12月8日 蝶蜜飴

 顔色が悪いですが、大丈夫ですか? 蝶の飼育区域の見学はやめておきます? おや、そちらは行きたいんですね。不思議な人だ。


 神殿では蜘蛛だけでなく、蝶も飼育されています。漆黒の大きな羽に金の目玉模様が美しい、非常に華やかな黒怪ですが、毒針を持っているので防護服が必須です。


 蝶たちは群れで暮らし、木の洞の中に甘い蜜を貯めています。蜂の巣に似ていますが、内部はハニカム構造ではなく、なんともいえない複雑な……そうですね、万華鏡とか薔薇窓とか、そういった雰囲気の作りになっています。


 幼虫たちが羽化したタイミングを狙って巣ごと取り出し、蜜を採取するのも神官たちの仕事です。蜘蛛から糸を採るのもそうですが、ここの神官たちはみな、探索者でいうところの優秀な「調教師」でもあります。笛の音で黒怪を操るプロフェッショナルです。


 ほら、あの木。幹が星空模様のようになっているでしょう。蝶の群れが羽を広げてとまっているので、あんなふうに見えるんです。あの木の上に開いている穴が蝶の巣ですね。


 巣の中の蜜は、意外にも光毒の材料になります。光石は水には強いのですが、不思議なことに蝶の蜜に溶ける性質を持っているので、砕いた石のかけらを蜜で溶いてナイフや鏃に塗るのです。


 とはいえ、もちろん蜜に毒は含まれていません。対黒怪用の毒になるのは光石の方。蜜はほんのり銀桜の香りがして大変美味しく、お茶やお菓子に混ぜても絶品ですし、煮詰めて飴にしたものも宝石のようで綺麗です。


 あちらの東屋で蜂蜜茶を淹れてくれるそうですから、ごちそうになりましょうか。ついでに蜂蜜飴をお土産に貰っていきましょう。ちょうだいって言えばいくらでもくれますよ。

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