第24話 懺悔室ってエッチな漫画でしか見たこと無いよね
「無理するのはやめてよ! こんなこと続けてたら、そのうち絶対死んじゃうよ!」
「大丈夫よ。ちゃんとうまくやるから」
「だから根拠がないじゃない! せめてメンバーが見つかってから再開してよ! それまでお店は休みにすればいい!」
「うちの料理を楽しみにしてくれている人だっているし、結婚式の予約もあるだろう? 簡単に休みには出来ないよ」
「でも! お母さんが死んじゃったらそれで終わりなんだよ!?」
「だから、うまくやるって」
「だから何の根拠もないこと言わないで!!」
「ほら、さっさと片づけに戻りなさい。話は帰ってきてからね」
「行かないでって言ってるの! ねぇ、ねぇってば!!」
バイトが終わり、帰ろうと裏口から外に出ると穂乃果さんの声が聞こえてきた。流石に気になって見に行くと、穂乃果さんが教会の裏でしゃがみ込んで泣いていた。言い合っていた相手、おそらく穂乃果さんのお母さんの姿はもうない。おそらくダンジョンに潜りに行ったのだろう。
「えっと、大丈夫ですか?」
「あ、達哉君……。聞こえちゃってた? あはは、恥ずかしいところ見せちゃったね」
穂乃果さんは俺に気が付くとすぐに顔を上げて笑顔を見せた。目は赤く涙で濡れている。弱いところを見せまいとするその姿が痛々しい。
「お母さんのことですか?」
「……うん。前に少し話したよね? お母さんの仲間の一人が引き抜かれたって。それでも二人で何とかやってたんだけど、残った一人にも引き抜きの話が来ちゃったみたいで。しかもかなり良い待遇で。引き抜かれちゃうのも時間の問題みたい。だけどお母さんはたとえ一人でもダンジョンに行くって言っててさ。この前は二人で行ったのに怪我して帰って来たっていうのに……」
話している内に、少しずつ穂乃果さんの目に涙が浮かんで来た。
「お母さん、無茶しちゃうから、このままだと絶対死んじゃう。だけど私じゃ止められなくて、どうしたらいいか分からなくて……」
再び顔を覆って泣き出してしまった穂乃果さんの背中をさする。
「私が、私がダンジョンダイバーだったらお母さんを支えてあげられるのに……今からでも、間に合うのかな……お母さんが死んじゃうの、絶対にいやだよ……」
「穂乃果さん……」
穂乃果さんは自分でブライダルプランナーになる道を選んだ。そしてその仕事に誇りを持っているだろうし、実際に何人ものお客様を笑顔にしてきた。そんな穂乃果さんに俺が提示する案は、とても酷なものになるだろう。ただ、それでもお母さんを失って、失意に暮れるよりはずっとマシだと思う。
「穂乃果さんは、ダンジョンダイバーになってでも、お母さんを助けたいんですよね? ブライダルプランナーをやめてでも」
「……うん。お客様の笑顔は私にとっての宝。でも、お母さんの命には替えられないから」
「分かりました。穂乃果さん、短期間で強くなる方法を教えます」
「短期間で……? そんな方法があるの……?」
「はい。ただし、かなりの苦痛を伴います。命の危険もあるかもしれません。それでもいいなら、その方法を教えます」
「あははは、何言ってるの達哉君。そんな方法があるなら、もうみんなやってるでしょ? へたくそな慰め方だなぁ」
俺の提案を冗談だと思ったのか、穂乃果さんは涙を浮かべた顔で苦笑した。しかし、真剣な顔で穂乃果さんの目を見る俺に気が付いて、真剣な顔に変わる。
「……もし、もしそんな方法があるなら、やりたい。迷ってる暇も、躊躇してる時間もない。お願い、教えて、達哉君」
「分かりました」
俺はちらりと教会に目を向ける。姿を見られない、良い場所があそこにある。
「今日の夜12時に、教会の懺悔室に来てください。知り合いに連絡しておきます。心の準備だけ、しておいてください。詳しい方法は後でメールしますね」
神よ、神聖なる教会で良からぬことをしようとしている私をお許しください。
◇
12時前。常夜灯のみが灯った薄暗い教会の角、年季の入った懺悔室の扉を開ける。人の気配がしないため、穂乃果さんはまだ来ていない様だ。
懺悔室は二つの入り口がある小さな箱型の部屋で、真ん中が板で仕切られている。仕切りは俺の肩の高さから上は普通の板となっており、仕切りの向こうにいる人の顔は見えない。その下は木製の格子となっているため胸元らへんは多少透けて見えるが、薄暗い教会の懺悔室の中であるためほぼ見えない。丁度腰当たりにはテーブルの様に板が張り出している。そして、木の格子とテーブルの間は少し隙間が空いていて、腕くらいなら向こう側の個室へと通すことが出来る。
まぁつまり、顔を見られずに相手に触れるという事だ。
少し緊張しながら待っていると、12時を少し過ぎた時刻になって、教会の重厚な扉がギィと開く音がした。もしもこれが特に約束も無い夜であればホラーであるが、やってくるのは巨乳で可愛いお姉さんであり、今から行うのがイヤらしいことである。恐怖ではなく興奮で動悸が早くなる。
向かい側の懺悔室の扉が開き、穂乃果さんが座った。薄暗くても分かる、大きなふくらみ。薄暗くてよく見えない上に、首から下しか見えないが、それがなおさらエロい。緊張から、恐怖から、その細い肩はふるふると震えている。
「た、達哉君に言われて、来ました。ソンさん、ですか?」
「ソウデス」
俺は低い声で、片言気味に返事をする。ものすごく滑稽だが、俺と分からなければそれでいい。ちなみにソンという名前は俺の苗字の無良⇒むら⇒村⇒そん、という安直なネーミングである。
「あ、あの。すごく経験値が多くて、手に触れるだけで強くなれるって、聞いたんですが、ほ、本当ですか?」
「信ジル、信ジナイ。貴方ノ、ジユウ。ヤラナイナラ、ワタシ、帰ル。ソレダケ」
立ち上がって扉に手をかけると、穂乃果さんが慌てたような声を出した。
「待ってください! 無礼な発言をしてしまい申し訳ありません!」
俺が座りなおすと、何度も大きく深呼吸する音が聞こえて来た。細い肩が上下し、大きなお山も上下する。
「ソンさん。よろしくお願いいたします。貴方の手に、触れさせてください」
「モチロンデース。悩メル子羊ニ、慈悲ヲ」
中国っぽい偽名なのにアメリカ人みたいな片言になってしまった。まぁ正体がばれなければ問題ないだろう。
俺は仕切りの隙間から、そっと腕を差し出した。
さぁ、
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