魔物転生〜自由に生きていたらいつの間にか魔王になっていた

ニア

第1章 転生と成長

第一話 死と怒り

「こっちだぁ! こっちにいるぞ捕まえろぉ!」


「今行く!」


 スーツ姿の集団が、コンテナのある堤防で何かを追いかけ走る。


「ふぅ、声マネ得意でよかった。それにしても、綺麗に騙されてやんの」


 一人の青年が、コンテナの影に隠れて間抜けなスーツ集団の走る姿をみる。

 

「どこに逃げやがったあのガキ!」


「見つけたらただじゃおかねぇぞ」


 スーツ集団は、青年を見失い苛立つ。


「ふひっ、駄目だw笑うな、!」


 青年は、口を手で押さえ笑い声を抑える。


 ガンッ!


「あっ、口元を抑えようとしたら手がコンテナに……」


「いたぞ! こっちだー!」


 俺は、逃げるまもなくスーツ集団に囲まれる。  


「たく、手間かけさせやがってクソガキが……!」


「あっ……」


「何だ〜? 今更怖気づいたか?」


「こんだけコケにされてんだ、そう簡単に許してもらえると思うな?」 

   

 スーツ集団は、凶悪な武器を持ってにじり寄ってくる。


  



「あぁぁぁぁ!!」


 俺は、このまま死ぬのか? まだ痛みは感じる、鬱陶しいほどに。

 殺すならすぐ殺せよ。


「てめぇ、まだそんな目を……! この生意気なクソガキがぁ!」


「ぐっ! オエェェー!」


「ちっ、汚ねぇな!」


「あ”っ! くっ!」


 かれこれ数分程殴る蹴るの暴力を受け続けてる。

  

「はぁはぁ……」


 俺は、瀕死の重体で地面にうずくまる。


「っ! お前達そこでなにやってるんだ! 叫び声が聞こえたから来てみれば……!」


「ちっ、サツだ。逃げるぞ!」


 スーツ集団は、現場に駆けつけた警察から逃げ出した。


「君、大丈夫かい?」


 俺に触れるな!

 あいつら人に散々暴力振るっておいて逃げるだと? ふざけるな……。

 殺してやる!


 俺は、自分の吐瀉物を被りながらも這いつくばってスーツ集団の姿を追う。

 しかし……。


「君! 動かないで! すぐ救急車呼ぶから!」


「……ごおす…! え”ッだい”にぃ”!!」


 俺は、警察の言葉を聞かずに怒りの感情だけで無理矢理身体を起こし、這々の体でスーツ集団を追いかける。


 元はといえば、あいつらが悪いのになんで俺がこんな目になってるんだ!

 絶対殺してやる! ぐちゃぐちゃに殴り殺してやる!


 俺は、身体の状態なんか気にせずさらに速度を上げてスーツ集団を追いかける。


 


  

「までぇ”、ごろず! 絶対、ごおすぅ!」


「お前は、さっきのクソガキ!」


「しつこいんだよ!」


「まだいじめたりなかったかぁ?」


 スーツ集団は、そんな言葉を投げかける。 


 殺す! 俺だけ死ぬなんて許せない!


「うぅ”ー、ああ”ぁぁァッ!!!」


 俺は、瀕死の状態のまま感情に任せて無作為に突進を仕掛けた。


「な、なんだよ! 触んじゃねぇ!」


 しかし、スーツ集団の一人にすぐ捕まれ投げ飛ばされる。


「あ、お前そっち車道…!」


「え?」


 キキィーーー!! ドガァン!


 俺は、車道に投げ飛ばされ、車にはねられ吹っ飛んだ。


「お前、なにしてんだよ!」


「一般人は殺すなって言われるだろ!」


「で、ですが、突っ込んできたからつい」


 スーツ集団が、仲間内で揉めていると……。

 

 ポツ――ポツポツ――ポツポツポツ――。


 今日は、朝から雨雲が出ていて、梅雨入りも近いといわれており、近々大雨が降ると言われていた。


「あ、雨だ」


 車のライトが、吹っ飛んだ俺の姿を映し出す。


「あ、兄貴、あれ……!」


 俺は、既にボロボロの身体に鞭を打ち、立ち上がった。


「あ、あいつはゾンビか!?」


「なんであれで立てるんだ!」


「お、お前の勝ちだ! だから、もう諦めて……!」


 スーツ集団は、執念深い俺の姿に恐怖する。

 

「ごろす、え”ッだい”……ごおずぅぅぅ!」


 ブウゥゥゥ!! バキバキバキ! ガァン!


 俺は、なんとか立ち上がり、再び突進しようとするがまたもや不運が邪魔をし、トドメを刺すかのように大型トラックが俺を轢き潰し、電柱にぶつかった。


「……ご…おず……」


「今度こそ死んだよな……?」


「あれで生きてたら人じゃないですよ兄貴!」


 スーツ集団は、俺の死に安堵した。


「そ、そこの人達危なぁ〜い!」


「「「「「えっ?」」」」」


 安堵したのもつかの間、トラックが突っ込んだ衝撃で電柱が倒れ、近くの壁がスーツ集団全員を下敷きにする形で崩れた。


 ははっ、ザマァみやがれ。お前らも道連れだ。


 俺は、どんどん意識が消えゆく中最後にそんな事を思う。    

 この多数の死者を出し、連鎖事故を起こした大事件は、しばらく世間を騒がす大ニュースとなった。





 大きな木に一つの実がなった。

 その実は、一見黒く腐っているように見えた。

 しかし、瞬く間に他の実や木の力を吸い取り、紅く美しい実に変わった。

 一瞬にして姿を変えた紅く美しい実は、風に揺られ地面に落下した。


 ドクンッドクンッ。


 地面に落下した実は、周りの物を引き寄せ鼓動を打ち始めた。

 そして、一匹の魔物が生まれた。


――――――――――――――――――――


【名前】なし 

【種族】ブラッドモスキート

【体力】15/15

【魔力】12/12

【レベル】1/5

【状態】通常


【能力値】

攻撃力:13 防御力:10 魔攻防力:11


俊敏:17 知能:39 幸運:8


【種族スキル】

複眼Lv1、吸血Lv1、飛行Lv1、

再生Lv3、眷属作成Lv1、

 

【通常スキル】


 

【耐性スキル】

火耐性Lv2、

  

《称号》

転生者、捕食者、

    

――――――――――――――――――――


 三センチ程の蚊が生まれ、落ちた果実が蚊の心臓となった。


 はっ! 生き…てる……? 俺はトラックに轢き潰されて死んだはずじゃ……。

 身体の状態から見ても絶対助からないはず。


 俺は、不思議な状況に困惑する。


 どうして……俺は生きてるのか? 死んでるのか? 一体どういう状況何だ。


「キチキチ」


 え?


 俺が、混乱してると近くから変な音が聞こえた。 


 なんだ? 何の声だ。


 俺が辺りを見渡そうとしたその時……!


 ブブブーブブブー!


 何だあれ!? でっかいトンボ!?


 大きな音が聞こえ、その方向に目を向けると、自分なんか簡単に食べてしまえそうなほど大きなトンボが、殺意全開でこちらに向かって飛んできていた。

 

 ま、また殺されるぅぅぅ!


 俺は、急いでその場から逃げ出した。


 デカすぎだろ! 昔は、大きなトンボがいたってきくけど、いくらなんでもデカすぎ! おれは、過去にタイムスリップしたのか!?


 ブブブーブブブー!


 そ、そんなことより、とにかく今は全力で逃げる! もう死ぬのはごめんだ!


 俺は、混乱しつつも全力でその場から逃げ出した。 

 




 はぁはぁ、もう追ってきてないみたいだ。

 あの巨大トンボから逃げている時、いくつか分かった事がある。

 まずここは俺のいた地球ではないということ、明らかな別世界だ。逃げている途中で見かけた生物や植物も、見たことのない見た目をしている物がほとんどだ。

 次に、ここはとんでもなく広いということ。周りは暗く高い木で覆われている。

 そして最後に、俺について。


 俺は、自分の身体を確認する。


 俺は、人間じゃなくなった。三センチ程の化け物蚊になっていた。

 ここから、導き出される事はここは過去の世界じゃなくて、元いた場所とは全く違う異世界で……俺は、そんな世界の魔物の一匹に転生したということ。

 はぁ、どうして俺はこうも不運なんだ。

 小さい頃、家族との買い物中に俺は交通事故に遭い、両親が死んだ。

 幸い両親は人脈が広く、親戚や両親の友人宅など暮らしに困ることはなく過ごせた……しかし、小さな子供といえど人一人を養うのは簡単な事ではなく、すぐに家を追い出され、色んな所を転々とする事に。

 それが嫌になった俺は、家を出て一人で生活するようになった。まだまだ中学生程だった俺に、まともな生活能力など備わっておらず、毎日万引きや周りに媚びて苦しい生活をしていた。

 なんであのゴミみたいな人生をやめれたのに、さらに過酷な人生を歩み始めないといけないんだ!!

 こんなの不公平だあまりにも理不尽すぎるだろ。

  

 俺は、怒りを煮え滾らせる。


 なんでこんなに不幸な目に合わなきゃいけないんだ、俺が何をした。


〘条件達成、スキル怒を獲得しました。スキル怒が発動、精神を支配します〙


「キュウ?」

 

 お前も俺を、不公平に理不尽に殺すのか?


 本能が俺に語りかけてくる、目の前の小さい命を喰らえと、感情のままに行動しろとっ!


「キュウ!? キューー!」


 俺は、数cm程の小うさぎにひっつき血を啜った。


〘吸血〙


「キュ、ギュ〜〜〜」


 ゴクッゴクッ。


 小さなうさぎは、どんどん血を吸われ細く小さくなっていく。


〈ベビーアルミラージを倒しました。経験値を取得しました。レベルMAXになりました。上位種への進化が可能です〉


 はっ! 俺は何を……怒りに心が支配されていた?

 これは、さっき見たうさぎ…………ミイラみたいになってる。

 さっき頭に響いた声はなんだ? もしかして、昔読んだ小説に出てくるような力が使えるのか?

 確か小説では……。


〘ステータス〙


――――――――――――――――――――


【名前】なし 

【種族】ブラッドモスキート

【体力】19/19

【魔力】16/16

【レベル】5/5(進化可能)

【状態】通常


【能力値】

攻撃力:18 防御力:14 魔攻防力:14


俊敏:24 知能:42 幸運:9


【種族スキル】

複眼Lv2、吸血Lv1、飛行Lv1、

再生Lv3、眷属作成Lv1、 

 

【通常スキル】

怒Lv3、

 

【耐性スキル】

火耐性Lv2、

  

《称号》

転生者、捕食者、

    

――――――――――――――――――――

 

 俺がそう念じると、目の前にゲームに出てくるようなステータス画面が出てきた。


 出てきた、本当にここは異世界なんだな。

 ふむふむ、細かい見方はわからないがこれだけは言える。

 俺弱ぇぇぇ〜〜! 絶対このステータスは弱い! それっぽいチートスキルもなくただの魔物って感じだ。

 転生させるなら、せめてなんか強いスキルとかくれよ!

 はぁ、やる気そがれるわぁ〜。 

 

 俺は、これからの暗い未来にやる気をなくしながら、渋々ステータスの細かいものにも目を向ける。


 え〜なになに、複眼、吸血、飛行、再生、この辺りは多分まんまだろうな。気になるのは、眷属作成と怒ぐらいか。

 眷属作成は、普通に仲間を増やせるのか? だったらありがたいけど、増やせても俺と同じ蚊だろうな。あんまり役立たなさそう。

 最後は、俺が一番気になってる怒だ。俺はこのスキルに一瞬支配された。効果は、理性をなくす代わりに攻撃力が上がるとかか? あんまり詳しくないから断定は出来ないがきっとそんな感じだろ。

 あとは、火耐性。これも多分名前と同じ効果だと思う。

 他に気になるのは、レベル横の進化可能ってやつか。


 俺は、進化可能について考える。


〈上位種に進化が可能です。進化しますか?〉


 うわっ、またでた。急に出てくるなよ。小説の知識を当てはめると、これは世界の声ってやつっぽい? にしても、進化って別の生物になるのか? 


〈上位種に進化が可能です。進化しますか?〉


 詳しい事には答えてくれなさそう、まぁ進化出来そうならやるか。ずっと蚊のままは嫌だし。

 よし、じゃあ進化する!


 そう俺が宣言した途端、視界が暗転し意識が途切れた。

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