五十三話 本音と嘘
「……ッは!? 暗翔があたしを殺すってことよね……嘘っ」
「安心してくれ。その命令に従う予定はない」
驚く様子を浮かべる紅舞だが、無理もない。歴代最強最悪とも名高い【ヴラーク】。それを暗殺した当の本人が相手なのだ。
「だからって……殺さ、ない……わよね」
暗翔に向けられる視線が、より一層険しい色に変わった。
あぁ、と暗翔が応える。
「紅舞を信頼して身の上を明かしたんだ。だから、俺を信じてくれ」
「って言われても……」
「だよな……」
口先で言葉を並べた暗翔だったが、本音は異なっていた。
――分からない。組織に従うべきなのか、紅舞を守るべきなのか。二つの異なる矛盾が、暗翔の判断に渦巻きを作っていた。
唐突に、紅舞の身体が炎に包み込まれる。子犬のような丸い瞳が瞑られると、毛先がゆらゆらと灼熱色に燃え上がっていた。
「信じるわ。悩んでいても仕方ないもの。ちゃんとあたしを守ってよ? 世界最強の暗殺者さん」
「……世界最強って言葉だと、軽々しく聞こえるな」
「いいのよ。それぐらいの気持ちで」
紅舞が満面の笑みで応える。相槌を打つように、暗翔も口の端を吊り上げた。
現時点では結論を出すことができない。
一体どうすれば――。
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「え、兄様があの有名な
戦闘を終えると、蒼冥が訊いてきた。夜雪が長く息を吐く。
「やっぱり……人を信用することが苦手なようですね、彼は」
「わたくしのことも信じてくれてないのでしょうか……」
「恐らく違うのではありませんか? 性格なのか、それか……初代【ヴラーク】に関係してのことなのか。果たしてどうなんでしょうね」
「初代【ヴラーク】に関係することでして?」
話をしていると、いつの間にか、【レグルス女学院】にまで身を運んでいたらしい。
学校の周囲には、鬱陶しい数の【ヴラーク】が蔓延っていた。
次の瞬間、夜雪は目を二度瞬きした。
やはり、見間違いではない。
全身にコートを着込んだ理事長が、教会に入り込んでいく。校舎に残る生徒や窓ガラスを破壊している【ヴラーク】を置き残して。
「気になることがありまして。生徒会長様、一旦失礼しますわ」
蒼冥に断りを入れると、影に潜る。理事長のあとを追跡することにした。
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