5-3
黒髪オールバックで
しかし、芙蓉が再び窓の外に目を向けようとした時、今まで
「君はなぜ戦う」
ジェフリーの方を向くと、彼はブラウンの
「約束を守るため、です。多分……」
我ながら
「我々としては、君の協力は大いに助かる。今回の作戦が失敗すれば、
「さっき言ってた『戦争』って、そういうことですか」
「そうだ」
「何も、ここを戦場にしなくても……」
「
それに納得できなかった芙蓉は、ジェフリーに
「ギメルは……僕が会った天使は、人間を
「問題はそこではないんだよ。重要なのは、天使が誰の味方をするのか。そして、誰が天使の味方をするのか。裏を返せば、天使は『敵』にもなり得るということだ」
「天使が『敵』になる……」
「世界には様々な人間がいて、様々な考え方がある。だから、戦争が起こる。天使だろうと同じだ。人間が起こす戦争に新しく強大な勢力が加わるだけで、世界が良くなるとは限らない」
芙蓉と理亜は一度ギメルに殺されかけている。天使は必ずしも人類全員の味方というわけではない――だから彼らは武装しているのだ。
「……だとしたら、天使はなんのために
「世界をマシにするためだ」
「さっきと言ってることが
「いいや、
ジェフリーが窓の外を
「去年だけで、
にわかに現実を突きつけられ、芙蓉は何も言えなくなった。
そんな彼に、ジェフリーが
「だが、人間も馬鹿ではない。人々は常に正しさとは何かを探している。自分たちの
「ロゴス、ですか」
「そうだ」
芙蓉には、それが
「天使が存在することでよりよい世界になるのか。それとも、世界は
ジェフリーが
「いずれにせよ、余計な手出しは求めない。天使のお導きなど
そう言い残して、彼は
「あの」
そんなジェフリーを、芙蓉が引き止めた。
「なんだ?」
ジェフリーが振り返る。
「スマホ忘れてますけど」
「あっ」
先ほどまでとは打って変わって、
「……赤ちゃん?」
ジェフリーにスマホを手渡しながら芙蓉が聞く。
「娘だ。そろそろ一歳になる。可愛いだろう」
「可愛いですね」
芙蓉がそう返すと、ジェフリーが満面の笑みを浮かべる。そして、彼は
「我々には君の力が必要だ。あと十分程度だろうが、出撃に備えてよく休んでおけ」
*****
がらんとした休憩スペースに一人残された芙蓉は、何も考えず、ただぼーっと窓の外を
白い空を眺めるのにも
――そこで、誰かに肩を叩かれた。
芙蓉が驚いて振り返ると、そこには銀髪金眼の天使が立っていた。
「すみません、驚かせてしまいましたね」
ギメルである。
おかしそうにくすくすと笑っている彼女は、午前中と同じ夏服セーラーにスカート、その下は
「今の、わざと?」
「少し遊んでしまいました。申し訳ありません」
満足げな表情を
「芙蓉さんの様子を見に来ました。思っていたよりも元気そうでよかったです」
言いながら、彼女は振り返って
「……ごめん。やっぱり僕は天の
それを伝えずにはいられなかった。
芙蓉はこれから、ギメルが修理してくれた〈ロゴス〉を使って、彼女が建造を進める〈天の
「わたしは許します。それがあなたの選択であるならば」
そんな芙蓉に、ギメルはふわりと笑いかけた。
「ですが、ダレットが
「それは怖いね」
「そう言われるのは悲しいですが、わたしは許します。こちらが全力なのですから、芙蓉さんも
言いながら、ギメルは小さく
多分、彼女は芙蓉を
「なんで僕を気にかけてくれるの?」
不思議に思った芙蓉が聞くと、ギメルはくるりと背を向けてしまった。
「芙蓉さんには、天使を好きでいて欲しいんです。天の
ギメルが振り向いて、ちらりと振り返る。
「わがままでしょうか?」
「いや。少なくとも、ギメルを嫌いになることはないよ」
「そうですか」
少しだけ
「さて、わたしはもう行きます。そろそろダレットが気づいてしまうかもしれません。彼がここまで来てしまったらたいへんです」
言いながら、天使は芙蓉の横を歩いてすれ違った。
芙蓉が振り返ると、そこにはもう誰もいない。がらんどうの休憩室に、窓の外から白い光が差し込んでいるだけだった。
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