第38話 お前は格別にかわいいなぁ

「愛七ー、入るぞー」


「ニシシ、あいにゃんが恋しくなったかにゃ?」


「だからメタフォーカスが恋しいだけだっつってんだろ」


 愛七と出会ってから一月ヒトつきほど。俺はしばしば愛七の部屋に遊びに来ている。目的はもちろんメタフォーカスだ。決して猫耳メスガキ美少女ではない。


「ほら、使っていーよ」


「だから俺のだっつってんだろ。パソコンはありがたく使わせてもらうけどさ。でもいいのか? 愛七だって遊びたいだろうに」


「あいにゃんは達にいがいないときに遊んでるからいーの」


 最初はメタフォーカスの取り合い状態だったが、最近は譲ってくれることが多い。もしかしたら愛七はもうメタフォーカスに飽き気味なのかもしれない。俺は全く飽きる気配がないけど。


「さーて、今日は何にしようかなー」


「そ、そういえばにゃんにゃんパラダイスにアップデートが入ってた」


「へー。ちょっとやってみよっかな」


 初めてメタフォーカスを使った時にやったゲーム、にゃんにゃんパラダイス。何だかエッチなお店の名前っぽいが、本当にかわいい猫と戯れる天国のようなゲームだ。愛七は時々そのゲームをお勧めしてくる。

 VRヘッドギアを装着すると、しばらくのロードの後に庭園の中庭のような美しい風景が映し出される。最初はただの草原だったが、登場する猫と仲良くなってにゃんにゃんポイントを貯め、にゃんにゃんショップでいろいろなアイテムと交換することで風景がグレードアップしていったのだ。

 ゲームが始まるとすぐに三毛猫が足にすり寄って来た。


「ミケ! よーしよしよーしよし!」


 ミケと触れ合っている内に、どんどんゲームに没入していく。この没入感がたまらない。猫と触れ合ってポイントを貯めて風景をグレードアップしているだけなのに、あっという間に2,3時間ほど経過してい舞うこともしばしばだ。

 しばらく遊んでいると、毛の長い猫が現れた。ソマリという品種のその猫はそこそこレアな猫で、一時間遊んでいても現れない事だってあるくらいだ。


「おー! マリー! 会いたかったぞー!」


 長い毛にしゃがみ込んで長い毛に触れると、本当に長い毛の猫に触れているかのような感覚に陥いる。没入感が高まっているのだろう。


「本当にお前は可愛いなぁ! うりうり!」


「………………………………………………ぁ♡」


「みんな可愛いけど、お前は格別にかわいいなぁ。もっと会いに来ておくれよ~」


「……ぁん♡……………………………………………………ん、もっと♡」


 しかし、この猫が現れると決まって音声にノイズが走るのが悩みだ。ゲーム制作会社が音声ファイルを破損しているのかもしれない。

 しばらくにゃんパラを堪能してからVRゴーグルを外す。


「あ~~、楽しかった。本物の猫を買いたくなるなぁ」


「はぁ……はぁ……こ、ここのマンションは、ペット不可だから……ふぅ……無理だよ」


 何故かベッドの上で、髪はボサボサで息も絶え絶えな愛七。俺がVRゲームをやった後は大抵こうなっている。


「なぁ、いつも気になってたんだけど、なんでそんなに息があがってんの?」


「ふぇっ!? あ、えっと、それは……」


 言い淀む愛七。ははーん、これはあれだな。


「もしかして筋トレでもしてんのか?」


「え? あ、うん、そうそう! これでも動画配信者だから、体系には気を付けてるの!」


「見られる側の人間は大変だねぇ」


 この時は深く考えずに大変だなぁとしか思っていなかったが、事の真相は数日後に発覚することとなる。

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