奇探

小箱癒切

【第一章】オカルト探偵事件簿

【第一節】箱入り娘

第1話

 某県管津くだつ酔花すいか

 これといったパッとした魅力は無いが、歴史だけはある市。

 その酔花すいかと呼ばれる場所に構えられているある事を生業としているオレ、猫阻びょうそ傀鼠かいその目の前に、一人の探偵が居た。


「それで、探偵さん。一体何の御用で」


 探偵に静かな圧を掛ける。


 目の前にいるのは同じ酔花にある探偵事務所を構える探偵、探召さぐめ

 五件の特異事件しか解決しておらず、特異以外の事件を解決していない為、特異法に基づいて未だ認められていないものの。五件の特異事件を解決したのにも関わらず、精神的異常は勿論、そもそも死んでいない点を含め、将来有望な【特異探偵】になるのではないかとされている。

 ただ、特異探偵だろうが普通の探偵だろうが、結局のところ、どちらにせよ面倒。特異探偵の方が面倒なのはそうだがな。


 静かに圧を掛けたが、流石は、後五件で正式に特異探偵として認められる見習い殿。

 吃驚する位動じない。これ位、どうってことないってことか。

 正式な特異探偵自体、一度見た事はあるが……うん。素質あるな此奴。


「私の助手になっていただきたい」

「はァ?」


 何言ってんだこいつ……。

 一応特異探偵どうこう以前にちゃんとした探偵ではある。

 此奴は通常の探偵業務一切熟さないし、特異事件でない事が分かったら放り投げるタイプの奴だが。


 いや、しかし、はァ?


 此奴は一体何を言っているんだ。

 探偵なんだから、オレの業務内容とか把握している筈だろう。

 そしてその把握内容から、オレと特異探偵が相反する存在である事もまた、分かっている筈だ。


「……とりあえず、どんな依頼だ」


 とりあえず、話を聞かねばならない。

 じゃなければ、一体なんなのか分からない。


「現在、管津くだつ市全体で、連続猟奇殺人事件が発生しています」

「それ、特異探偵がやる事か」


 思わずそうツッコミたくなる内容。

 明らかに警察と、正式に認められた殺人事件専門の探偵がやるような内容。

 特異事件以外を請け負うとか、絶対あれだろ。


「天変地異の前触れか。特異事件に触れ過ぎたんだ。特異専門の精神病院あるだろ、行ってこい」

「気軽に進めるの、辞めてくださいますか。私は正気ですよ、気が狂ったのは特異探偵の雛重ひなしげさんの方です」

「あのベテランが気ィ狂ったのか、肉盾も減って世も末だな。で、なんでまたそんなふっつーの事件を。猟奇つったってイコール特異ではないだろう」


 軽い応酬をした後、そう聞くと淡々と事件について告げてくる。


「この連続猟奇殺人事件は、『管津市箱入り娘事件』と命名されています。被害者は、25歳以下の管津市に存在する女性が多数。国籍、人種、そもそも管津市に住んで居るかどうかは問わず、管津市に居て尚且つ25歳以下の女性であれば対象となります。なお、この事件における女性の定義は、生物学上メスの人間となります。生物学上メスのカマキリや牛や鶏等は対象外という事です」

「管津市に居る25年以下生きたメスのホモサピエンスが殺害対象ってことか。色好みし過ぎだろう」

「26歳以上は眼中にないみたいですね。0歳の女児は選ばれていますが」

「赤子もいけるのかよ」

「はい。被害者は順番に12、24、25、9、0、13、2、11、11、1、14、4、5、10、22、24、25、20、19、1、5、6、7、8ですので、0歳の女児も余裕で選ばれていますね。因みに、それ以外では一切の法則性はありません」


 淡々と語り、口を閉ざし、此方に目をやる。

 良くしゃべる口が閉じたのを確認した後、少し考える。

 考えて、頷く。


「分かった。協力してやる」

「助かります。正直、猫の手も借りたい状態ですので」

「だろうな、こんなところ頼る位だしな」


 そして更に情報を聞く。

 流石にコレだけは無理。

 この様子からして色々調べてる、もしくは警察関係者からそれなりに情報貰ってるだろうし。


「異常に殺されまくっていて、しかも、其処迄分かっているという事は死体も発見されているな?」

「はい。全て箱に入れて、管津市内の住宅や建物前に置かれたり、ポストに入れられています」

「それで、犯人が分かっていない。骨だけであっても死体さえありゃ大体の事は分かる。どうやって殺されたのかだとか、犯人像」

「犯人像は、10から70代の男女問わず。また骨を何らかの方法で全て・・引き抜く技術を持つ。なお、殺害方法は捻じった事。また、その際に骨を全て・・抜いて行っている。骨を抜く時は勿論、殺害時も道具を使った可能性は低いような高いような感じで良く分からない。また、睡眠薬などの動けなくする薬系統は使われていない。更に、死体は捻じったり折ったりして箱の中に入れている。箱の大きさは横30cm、高さ50cm」

「とんでもねぇな、色々と。殺すまでに拘束した奴位居る筈だ。なら複数犯の可能性。それに箱で送られてるって言ってるが、どういう風に送られている」

「普通なら複数犯。宅配物の中に紛れて。もう一つの手段はあるものの不明」

「何故」

「監視カメラが一瞬だけ砂嵐になった」

「その砂嵐の時に入れられていると?人の目は」

「何れも人の目は無し。何かしらのトリックの線を疑い捜査をしたものの不明。更に、監視カメラの砂嵐の細工についても調査したが原因不明」

「……はぁ。なるほどね。完全犯罪っすか」

「うん。警察や捜査に加わった探偵達は皆"特異事件"と証明し、それが認められた。ので、我ら特異探偵に」

「特異課」

「別件。世界滅ぶらしい」

「じゃあ解決しなくてよくね」

「世界が滅んだとしても、受けた事件は解決しなければならない」

「プライドたけぇ。んで、あてあるの」

「ん」


 差し出された端末の画面には、山奥の神社の写真が表示されている。


咬泣かむな神社。とりあえず、此処が関係している可能性大」

「根拠」

「箱と女に関する逸話がある」

「了解」


 さっさと準備を整えねぇとな。

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