あなたに包まれて

ダイダライオン

大学一年目。春

第1話 自己嫌悪



 私、石柄小羽いしがらこはねはどうしようもなく自分が嫌いだ



 私の家は母子家庭で、基本家には二つ歳の離れた兄と私の二人っきりになる事が多かった。


 そういう母がいないタイミングで兄が私の体をベタベタ触り始めるのだ。

 

 いつから触られるようになったのかは正直覚えていないのだけれど、気づけば触られる日々が普通になってた。


 高校に上がっても続いてたから、本当に高校の頃は生きている気がしなかった。


 「気持ち悪い」「触らないで」のどちらかでも言えてたら、結果は変わったのだろうか、と今でも思う。


 そんな日々が続いたせいなのか、自分は穢れてる、嫌なことを断れもしない人間なんだ、と思い込むようになってしまっていた。

 

 母子家庭だったし、母は情緒がおかしい人だったから、頼らなかった。頼れなかった。


 実は何度か耐え切れずに言おうとしたのだけれど、「兄に体を触られてる」なんて、とてもじゃないが言い出せなかった。


 引かれたら?気持ち悪いって言われたら?そんな風に考えたら、どうしても無理だった。


 そしてとうとう耐え切れず、大学生になるのと同時に私は家を出た。

 思い返す度に吐き気がするような過去を乗り越えて、一から全てやり直すんだ、と自分に言い聞かせて。



 バタバタとした大学入学の終わり、ようやく生活も落ち着いてきたそんなある日の事だった。


 いつも通り一人で大学へ向かっていると、向こう側で友達らしき人物と喋っている彼女が居たのだ。


「嘘、、でしょ、、?」


 その彼女とは、私が高校の頃好きだった花羽はなわあかねさんだった。


 一目惚れだった。神様のいたずらと言っても過言ではないくらい美人で、誰にでも向ける優しさは、兄の事で心が壊れかけていた私にとって、天の救いにも見えた。


 そんなある日に彼女は兄と付き合っていると知ったのだ。


 あの日は、女である自分に、信じたくない現実にどれだけ絶望して泣いてたか覚えていない。


 そんな辛くて苦い出来事を全て忘れたくて、少し遠くの大学にやってきたというのに、なんで、、?どうして、、?


 逃げるようにその場から離れて、そこからはどうやって帰ったか覚えていない。


「はぁ、、、」


 どうしよう、、せっかく一から状況をリセットして大学生活を始めようと思っていたのに、これじゃあ、高校の頃を思い返してしまう。


 もう、あんな辛い思いはしたくない。


 どうしようかと考えていると、一つの妙案が浮かんだ。


 何事もなかった、そうあかねさんと接すれば、あの頃抱いていた感情にも踏ん切りがつけられるのではないか、と。

 幸いなことに私は高校の頃好きだとあかねだんには伝えていなかった。



「うん、これなら、、!」


 


 この時はあかねさんと〝普通″ の友達関係になれると信じて疑わなかった。

 まさか、花和あかねさんが、あんな子だなんて思ってもみなかったのだから。。


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