三十三話 姉妹2
「お、お姉ちゃんッ……!」
痛みを押し殺すかのように唇を噛み締め、男性を見上げる。
すると、彼は逃げようとした妹の手首を掴み、獰猛な笑みを浮かんでいた。
「あぁ、なんと可愛らしい幼女達なんだ。安心しなさい。一人ずつ丁寧に調教してあげるからさ」
「っ……妹を離しなさいッ」
「離す必要はないさ。これから永遠の愛を僕が教えてあげるのだからね」
わたくしの睨めにも動じない男性は、上機嫌気味に鼻歌を鳴らす。凌辱の腕が、華奢な足元を震えさせている妹の胸元へと降ろされていく。
次の瞬間。
「連続幼女誘拐犯だな?」
別の男性の声色が小さく発せられたのと同時。
目の前に、真っ赤な液体が散った。続いて、喉奥から搾り取ったかなような悲鳴が鳴り響く。
「があっっっ……ッ! ァァアっ」
「推定二百四十人の幼女を誘拐、強姦、殺害だったな? 恨む人間も当然いくらでも存在するだろう」
倒れ込み騒ぎ立てる男性とは対照的な、低音で闇を
多量の血液を地面に垂らし続ける身体。いつの間にか、青年がそばに立っていた。べっとりと赤色の液体が染み付いている刃物を、片手に握りしめながら。
ツン、と生々しい鉄分の臭い。
「……っ、あなたは?」
「雇われの暗殺者だ。今回のターゲットのように、目標を葬る仕事さ」
唇を小刻みに震えさせている妹が、青年の視線を浴びると尻餅を付いてしまう。即座にわたくしは、庇うように妹の前に回り込んだ。
先程一人の命を奪い取った青年の腕が、こちらに伸びてくる。
「わ、わたくしは構わないわ。でも、妹だけは見逃してはいただけないかしら……ッ」
「お姉ちゃんッ……!」
ぎゅ、と背後から肩が掴まれる。妹の小柄な手に、力が籠っている。
目の前から迫った腕は、わたくしの頬に触れた。ひんやりとした指先と、肉厚な皮膚。わたくしが目を瞑ると、そっと撫でられる感触が走る。
「これから二人はどうしたいんだ? いずれは同じような輩に襲われる運命だろう」
「……」
言葉が出ない。発声法を忘れた訳ではない。ただ、突き付けられた現実に対して抗う術を持っていないため、返答できないだけだ。
肩に置かれた妹の手に触れる。目尻に熱い情を感じた時には、無数の涙が頬を伝っていた。喉元が潰されるかのように、呼吸が荒さを増す。胸元を手で押さえ込むと、唇を噛み締めた。
「二つの選択肢がある。一つは、俺の組織に保護され暗殺者として生きること。二つ目は、このまま選択を放棄して、死ぬことだ」
答えは――決まっている。
抗うためには、決断をしなければならない。その機会が、目の前にある。息を吸い込み、青年を見上げた。くぐもった路地の空気を押し返すような声量で、思いっきり叫ぶ。
「わたくしは……こんな人生を変えたいですわッ!」
ふっ、と青年の口端が、緩んだような気がした。
「二人を歓迎しよう――あぁ、始めようか。
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