審判の部屋
街の中心、塔を目指して歩いていると、徐々に大きなエリアにたどり着いた。広場を抜けると、目の前には圧倒的な広さを誇る区域が広がっていた。どうやらここが町の中心、塔の根元に位置する場所のようだ。この街は、塔を中心にして円形に広がっているように見える。塔と思っていた構造物の下部は実は大木で、その巨大な幹の周りに広大な空間が広がっていた。その高さはかなり高く、夜のように見慣れない照明が明かりを灯している。その場は数キロに渡って様々な人々が集まり、活気に満ちていた。
目の前には、露店が並び、まるで祭りのような賑わいが広がっている。ダンジョンから得た資源を売る市場や、武器や防具を整えているランダーたちの姿が見え、鍛冶をするドワーフのような職人が槌を振るう光景も見える。
「すごい……こんなに人が集まっているなんて。」
思わず声が漏れるほど、活気が溢れ、エネルギーに満ちた場所だった。私の胸は高鳴り、まるで祭りに来たような気分にさえなった。
露店の物珍しいものを見ながら進んでいくと、中央にはウッドハウス風の建造物があり、その周りには長い行列ができている。建物を突き抜けるように、巨大な五角形の柱が立っており、あれこそが公館と呼ばれる建物であり「審判の部屋」だと悟った。列に並ぶ人々は、自分の能力を覚醒させるために待っているのだ。
「適性を知るためにここに来た。決して期待するんじゃない。」と自分の心に言い聞かせながら、私は列に並んだ。
列の前からは小さな会話が漏れ聞こえてくる。
「覚醒して俺は新しい王を目指すんだ!今日こそ覚醒するぜ!」 「はぁ、来てはみたけど、今日も覚醒なんてできないだろうな」
毎日ここに来て覚醒を祈っている人たちなのだろうか?それにしても、思っていたよりも列は短い気がする。そんなことを考えていると、列が急速に進み始めた。
突然、中央の五角形の柱が赤く光り始め、燃え上がった。柱の三分の一が火に包まれ、その場の空気は祝福と嫉妬に満ちている。どうやら誰かが覚醒を果たしたようだ。
「火属性で三分の一か……かなりの魔力量だな。」 「この魔力量なら戦闘ランダーだろうな!」
「でも火の系譜だなんてなぁ」
周囲から聞こえる声で、柱の高さや具現化した炎がその人の魔力量や適性を示していることがわかった。火属性は戦闘向きのようだ。
しばらくして、列は再び進み始めた。建物に入り、私はようやく審判の部屋へと近づいた。中は意外にも簡素で、まるで市役所のような雰囲気だ。いくつか列や人混みがあり、その中の一つの列では、掲示板に貼られた依頼書のような古紙を持って受付に向かう人々の姿が見える。どうやらここはギルドのような場所でもあり、ランダーたちが依頼を受けて動いているらしい。
そんなこんな周りを眺めているとついに自分の番が来た。
受付に立つと、突然言われた。
「整理券はお持ちですか?」
「え?整理券が必要なんですか?」
「整理券をお持ちでない場合、紹介者はいますか?」
「アカデミーの教授、ロームという方に紹介されました。」
「ロームさんの紹介ですか。何かお渡しされていませんか?」
私はロームが残していった古紙の地図を渡すと、受付嬢は頷き、私を審判の部屋へと通した。
部屋の中は独特だった。五角形の壁面は全て鏡であり、天井はどこまで続いているのかわからないほど高く見えるがその他は中央に浮かぶ水晶が一つだけあった。他には何もなかった。独特かつ壮大さを感じる異質な空間に感じた。
恐らくはこの水晶に触れることで何かが起こるのだろうと期待を膨らませ、恐る恐る触れてみる。
次の瞬間、部屋の床と壁が消えたように感じ目の前の水晶が激しく光り始めとても目を開けていられなかった。ゆっくり目を開けると壁面の鏡も床も天井さえ消え、まるで宇宙のような空間に様変わりしていた。無重力のような感覚に包まれ、まるで空間そのものが浮遊しているような感覚に陥る。先ほどまで高鳴っていた鼓動は不自然に落ち着き、自然と全身の力が抜け緊張が解けてゆく。
あまりの眠気に目を閉じてしまいそうになる。
「何を望みますか?」――突然、頭の中に響いた。
何故か心地よい声が眠気を誘う。
誰にも従わず、自由に生きる力……そんなバカみたいな願望が一瞬頭をよぎったが面倒だ。自由で怠惰に過ごしたいもんだな。私は緊張が解けているからかそんな考えが頭に流れた。
「選択は終了しました。この世界での健闘を祈ります」
我に返り、今のが審判の部屋の選択であったことを悟る。
「ちょっと待て!今のは無しだ!」
「さっき聞いた雷帝みたいに雷操れるとかそんなのが俺はいいんだよ!」
私の抗議も虚しく、部屋はさらに強い光に包まれていく。視覚と聴覚が一瞬にして奪われ、次に響いたのは全身に響く轟音だった。
「バリーン!」
その瞬間、耐え難い虚脱感に襲われ私の意識は途絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます