明るいシアンの瞳が瞼に隠された。


 怠く息を吐く彼こそ、この魔界唯一の王子。

 アクシャ・エンサ・マシュラである。


 成人男性とは思えないほど美しく色気の強い顔貌の彼は、今年で4893歳になる。どこからか「しばくぞ」と声が聞こえてきそうだが、人間で言うところの三十路。


 残念だが独身、彼女なし。


「ホンマ毎日おもんないなー? 何かおもろい事言えや、エリクス」


 そんな王子の流暢な関西弁で呼ばれた少年……に見える男、エリクスはそれに答えた。


「オレ、NizirUのライブ抽選で忙しいんで無理っすね」


 エリクスの暗い紫の髪から覗く金色のツノはピクリとも動かない。顔を上げないからだ。延々とスマホをいじっている。


 そしてその様子すら見もしないアクシャが悪態を吐いた。


「筑前煮の煮汁啜って火傷でもしとけ」


 性格と口は自他共に認める程悪い。


 これはそんな魔界の王子、アクシャとその周辺の雑魚による物語…………の端くれである。


 

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