みまちよしお脚本大全集
みまちよしお小説課
ぷよぷよ 全中華プロジェクト!
〇テント・中(夜)
フェーリ「来る……。来るわ!」
ダウジングを持って唸る。
レムレス「どうしたんだい?」
クルーク「明日は雨かな? 晴れかな?」
フェーリ「天気を占ってるんじゃないわよ」
フェーリ「やがてプリンプタウンに現れる、キョンシーの魔導師見習い。その子が、プリンプタウンに、あ・ら・しを吹き上げるわ……」
レムレス「うーん。嵐ねえ」
クルーク「おいおい。新聞には明日は晴れるとなっているが? ぐはっ!」
フェーリにダウジングで殴られる。
フェーリ「しかも、ちょっとひと際変わった嵐よ」
レムレス「どんな嵐を巻き起こすんだい?」
フェーリ「……。ちゅ・う・か・な」
〇タイトル
〇プリンプ魔導学校・教室(朝)
アコール「はーいみなさんおはようございます。今日からこのクラスに、新しい仲間がやってきますよー」
と聞いて、にぎわうクラスメイト。
アミティ「どんな子だろう……」
ラフィーナ「きっとかっこよくて、スポーツ万能な、すてきな方ですわ!」
と、うっとりする。
クルーク「いやいや。きっとかわいくて、勉強ができる、すてきな人に違いない!」
と、期待に胸をときめかせる。
ラフィーナ「いいや男の子ですわ!」
クルークをにらむ。
クルーク「女の子だよ!」
ラフィーナをにらむ。
ラフィーナ「男の子!」
クルーク「女の子!」
と、言い合いをつづける。
アミティ「あ、あはは……」
リデル「やさしい子だといいですね」
シグ「あ、モンキチョウ」
窓の外で飛んでいるモンキチョウに夢中のシグ。呆れるリデル。
アコール「では入ってきてください」
という指示で、教室の扉が開かれる。
アミティ・ラフィーナ・クルーク・リデル・シグ「!」
目と口を見開くアミティ・ラフィーナ・クルーク。口元を押さえて目を見開く
リデル。娘々のいる教卓に目を向けるシグ。
ヒヒーンと馬が一鳴きする。
馬にまたがっている。
クラスメイト「ええーっ!?」
アコール「あのー。馬で校内に入っちゃいけませんと、最初に言ったはずですよ?」
娘々「だってだって! 教室がわかんなくなっちゃって、歩くの疲れたから、ジャッキーを使った。それだけのことネ!」
ポポイ「ルールはルールにゃ!」
アミティ「はあ、びっくりしたあ」
ラフィーナ「馬ですものね」
クルーク「はあ、はあ……」
胸を押さえて息を切らしている。
リデル「馬が転校生かと思いましたあ……」
震えている。
シグ「……」
ぽかんとしている。
アコール「とりあえず、ここは一階ですし、ベランダもありますので、ジャッキーはそこに放してください。で、あなたの席は……。あそこです」
指をさして教える。
娘々「はーい!」
娘々「よろしくね!」
アミティに顔を近づける。
アミティ「あ、う、うん」
娘々「席隣かあ。なんでも知ってそうな顔だね!」
アミティ「あ、いや、そうかなあ」
娘々「じゃあジャッキーベランダに放してくるから、戻ってきたらなんでも教えてね」
と言って、ジャッキーを連れてベランダに向かう。
〇教室・休み時間
娘々「休み時間アルネ! なんでも教えてほしいな!」
アミティ「なんでもと言われても。なにから教えればいいんだろう?」
ラフィーナ「とりあえず、まずは自己紹介からしたらどうかしら?」
クルーク「そうだな」
クルーク「僕はクルーク。学校一成績が優秀でーー」
ラフィーナ「わたくしはラフィーナよ! 美容のことなら、まかせなさい!」
クルーク「おい! まだ僕の自己紹介が済んでないぞ!」
ラフィーナ「あなたの自己紹介なんてなくても、顔で自惚れてるのがにじみ出ていますのよ!」
クルーク「君こそお嬢様かぶれなのがにじみ出てるね!」
ラフィーナ「んだと~! もっぺん言ってみろ! ですわ!」
砂煙が舞うくらいケンカをする。
アミティ「あ、あたしアミティ! よろしくね」
握手を求める。
娘々「よろしくね!」
握手する。
アミティ「別のところにいこ? そうだ、中庭に行こうよ。晴れてるしさ」
娘々「いいよ」
〇同・中庭
ベンチに腰掛けて話すアミティ、娘々。
アミティ「どうしてこの学校に?」
娘々「魔導師になるためよ。中華魔法だけじゃなくてね」
アミティ「中華魔法?」
娘々「それは、まだ中国が漢と言われていた時代から伝わる、世のすべてを中華な世界にしてしまうという、恐ろしい魔法……」
娘々「娘々は、その魔法をマスターし、やがて全世界、いや全地球、いや全宇宙をも! 中華三昧にするのが夢なのネ!」
〇宇宙
娘々「称して! 全中華プロジェクト!」
娘々の後ろで地球が散って、中華料理になる。
〇プリンプ魔導学校・中庭
アミティ「は、はあ……」
娘々「だがしかーし!」
アミティに人さし指を突きつける。
娘々「娘々の中華魔法以外にも、いろいろな術師がいることを知ってしまって。魔導師、魔法使い……。そのすべての術師と立ち向かうため、ここに来た!」
アミティ「おお……」
娘々「だからアミティ! もしかしたら、いつか娘々の宿命のライバルになったら、ごめん」
ベンチから立ち上がる娘々。
アミティ「ど、どうかな……」
〇同・校庭
アコール「写生の時間です。好きなものを描いてくださいね」
クルーク「見ろ! 僕は憧れのレムレスを描いたぞ?」
下手くそなレムレスの絵を見せる。
ラフィーナ「……。あなた、レムレスがそんなふうに見えてたの?」
クルーク「うるさいな!」
言い合うラフィーナとクルーク。離れでスケッチブックを持って歩くアミティと娘々。
娘々「娘々はお供のジャッキーを描こうっと」
アミティ「ほんと? あの、あたしもいっしょにいい?」
娘々「そうね」
娘々「いつか宿命のライバルになるからして、どっちがうまく描けるか勝負だ!」
アミティ「あ、いやそういうことじゃなくて……」
〇同・ベランダ
アミティ「楽しく描こうよ」
娘々「あーっ!」
アミティ「なになにっ?」
フンを出しているジャッキー。
アミティ「あちゃー」
娘々「ジャッキー……」
キキーモラ「ちょっとこれあなたたちの? どうしてくれるのよ!」
アミティ「げっ。用務員のキキーモラ!」
娘々「キキーモラ?」
アミティ「お掃除が大好きで、こないだちり紙をポイ捨てした子を一時間説教したんだよ……」
青い顔をしている。
娘々「えー?」
キキーモラ「校内に馬糞をまき散らすなんて言語道断! ていうか、校内はペット禁止よ!」
モップを振り回し、剣のようにかまえる。
キキーモラ「飼育小屋のウサギとニワトリは除くけど」
キキーモラ「さあ今すぐフンを避けて、馬を学校から追い出しなさい!」
目をギラギラさせる。怯えるアミティ、娘々。
娘々「ダ、ダメ!」
アミティ「娘々!」
娘々「ジャッキーはペットだけど、娘々の家族なんだから! 来たっていいじゃん!」
ジャッキーの前に立ちはだかる。
キキーモラ「まああなた! 決まりが守れないというの?」
娘々「ジャッキーくらいいいじゃん!」
キキーモラ「いけないわ!」
娘々「いいの!」
キキーモラ「ダメダメ!」
アミティ「娘々……」
娘々「馬糞くさっ!」
鼻をつまむ。
キキーモラ「でしょー?」
鼻をつまむ。
アミティ「だあ!」
こける。
シグ「あ、アミティ」
アミティ「シグ! どうしてここに?」
娘々「あっ! ほら、あの子も虫連れてきてるじゃん」
キキーモラ「えっ?」
娘々「あれはどうなの?」
キキーモラをにらむ。
シグの頭に、テントウムシがいる。
シグ「なんか臭いから来てみた」
アミティ「だ、だよねえ。あはは……」
娘々「さあ、どうなのー?」
キキーモラににじり寄る。
キキーモラ「ええ、えっと……。それは……」
キキーモラ「シグ君! あなたのそのテントウムシ、持ち込みダメにします!」
ビシッと指さしする。
シグ「ダメ」
キキーモラ「ダメだ。この子にはなぜか言い返せない……」
アミティ「わかります……」
キキーモラ「はあ……。いいんだけど、抜け毛の掃除とか、フンの処理とかが大変なのよ。臭いもひどいし」
娘々「大丈夫! 娘々が世話するから!」
キキーモラ「ほんとにできるの? あたし、シグ君のテントウムシのことは一切介入してないから、あなたの馬のことも、一切手出ししないわよ?」
娘々「大丈夫だから!」
微笑むキキーモラ。
キキーモラ「わかったわ。じゃ、フンは処理しておいてね。あと、次はベランダじゃないどこかでさせてね」
娘々「はい!」
アミティ「よかったねえ!」
シグ「君の、ペット?」
娘々「(ムッとして)ペットだけど、家族だよ!」
シグ「じゃあ、これ、僕の家族」
微笑んで、テントウムシを指さす。
娘々「え?」
シグ「ペットじゃなくて、家族って言うところに、生き物を想う気持ちが伝わってきた」
シグ「僕たち、気が合うかもね」
アミティ「シ、シグ?」
シグ「よろしく」
と言って、立ち去る。
アミティ「めずらしい。シグがあんなこと言うなんて……。ん?」
娘々「ズッキューン!」
目がハートになっている。
アミティ「え?」
〇同・校門
娘々(声)「シグシグ~!」
シグ、振り向く。
娘々「いっしょに帰ろ! えへへ!」
シグ「うん」
〇同・教室(朝)
娘々「おっはよ~シグ!」
教室に飛び入ってくる。
娘々「見てみて! 登校中に、アゲハチョウの卵見つけたの! 写真撮ったよ!」
スマホの写真を見せる。
シグ「すごい」
〇同・外観
娘々「シグ、シグ、シグ~!」
シグ「ねむい」
〇住宅街
娘々「動物で一番好きなのは?」
シグ「虫」
娘々「じゃあその中で一番好きなのは?」
シグ「全部」
娘々「きゃあすてき~!」
〇公園
アミティ「って感じで、シグにぞっこんでさ」
アルル「あのシグに!?」
カーバンクル「ぐぐっ!?」
りんご「にわかに信じ難いですが」
アミティ「ほんとなんだよー」
りんご「なにかその、理由はあるんですか?」
アルル「そうだよ」
アミティ「えーっとね」
〇回想(回想)
娘々「娘々のこと、同じ生き物を想うやさしい心の持ち主って、言ってくれたの……」
うっとりしている。(回想おわり)
〇公園
アミティ「って」
アルル「シグ、そんなこと言ったの?」
カーバンクル「ぐ?」
アミティ「言ったのかな?」
りんご「相手はともかく、女の子なら誰だって、ドストライクに褒められれば惚れたりもします」
アミティ「え? 惚れたことあるの?」
りんご「(照れて)ないないない!」
フェーリ「その恋を、と・め・な・く・ちゃ」
アルル・りんご・アミティ(声)「フェーリ!」
レムレス「こんにちは~」
アルル・りんご・アミティ(声)「レムレス!」
レムレス「はい三人と一匹に、飴ちゃんあげる」
一人ずつに手渡しする。
アルル「え?」
アミティ「なんで……」
りんご「のど飴?」
レムレス「どうしたの? 親しい人には、飴ちゃんを渡すのは常識だと思うけど」
アミティ「そうじゃなくて、なんでのど飴なの!」
アルル「しかも、コンビニに売ってそうなやつ!」
りんご「もろにそうですが!」
レムレス「ごめんねー。材料費がなくて、コンビニで買ってたのを、持ってきたんだ」
アルル「のど飴舐めるんだね」
横でおいしそうにのど飴を舐めるカーバンクル。
アミティ「ところで、さっきチラッと恋を止めなくちゃとか言ってなかったっけ?」
フェーリ「そう……」
フェーリ「その、娘々とか言う子は、実はキョンシーなの」
アミティ「ええっ?」
りんご「聞いてなかったんですか?」
アミティ「いや、そんなの全然」
アルル「もしかして、なにか意図があって隠してたのかな?」
あごに手を付けて考える。
レムレス「いや、すけとうだらやミノタウロスがいるくらいだから、言う必要がないって思ったんだろうね」
コケるアルル、りんご、アミティ。
アルル「で、その恋を止めないといけないってのは?」
立ち上がりながら聞く。
フェーリ「嵐が巻き起こるのよ」
アルル「へ?」
フェーリ「その娘々という子は、プリンプタウンに、嵐を巻き起こすわ」
レムレス「どんな嵐を巻き起こすんだい?」
息をのむアルル、りんご、アミティ。
フェーリ「ちゅ・う・か・な」
アルル・りんご・アミティ「ちゅ・う・か・な?」
レムレス「まあ、危険なことには変わりないみたいだから、君たち、彼女のことを知っているんなら、その恋を止めてくれるかな?」
アミティ「え?」
レムレス「じゃあね」
フェーリをほうきに乗せて、飛び去る。
りんご「行ってしまいました」
アルル「ちゅ・う・か・な、嵐?」
アミティ「アルル、もしかして、中華な嵐じゃないかな?」
アルル「え?」
りんご「でも、中華な嵐とは一体?」
あごに手をつける。
アミティ「うーん……」
娘々が、全中華プロジェクトのことを話していたことを思い出すアミティ。
アミティ「ああっ!」
アルル「え、なになに?」
りんご「これはなにか、ビビッと来たんですね!」
〇喫茶店・オープンテラス
娘々「ねえ、シグって、こういうとこ来るの初めて?」
モジモジする。
シグ「うん」
娘々「それで、ね。なんでこんなところに連れてきたかというとね」
モジモジする。
シグ「うん」
娘々「(照れて)娘々……。シ、シグ……。シグのことが好きっーー」
シグ「あ、モンシロチョウ!」
席を立って、モンシロチョウを追いかける。
シグ「待てまて~」
娘々「……」
むなしい風が吹く。
娘々「(涙して)シグ……。娘々より、虫のほうが大切なのね……」
娘々「いいわ、いいわよ……」
席を立つ。
娘々「中華魔法で、なにもかも中華な国にしてやるんだから!」
〇町
アルル「ねえアミティ! どうしたの突然走り出して!」
アミティ「なんだかよくわからないけど、娘々に会って、シグに恋をするのをやめるように言ったほうがいいと思うの」
アルル「ええ?」
アミティ「娘々、どこっ?」
〇喫茶店・オープンテラス
娘々「大いなる空、大地、宇宙よ!」
と言って、手のひらを空にかざす。
〇町
走るアルル、りんご、アミティ、カーバンクル。
アミティ「あっ!」
止まる。
娘々「全世界を、中華な国に染めたまえ!」
空に、黒雲が発生。それが渦を巻く。
アミティ「娘々!」
渦を巻いた黒雲から落雷がとどろく。そして、徐々に黒雲が晴れる。
アミティ「……」
つむっている目を徐々に開ける。
アルル「な、なにが起きたの?」
りんご「さあ?」
カーバンクル「ぐぐ!」
アルル「え? カー君どうしたの?」
カーバンクル「ぐぐ~」
アルル「アミティ? あっ!」
アミティ「え、なになに? どうかした?」
りんご「あかぷよ帽が、中華帽になっています!」
アミティ「え、ええ!?」
中華帽をかぶっている。
中華たち「全中華! 全中華! 全中華!」
チャーハン、マーボー、ラーメンなどが行進している。
担々麺「この世界は全中華のもの! お前たちの好きにはさせない!」
〇スケルトンTの店・中
中国茶「中国茶! 中国茶! 中国茶!」
ぴょんぴょん跳ねる。
スケルトンT「お茶があ!」
〇インキュバスの部屋
鏡の前で香水をつけるインキュバス。
インキュバス「うーん。決まった!」
決めポーズをする。
と、ボンと爆発する。
インキュバス「オーマイゴッド!」
中華風の格好をして、鼻から長いひげを生やす。
〇パノッティーの家・リビング
パノッティー「いただきまーす!」
ボンと爆発して、カレーがマーボー丼になる。
パノッティー(声)「あれれ? カレーがマーボー丼になっちゃった」
マーボー丼「マーボー丼! マーボー丼!」
飛び跳ねる。
〇ウィッチの店・中
魔法薬がぐつぐつと煮えている鍋。
ウィッチ「うふふ。あとは材料を入れるだけですわ……」
ウィッチ(声)「ドラゴンのしっぽ」
ドラコ「ひい!」
ウィッチ(声)「ドラゴンのツノ!」
リデル「ひゃあ!」
ウィッチ(声)「魚のうろこ!」
すけとうだら「ぎょぼ!」
ウィッチ「そして……。闇の魔導師の髪の毛全部!」
シェゾ「いやだあ! ハゲたくない~!」
ウィッチ「大丈夫ですよ~。ほ~んの一瞬だけ、チクッとするだけですからね~」
包丁をかざす。
ドラコ・リデル・すけとうだら「あわわ~」
ウィッチ「痛くなあい痛くなあい!」
と、ボンと鍋が爆発する。
ウィッチ「な、なんですの!?」
鍋の中身が、中華スープになる。
ドラコ「クンクン……。この匂いは!」
すけとうだら「中華スープ!」
ウィッチ「ウソ~! これじゃあ、魔法薬ができませんわあ……」
ドラコ「やったあ! これでしっぽを切られずに済むぞ!」
リデル「ツノを切られずに済みました!」
すけとうだら「自慢のうろこを剥がされずに済んだぜ!」
シェゾ「ハゲなくてよかった!」
ドラコ・リデル・すけとうだら・シェゾ「わーいわーい! やった、やった!」
と、手をつないでグルグルと回る。そばで落ち込んでいるウィッチ。
中華スープ「中華スープ~!」
と、鍋が窓ガラスを突き破って店を飛び出し、町へと繰り出す。
ウィッチ「な、なんでしたの?」
シェゾ「お、お前の魔法じゃないのか……」
ウィッチ「違いますわ……」
アルル「ウィッチーっ!」
ウィッチ「アルルさん!」
シェゾ「アミティ、りんごも!」
アルル「話はあとだよ。すぐについてきて!」
ウィッチ・シェゾ「はあ?」
後ろできょとんとしているリデル、すけとうだら、ドラコ。
〇浜辺
シグ「どうしちゃったの?」
肉まん「肉まんまん! 肉まんまん!」
シグ「テントウムシが、肉まんになっちゃった……」
落ち込んだ様子。
娘々(声)「見つけた」
シグ「!」
振り向く。
シグ(声)「娘々」
ジャッキーに乗っている娘々。
セリリ「いじめないで……。いじめないでえ!」
チンゲン菜たち「チンゲン菜! チンゲン菜!」
集団でセリリに迫ってくる。
セリリ「お友達になりたいだけなのに……。ひどいわ!」
と、顔を手で覆って泣く。
ハーピー(声)「はら~ひれ~ほれ~♪」
とても音痴な歌が響く。
チンゲン菜たち「う、うわあああ!!」
悶絶するうち、ぷよに変わる。
セリリ「……。あなたは!」
ハーピー「あら~♪ セリリさ~ん♪ こ~ん~に~ち~わ~♪」
シグ「僕の虫、肉まんになっちゃった……」
肉まんを差し出す。
娘々「うれしいでしょ!」
シグ「え……」
娘々「娘々ね、いつか全中華プロジェクトで全世界を中華な国にして、みんなを幸せにするのが夢だったんだ」
娘々「だからシグ。あなた今とっても幸せのはずネ……。さあ、このままどこまでも、娘々と二人で仲良くーー」
シグ「戻して」
にらんで、
シグ「僕の虫、戻して!」
と言う。
娘々「そ、そんな! でも、中華な国になったんだよ? 虫よりも、その肉まんのほうがいいはず!」
シグ「肉まんより虫!」
娘々「……」
シグ(声)「君もジャッキーのことが大切なら、僕の今の気持ちわかるはず」
少し落ち込んで、
シグ「違うの?」
と言う。
娘々「娘々は……」
アルル(声)「そこまでだよ! 娘々!」
アルル「君のおかげでプリンプタウンがむちゃくちゃだよ! 早く元に戻して!」
アミティ「娘々、こんなことのために、魔導師を目指していたの?」
哀しい目。
娘々「アミティ!」
ウィッチ「あなた! よくもわたくしの魔法薬を中華スープに変えてくれましたわね!」
ドラコ「おかげであたしたち助かったけどね!」
娘々「!」
娘々M「なによ……。なによなによ!」
娘々をにらむアルルたちの視線。
娘々「こうなったら、全中華出撃!」
中華たち「全中華! 全中華! 全中華!」
アルルたちのまわりに四方八方集まる中華たち。
シェゾ「なんだこれは!」
リデル「中華料理です~」
すけとうだら「見ればわかるぜ」
ドラコ「なんだかよくわからないけど」
アルル「戦うしかないみたいだね!」
カーバンクル「ぐ~!」
と、マーボー丼の器を舌で持ち上げて、一気に流し込む。
アルル「カー君!」
アミティ「なんてことを!」
りんご「そうか! 相手は中華料理。だったら、食べちゃえばいいんですよ!」
ウィッチ「なら、食べれるだけ食べちゃいましょう!」
と言って、チャーハンをつかまえる。
すけとうだら「俺チンゲン菜の炒め物」
娘々「うふふ! あははは!」
シェゾ「なにがおかしい!」
娘々「マーボー丼を食べた生き物をごらん!」
カーバンクル「ぐぐ? ぐ、ぐぐーっ!」
突然苦しむ。
アルル「カー君!」
カーバンクル「ぐぐぐ~!」
お腹を痛めている。
娘々「全中華プロジェクトは、中華料理と人間、生き物たちが共存して生きていける世の中を目指すもの。だから中華料理も生き物なのよ? 食べたらお腹を壊すのも、当然だわ!」
ウィッチ「なんだそりゃあ!」
リデル「あ、ラーメンが」
手から離れる。
ラーメン「ラーメンメーン!」
ひっくり返って、ウィッチの頭に落ちる。
ウィッチ「あちちち~!」
アルル「ウィッチ!」
アルル「ヒーリング!」
ラーメンと熱さがなくなるウィッチ。
ウィッチ「あちちだよ~!」
娘々「さあ全中華たち! 思う存分彼らと遊んでやりなさい!」
襲いかかる中華たち。
中華たち「うわあ!」
レムレスの魔法ではじき飛ばされる。
娘々「誰!」
アミティ「レ、レムレス!」
アミティ(声)「フェーリ……も?」
中華風の恰好をしているレムレス、フェーリ。
アルル「なに、その格好……」
レムレス「いやあ、中華な国になった途端、こんなふうになってしまってね」
フェーリ「でも、こうなることは、予想の範囲内だわ」
アミティ「じゃあじゃあ。一体どうすれば元に戻せるの!」
フェーリに肩を揺する。
フェーリ「そ、そこまではわからないわよ!」
アミティを離す。
フェーリ「あと、あたしたちが来たところで、なにも解決しないわよ?」
アミティ「へ?」
フェーリ「運命、だもの」
と、ニヤリとする。
アミティ「えー?」
娘々「いけ、全中華! みんなを中華のとりこにしちゃえ!」
アルルたち「わーっ!」
ハーピー「はら~ひれ~ほろ~はれ~♪」
中華たち「?」
動きを止める。
ハーピー「はら~ひれ~ほろ~はれ~♪」
中華たち「ぐわあああ!!」
ハーピーの音痴な歌声に悶絶し、ぷよに戻っていく。
シェゾ「なんだこの歌~!」
ウィッチ「とても聴いていられませんわあ!」
ドラコ「お手紙ちょうだい!」
リデル「助けて~!」
レムレス「これは占いにあったのかな?」
耳栓をしている。
フェーリ「そう・てい・がい……」
倒れる。
アルル「カ、カー君……」
と言って、気絶する。
カーバンクル「ぐぐぐ~!」
お腹を痛めている。ハーピーの音痴な歌とともに、浜辺をぷよぷよと跳ねているぷよたち。
〇同(夕方)
娘々「うーん……」
目を覚ます。
シグ「大丈夫?」
娘々「……。シ、シグ!」
娘々「ああ、いやその!」
起き上がり、シグから離れる。
シグ「よかった。テントウムシ、戻った」
肩にテントウムシがいる。
娘々「……」
娘々「娘々はただ、全中華プロジェクトで、シグに中華を好きになってもらいたかっただけなの」
娘々「(照れて)虫だけじゃなくて、たまにはその……。娘々のことも見て、よ……」
シグ「……」
娘々をじっと見つめる。
娘々顔を赤くして爆発して、
娘々「な、な、なにっ?」
と言う。
シグ「中華料理は好きだよ」
娘々「なっ!」
娘々(声)「もうーっ! そういうことじゃなーい!」
空に上がる夕日が、海面を赤く照らしている。
〇町(夕方)
アルル「なにはともあれ、一件落着だね」
カーバンクル「ぐう!」
アルル「カー君もお腹痛いの治ってよかったね」
レムレス「みんなお疲れ様。今夜、よかったらごちそうしないかい? 焼肉と、デザートは僕の特製、甘ーいスイーツだよ」
フェーリ「断る権利はな・い・わ・よ。さあ、焼肉店にゴー!」
アミティ「い、いいの?」
りんご「なんだかいきなりすぎて、申し訳ないです……」
シェゾ「まあでも。たまにはいいんじゃないか」
ウィッチ「あなたはただ、焼肉が食べたいだけじゃありませんこと? それか、お腹が空いているだけか……」
と、ほくそ笑む。ムスッとするシェゾ。
リデル「あの……」
ドラコ「どうしたの?」
リデル「シグさんと、娘々さんも誘いませんか?」
アルル「そういえば。じゃあもう一度浜辺に戻らなきゃね!」
カーバンクル「ぐー!」
ハーピー「お祝いですか~♪ なら~♪ 私は歌をうたいます~♪」
アルルたち「え?」
ハーピー「はあ!」
息を大きく吸い込む。
ハーピー(声)「はら~ひれ~ほろ~はれ~♪」
アルルたち(声)「うわあ~!」
あかね色に染まるプリンプタウンの町に響く、音痴な歌声と悶絶する声。
T『おしまい』
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