上竜山の朝日

若福清

第1話 また2人で見に来ようよ

登場人物。


山下やました光希こうき

性別:男

年齢:23

身長:158


安立あだち登華とうか

性別:女

年齢:24

身長:163





ここは自然大国と呼ばれている“グリンモ”。世界で1番、多くの山が並ぶ国である。



光希こうき君~。大丈夫~?」


そう安立あだち登華とうかは後ろを亀の様にノロノロとついてきている彼氏の山下やました光希に声をかける。


2人は今、この町で1番高い“上竜山じょうりゅうさん”と言う山を登っていた。


「はぁ、はぁ。この山は…登山素人が登る山じゃ…ない。」


そう光希は息をきらしながら愚痴をこぼす。


そんな光希の姿に登華は1つ呆れたため息をこぼすと光希に近づく。


「この町で1番高いって言っても、この自然大国に並ぶ山の中ではそこまで高い山じゃないわよ。」


そう言いながら登華は光希の背中を押す。


「学生時代ずっと登山部だったお前とずっと帰宅部だったオレとでは体力が違うんだよ。」


そう光希の文句は止まらない。


「はいはい、グチグチ言ってないで登る。男でしょ?絶対に登って良かったって思うから、頑張る。」


そう言いながら登華は光希の背中を押し続ける。



それから数時間後。

2人はやっと頂上にたどり着く。


「ふへ~ぇ。もうダメだ~ぁ。」


そう疲れきった光希はベンチに倒れこむ。


「ほら、光希君。こっち来て。

疲れなんかふっ飛ぶからさ。」


そう登華は光希に手招きする。


光希はノソノソとその手招きに従う。


そして、登華の横に立った光希の目の前には綺麗な自然の世界が広がっていた。


その世界に気づいた時、光希は初めて空気の美味しさにも気がつく。


「ねぇ?登ってきて良かったでしょ?」


そう登華が光希に微笑みを向ける。


「…あぁ。そうだな。」


そう光希は呟く。

その声に疲れの色は消えていた。



「はい、光希君。これよろしくね。」


そう言って登華は光希の前に袋に入れられた細い何かを置く。


「なんだ?これ?」


そう光希は目の前に置かれた物が何かを理解していない。


「テントよ。テント。」


そう登華は答える。


「テント?お前、そんな物持ってきてなかったろ?」


そう光希が疑問を口にする。


「この国のほとんどの山の頂上ではテントなどのキャンプ道具が借りれるのよ。

今時は登山キャンプは気軽に楽しめる時代なの。」


そう登華が説明する。


「だったら、立てるまでやってほしいものだけどな。」


そう文句を言いながら光希は袋からテントを取り出す。


「追加でお金を払ったら、立てるまでやってくれるわよ。でも、キャンプの楽しみは可能な限り自分達の力でやる事でしょ?」


そう登華は微笑む。


「そういうもんか?」


「そういうもんよ。

じゃ、テント立てはよろしくね。」


そう言って立ち去る登華の背中に光希は尋ねる。


「まてよ。お前はなにすんだ?」


そう聞かれて登華は立ち止まり振り返る。


「夕飯の準備よ。キッチンも借りてるから、そっちに行くの。」


そう答えると登華はキッチンがあるコテージへ足を進める。


「さいで。」


そう納得すると光希はテントを立て始める。


(さて、何を作ろうかな?)


そう登華は食品販売のコーナーにある食品を見ながら考える。


(まぁ、定番のあれでいきますか。)


そう作る料理を決めた登華は食品を買っていく。



「おぉ。上手く立てれたじゃん。」


そう光希の立てたテントを見て登華は誉める。


「まぁな。最近のテントってのは素人にも優しくできてんだな。意外と簡単に立てれたよ。」


そう光希は満足そうな表情を見せる。


「…ん?この匂い。カレーか?」


そう光希が尋ねる。


「正解。キャンプの定番でしょ?」


そう言って登華は片手鍋のふたを開ける。


「おぉ。美味うまそう。早く食べようぜ。

腹へったよ。」


そう光希は片手鍋の中を覗き込みなが言う。


「じゃ、ご飯持ってくるから待ってて。」


そう言うと登華はコテージに戻っていく。



「ふ~ぅ。美味かった~ぁ。」


そう満足そうに光希は自分のお腹をさする。


「やっぱり、外で食べるご飯はいつもと違っていいわね。」


そう登華も満足そうに微笑む。


「だな~ぁ。」


そう返事をしながら光希は寝転がる。


そんな光希の目の前には宝石の様な星達が輝く綺麗な夜の世界が広がっていた。


「…本当…山の上の景色は下で見るよりも綺麗な景色ばっかりだな。」


そう光希は感動した声で言う。


「でしょ?明日も楽しみにしといて。

もう1つ、最高に綺麗な景色が見れるから。」


そう登華は微笑む。


「それは楽しみだ。」



次の日の朝。


「ほら、光希君起きて。」


そう光希は登華に起こされる。


「もう1つの最高に綺麗な景色が見れるわよ。」


そう言って登華は光希をテントの外に連れ出す。


連れ出された光希の眼前には眩しいほど綺麗な“朝日”が飛び込んでくる。


「・・・確かに…これは綺麗だ。」


そう光希は感動した声をもらす。


「・・・でも、まだ私が1好きな景色にはなってないな。」


「え?」


そう光希は驚いた顔で登華に聞き返す。


「ううん。何でもない。

どう?山登りハマった?」


そう登華は尋ねる。


「・・・まぁ、悪くはないかな。」


そう光希は目線を朝日に戻して答える。


「だったら、また2人で見に来ようよ。

この景色を。」


「…あぁ。そうだな。」


そう光希は答える。



下山し終えた光希は死にそうな様子でベンチに倒れこむ。


「ふへぇ、ふへぇ。もう歩けませぇん。」


そう光希は疲れきった声で言う。


「まずは体力作りからね。」


そう登華は呆れたため息をこぼす。

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上竜山の朝日 若福清 @7205

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