第5話 アオのハコ

 物語の舞台は中高とエスカレーター式に上がれるスポーツ強豪校である栄明えいめい中学・高等学校。

 登校前の時間帯はバスケットコート六部屋ぶんくらいの広さがある体育館で、自主練ができる学校でもあった。


 ──そんな栄明学校に通う高校一年、バトミントン部の猪股大喜いのまたたいきは朝早くから一番に会いたい人がいた。


 気になる相手は女子バスケ部所属である鹿野千夏かのちなつ先輩。


 いつものように足早で体育館に到着すると、今日も千夏先輩がバスケのボール片手にエルボーパスの練習を決めていた。

 先輩の真剣なまなざしが綺麗すぎて、飛び立つ羽を無くし、体育館に迷い込んだ天使のようにも見て取れた大喜。


 その美貌に初めて会った時から運命を感じていた大喜は千夏先輩に自分の存在を知ってもらうため、とりあえず自身の名前を教えようと奮起する。


 ──将来、千夏先輩と結婚したいと呟きを漏らすのを尻目に『いや、そりゃどう足掻いても無理だろ』と同級生の友達、笠原匡かさはらきょうに鋭くツッコまれる大喜。

 相手は運動神経抜群で向かう所、敵無しの次期エースの腕前。

 比べて大喜は下手すぎてインターハイの予選すらも通らないヘボい才能。

 名前どころか、空気としか思われていない存在だと……。


 そこへ新体操部の蝶野雛ちょうのひなからもからかわれ、大喜の恋バナに興味津々な雛だったが、お相手の千夏を見るなり、高望みは良くないよと突っ込む始末……。


 だが、高嶺の花じゃなく、身近な花になって欲しいとめげずに少しでも千夏先輩とお近づきになりたい一心の大喜。

 そう思って毎日学校に通う大喜だったが、ある日、体育館の扉の前で寒空の下で座っている千夏先輩がいた。


 何事かと尋ねた大喜に千夏は笑いかけ、可愛いくしゃみをし、小さく体を震わす。


『寒いのならこれ付けて下さい』とマフラーを渡す大喜。

 千夏は驚きながらもマフラーを膝下にかける。


『ありがとう、いのまたたいきくん』


 千夏先輩の方から自分の名前を言ってくれて、俺のことを意識してたんだと思わず小躍りしたくなる大喜。


 しかし、ただ単にマフラーのタグに平仮名で名前を書いていたのが理由で、大喜の想いはぬか喜びで終わるのだった……。


 ──進展がないまま、季節は春を迎え、猪俣家に新たな家族が加わるが、そのお相手が千夏だった。

 猪俣家と鹿野家の奥様通しは元バスケ部員だったことは知っていたが、地に足がついてるからに、まさかのドッキリでもないらしい。


 これからお世話になりますという大和撫子な千夏の挨拶に心をかき乱す大喜。


 好きな女子がウチに居候に来た。

 交際経験無しの恋する高校生には色々と刺激が強すぎる……。


 ──オープニングテーマ曲は「Same Blue」。   

 あの有名ロックバンドOfficial髭男dismの楽曲である。

 千夏の息遣いのアップからバトミントンの球と、千夏と大喜、二人の部活風景が交互に流れていく。


 玄関で脱ぎ散らかした運動靴の横に、綺麗に並んでいる皮のローファー。

 サビへと流れる二人の性格が絵柄からでも手に取るように分かり、終盤は一枚絵の映像へと繋がる。


 原作を知らずとも、キャラクター像やストーリーが分かりやすいラブソングナンバーだと感じるだろう。


 エンディング曲はEveが担当している『ティーンエイジブルー』。

 10代の若者の群像劇を表現された歌詞に合わせて、映像もシンクロする。

 曲調は打ち込みであり、ギターやドラム音を癖のあるサウンドに変え、多少、加工して作っている部分も面白い。


 ──このアニメは少年マガジンからの大ヒット作品であり、バスケとバトの両方のシーンが流れるが、熱血スポーツアニメではなく、ラブコメに重視を当てた物語となっている。


 原作者が女性作家なのを意識してか、絵柄も綺麗で繊細なタッチでもあり、気合の入った映画のような作り込みである。

 少女漫画のようなキャラデザに虜となるだろう。


 ──冒頭一話から千夏先輩が海外に転勤する展開も衝撃的で、親の意向に流されず、インターハイを諦めないでと精一杯の想いを伝える大喜。


 翌日の日曜の朝、昨日の弁解にハズくなり、今一番に会いたくない相手シリーズ、千夏先輩と台所で顔を鉢合わせというギャグパートも面白い。

 まさに恋愛の息抜きに混ぜた清涼飲料水のようだ。


 ──ダブルヒロインとも言える千夏と雛の魅力も満載だ。

 千夏の美人でモデルのような容姿、さらに裏表のない性格で王道とも言えるキャラでもあり、一方で雛は少々毒舌だが、千夏に負けじと美少女で可愛い系。

 天真爛漫な性格で千夏と同じく人気がある女の子だ。


 ──自身で選んだ道とはいえ、部活に対し、懸命に練習をするメンバーたちにも心を奪われる。

 プロになりたいのはともかく、良い成績で大学に進学する(スポーツ推薦)ためかの意見もまだしも、高校生活に名を残したいと、がむしゃらに練習をする生真面目な千夏。


 そんな千夏の背中を追うように前を向いて歩き出す大喜。

 部活を通じて、ピュアな二人の恋心を応援したくもなる。


 ──誰もが憧れる学生時代の恋。

 燃え上がるように美しく、激しく彩る恋は自身の運命さえも変えてしまう。


 学生という期間限定の限られた枠の中で、一人の女性に恋した大喜は念願通り、千夏とゴールインするのか、

 お互い苦労して恋人になれても、価値観の違いや、すれ違いで別れてしまうのか。


 部活よりも恋愛を重視し、その割りにはあっさりとした、誰もが予想できない初々しいラブコメ。

 二人の運命(未来予想図)は恋のキューピッドのみぞ知る……。

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