第二話 種子

〈進化完了、上位種ブラッドホルスフライになりました。新たに、スキル虫顎を獲得しました。進化ボーナスを取得、スキル複眼、吸血、飛行のレベルが上がります〉


 はっ! また意識がなくなってた。進化は、意識がなくなるのか?

 とりあえず、今の状態を確認しよう。


〘ステータス〙


――――――――――――――――――――――


【名前】なし 

【種族】ブラッドホルスフライ

【性別】オス

【体力】24/24

【魔力】20/20

【レベル】5/12

【状態】通常


【能力値】

攻撃力:26 防御力:18 魔攻防力:16


俊敏:30 知能:51 幸運:9


【種族スキル】

複眼Lv3、吸血Lv2、虫顎Lv1、

飛行Lv2、再生Lv3、眷属作成Lv1、

 

【通常スキル】

怒Lv3、

 

【耐性スキル】

火耐性Lv2、

  

《称号》

転生者、捕食者、

    

――――――――――――――――――――――


 おぉ! 確実に強くなっていってる感じがする!

 ステータスも上がって、スキルも増えてるぞ!

 虫顎? 虫の顎でいいのか?

 確かに、蚊の時はストロー状だった気がする。ホルスフライになってから、口元に顎の存在を感じる。

 これで色々噛んだりできるな!


 俺は、目に見える成長に喜ぶ。


 最初は、前より過酷だと思ってたが以外と悪くないのかもしれない。そのうち魔法とか使えたりするのかな? 俺は、どこまで成長出来るんだ? 人間という枠組みから外れて、進化が身近にある生活…………思ったよりも、この異世界は面白いのかもしれない!


 先程から一転、これから先の未来に俺は期待を膨らます。





〈ベビーアルミラージを倒しました。経験値を取得しました。レベル8になりました〉


 大分身体の動かした方に慣れてきた。

それと、俺はやっぱりまだまだ弱く、この世界は面白いが前より過酷なのは正しかった。

 会う生き物のほとんどが俺より強いのだ、俺は自分の弱さに腹が立ったが、この世界では努力した分だけすぐ強さに繋がるということを知った。

 俺は、いつも不運に振り回せれてばっかりだった……それを当たり前の事だと思いこみ、抵抗もせず受け入れていた。

 だが! この世界でなら、俺は不運に抗える。何者にも侵されないだけの力を手に入れられる……俺は、この短時間で決意した。

 俺は、最強になり自由気ままに生きると。その為なら、なんだって躊躇わない。


 俺は、この世界での生き方と目標を心に刻み付けた。


 手始めにあの巨大トンボを殺せるようになろう、その為にはさらなる進化が必要だ。


 俺は、さらなる強さを求めて進み始めた。





 とある大聖堂にて……。


『神託を下します。この世界に魔王の種子が生まれ落ちました。それが芽吹くのがいつになるのかは定かではありませんが、芽吹くと間違いなく世界は滅ぶか大きな被害を被る事になるでしょう。勇者召喚を行いなさい。異世界から救世主を!』


 そこで謎の声は途切れた。


「大聖女様? どうかなさいましたか?」


「たった今女神様より神託が下されました……。魔王の種子が生まれ落ちたそうです。芽吹くと大きな被害を被ると」


「なんと!? それは一大事です! すぐに皆に報告を……!」


「待ちなさい、まずは司教様達を集めてください。皆で議論すべき事がございます」


「分かりました! すぐさま呼び掛けて参ります」


 魔王の種子ですか。

 魔王……不規則に現れる世界を破滅させられる程の力をもつ魔の王。かつて、数度出現してはその度に恐ろしい被害を出したとか。

 そして、決まってその魔王を退治する為異世界から勇者を召喚したと。

 一度魔王と戦った事のある私としては、異世界人を困らせる事は避けたいのですが、あの時召喚された勇者様も大変な思いをされていた。

 聞けば、勇者様方の住む場所は魔法という概念がなく、魔物もいない平和な世界だとか。

 そんな所から、こんな危険な世界に呼び出すのは……。

 しかし、呼び出さなければ私達に魔王を倒す事はできず、世界が滅んでしまう。この関係はどうにかならないんでしょうか。


「大聖女様、司教様達の準備が整いました」


「分かりました、それでは会議の場に向かいましょう」


 大聖女は、司教達と合流し会議の場に向かった。


「皆様、お忙しい中集まって頂きありがとうございます。大まかに集めた理由は聞かされているでしょうが、先程は伝えなかった事含め全てを再度説明させてもらいます」


 大聖女は、先程下された神託を司教達に伝えた。


「これが下された神託の全てです。皆様に集まってもらったのは、勇者召喚について話す為集まってもらいました。現状未だ被害は何もなく、魔王へとはいつ至るのか不明な状況。早急に勇者召喚はせず、私達で対処できるものは対処していきたいと考えているのですが、どうでしょう」


「大聖女様の仰りたい事は理解できますが、事が起きてからでは遅いのです。芽吹く前に、完璧な備えをし、可能ならば魔王の種子を消す事こそ最良ではありませんか?」


「私もレイフ司教に賛成ですね、備えはあるだけいいです。幸い魔王は未だ種子にすぎない、本格的に魔王となってしまう前に討伐してしまうのが良いでしょう。それに、勇者召喚で召喚される方々は、みな強い力を持っています。魔王討伐意外の使い道もたくさんあると思います」


 二人の司教がそう述べる。


「俺も賛成だ、魔王意外にも現時点で強力な魔物は無数に存在する。ここは、魔王戦までの育成も兼ねて、他の厄介な魔物も勇者様に倒してもらおうぜ」


「グラジス! 貴方は信者を不安にさせたいの?! 司教である私達が一斉に動けば何かあるんじゃないかって不安になるでしょ! 最近は、近辺の国々で戦争の二文字がちらついてるし……」


「一々うるせぇなぁ! 若作りババァが! 俺より実力が劣ってるくせに、上から目線でごちゃごちゃと!」


「若作りババァですって? 誰がよ! それと、私は支援特化なの! 近接戦は役目じゃないのよ! この泣き虫グラジス!」


「何だと、表でろやぁ!」


「ええ良いですとも、支援特化の底力見せてあげるわ!」


「テリス、グラジスいい加減にしなさい。今は大事な話し合いをしているの、そんなに暴れたいなら外に出ていなさいっ!」


「「すみませんでした!! メレシー司教!」」


 二人の司教が暴れようとするが、それをもう一人の司教が止めた。 


「ディベラ司教とピュリア司教はどう思いますか?」


「備えは必要だと思いますが、そこまで完璧にしなくても良いかと。ただ勇者様の早期育成に関しては少し僕も思うところがあります」


「私には、よく分からないです。どちらもただしいような気がして、どちらがとか、どう思うかとか、はっきり言えません」


「そうですか、皆様方の意見はよくわかりました」


「色々話をしますけど、結局決めるのはほとんど大司教であり大聖女でもあるシリス様と教皇であるプレプト様ですから、私達の意見はほぼないようなものでしょう」


「それは……まぁ、そうかもしれませんね。とりあえず、皆様の意見含め神託の事を詳しく教皇様に報告してきます。では、今日はお開きで。わざわざ集まって頂きありがとうございました」


 そう言って、大聖女は部屋を後にし教皇の元へと向かった。





「教皇様、また子供達と遊んでいらっしゃったんですか」


「はははっ、子供達は明るくていいよ。この子達の笑顔が未来を明るく照らす。使いのものから聞いたよ、魔王の種子が生まれたんだって?」


 礼拝堂の横にある広場で、一人の年老いた男が子供達と戯れていた。

 

「はい、芽吹くと世界が大きな被害を受けると。勇者召喚をして備えるようにとも」


「さっきの話し合いはそれを話し合ってきたんだね。みんなバラバラでしょ? みんな自由だからねぇ。まともにまとまらないよ」


「ほとんどの人が賛成でした……」


「仕方がないとはいえ、急に異世界に連れてこられるのはさぞ苦しい思いをするだろう。それは、君が一番知ってる。しかし、召喚しなければ我々が滅ぶかもしれない。う〜ん、本当に大変だ」


「教皇様は……どうお考えなのでしょうか」


「私? 私は、そうだねぇ中立かな。卑怯な答えだけどね、どちらも正しいから簡単にこっちが正しいあっちはダメなんて決められないよ。魔王はまだ種子って話だけど、私達でそれを阻止できないかな? 女神様も言ってたよね、いつ芽吹くかはわからないって」


「具体的にはどのような方法を?」


「導くんだよ、魔王にならないように。魔王になるきっかけを与えないように。魔物は、確かにほとんどが凶暴で話なんか出来やしないやつがほとんどだけど、中には知能があり会話が出来る魔物もいる。もし魔王の種子を説得出来たら、勇者を召喚せずに済むんじゃないかな? 私達人間にだって良い人、悪い人がいる。魔物にだって人間と共存出来るやつがいてもおかしくない。要は、接し方の問題なんだ。よく接すれば、良い結果が返ってくる。逆に、魔物だからって仲間を傷つけたりいきなり攻撃したりすれば、あちらも同じようにやり返してくる。それだけの話なんだよ。まぁ、これはただの私個人の考えでしかなくて、形のない机上の空論ってやつさ。君も難しく考えすぎないようにね、どんだけ考えてもどうしようもないものはどうしようもないんだから」


「はい……」


「言葉を理解できるのは上位の魔物。魔王が誕生して、こちらを攻撃してくるならその時は勇者に頼るしかない。こちらに敵意を向けてくるものにずっとはよく接しられないからね。とりあえずは、保留にしておこう。魔王になる前に種子と接触できればよし、無理そうなら召喚しよう。我々だって滅ぶ訳にはいかないんだ」


「分かりました、皆にそう伝えておきます」


「疲れた時は、しっかり休むんだよ〜」


 教皇は、遠くからそう呼びかける。


「相変わらず教皇様は、お優しい。ですが、少し甘すぎる。人と魔物同士の負の連鎖は簡単に断ち切れはしない。一度魔王討伐の旅をしてそれを実感した。ご自身で言われた通り、あの考えは机上の空論で単なる理想に過ぎないのです」


 まぁでも、半年くらいは様子を見ても良いかもしれない。

 机上の空論だけど、実現すれば…………。


 大聖女は、大きな悩みを抱え先程の会議部屋に戻った。

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