天から見守る、空から見上げる。
柚月まお
第1話 楽しいがわからなくなった。
私の願いはただ一つ。
「もう、これ以上大切な人を失いたくない」
あなたにとって 楽しいとは何でしょう。
この質問をすれば曖昧な答えが返ってくるだけで明確な答えを出せる人はいないと思います。
つまり、簡単に「楽しい」を定義するのは難しいことでしょう。
友人と過ごすのが楽しいとか、恋人と話すのが楽しいとか、ゲームをしていて楽しいとか…。
楽しいとは各々の感覚でしかないと思います。
人間とは楽しいことよりも苦しいこと、嫌なことばかり覚えている傾向にあることが多いはず。
幸せな記憶は苦の記憶で上書きされてしまう。
私はそんな経験を数えられないほどしてきたと思います。
家族といられる時間は幸せで楽しいと感じていた。地域の人たちと過ごした時間は家族と過ごしている時間よりも新鮮に感じられる時間だった。
親友と過ごしている時間は何にも代え難い唯一の時間だった。楽しくて幸せだと感じていた。
学校がある平日は、放課後こっそり屋上へ行って親友と他愛もない話に花を咲かせていた。
春は、花粉症のせいかお互い目を擦っていたっけ。
夏は、「暑いね。放課後アイス買いに行こっか」と毎日のようにアイスを買いに誘われたっけ。
夏祭りに誘われて浴衣姿の親友に「似合ってる?」って顔を近づけられたっけ。その時の私は一体どんな顔をしていたんだろうか。親友はケラケラと笑って「あれれ顔赤いのなんでかな?」って言って私をからかっていたっけ。
秋は一緒にお月見をしてその時、親友は「私、月になって茉代のこと見守りたいな」って言って「由紀菜は太陽の方が似合うと思うよ」って返して「やっぱり?」って笑ってたな。
この日を最後に私は親友の由紀菜には会えなくなってしまった。
私も家の諸々で大変だったし、冬休みもお互い受験とかで忙しくて会えなかった。
私たちだけの冬は訪れなかった。
それから五ヶ月経って三月一日、卒業式を迎えた。
私たちはこれからも同じ学び舎で学べるんだと当時は思っていた。
でも、悲劇は突然襲ってきた。
卒業式を迎えて三日後の三月四日深夜。
由紀菜は持病の悪化が原因でこの世を去ってしまった。
持病があることは知っていたし最近は落ち着いていると言われていたから私も由紀菜本人も安心しきっていた。
だからこそショックが大きすぎた。
私にとって最高の親友を失った。
忘れられない、忘れてはいけない。
椎名由紀菜の存在を。
親友の生きた証を。
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