四十話 遅刻
紅舞視点
暗翔らが【レグルス女学院】に立ち寄っている一方で、紅舞はというと、【ヴラーク】を相手に戦闘を繰り広げていた。正確には、【
ランク三が二人、四が二人、五が一人。合計五人による団体が、相手チーム。加えて、団体のグループランクは三である。暗翔が準決勝で無双し過ぎたため、急遽ランク戦決勝の相手が変わってしまった。この勝負に勝てばランク四となる。
どうやら、異例の対応らしい。まさしく規格外の男だ。
「なんであたしがその負担を一人で担うわけなの!?」
眼前に迫った黒色の【ヴラーク】が、豪炎に飲み込まれる。さらに、近場に向けて炎で生成した槍を投擲。六体撃破。
会場上部のスクリーンに、六点分のポイントが加点される。黒色の【ヴラーク】は一点、白色は二十点の計算。
唯一紅舞にとって救いだったのは、ルール上直接的に相手を攻撃できないこと。しかし、妨害は可能だ。そのため、人数差がある分、時間効率にも限界がある。
残り五分を切った瞬間、白色の【ヴラーク】が出現。現在の点差は二十四点。倒すことができれば、逆転の芽は十分にあるだろう。
「まだまだっ……!」
対戦相手が既に攻撃を始めている。紅舞も参加し、遠距離から弱った瞬間を狙って横取りしようと思考していた。
観客の声援や罵声が、会場の熱気をますます高めている。だが、一番の原因はやはり紅舞の
灼熱の浜辺と化した会場で、紅舞は絶え間なく
最初はエリア全体を燃やして優位についていた紅舞だったが、今はその姿は衰退し、大きく点差が開いてしまっている。
「っ……あの二人はまだ来ないのかしらッ!?」
朝方に連絡しても部屋には居らず、紅舞は仕方なく一人で団体戦に挑むしかなかったのだ。
愚痴を吐きながら、唇を舐める。
目標の【ヴラーク】が狼狽えたその瞬間。見逃すことなく、最大火力の火球を形成すると、会場を自体を飲み込む勢いで対象に向かう。欲望のままに物質を蓄え、肉薄した火球。だが、火球は触れられることなく壊された。
「っく……!」
ランク五の相手によって、呆気なく凍らされてしまった。味方らしき人物がその隙に【ヴラーク】に攻撃を仕掛け、ポイントは相手に付与。
点差は約五十点。制限時間は残り一分を切った瞬間、会場全域に、白い【ヴラーク】が大量発生した。圧倒的な光景に、思わず喉を鳴らした。これが【
苦渋の顔を貼り付けた紅舞は、姿勢を崩し膝をついた。余裕のある表情で、ハイタッチをしている姿を対戦相手は見せている。手は尽くしたが、これ以上は手に負えない。
「っ……」
時間も残り少ない。負けを認めたくはない。だが、最初から人数差があったのだ。
ここまでか――紅舞が空を仰ぐ。瞬間、天井が大きくへこんだ気がした。首を傾げた刹那、爆発的な音が会場を埋め尽くした。視界一杯に広がるのは、唐突に開けられた大穴と、降り注ぐ残骸の嵐。
天井を形成していた壁は瓦礫となり、無数のゴミとなって落下していく。
外界と繋がったその大穴から、残骸に紛れて二人の人影が覗いた。一人はスカートを恥ずかしげに押さえる銀髪の少女、片方は黒髪で片手に杖のようなものを掴んでいるらしい。
映画のワンシーンとも呼べるような光景の中、男女二人は手を繋ぎながらゆっくりと地上へ向かっていた。
「兄様、ここは……団体戦会場のようでしてよ? あら、紅舞さんもいらっしゃるようですわ」
天井破壊によって音響機器が狂ったのか、二人の会話がマイクを通して会場全体に届く。
「あー、そういえば今日だったっけか? 団体戦の決勝って」
「対人戦……というよりも、あの【ヴラーク】を倒せば良いのではないでして?」
「夫婦漫才してる場合じゃないわよ、馬鹿兄弟っ! とにかく【ヴラーク】を倒して……時間がないから早くしてッ」
全身の力を喉元に注ぎ、真上に向かって叫ぶ。
「あぁ、兄様とのウエディングロードはまだでしょうかっ」
「仕方ないな……夜雪、刀を俺にくれ」
「喜んであげますわ、兄様」
やれやれ、と暗翔が呆れたような口調で発すると、黒紫塗りの刀が片手に納められる。
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