第39話 魔王荘、再集結
翌日の昼頃の事だった。突然、魔王荘のグループチャットでグループ通話が開かれた。
通話を始めたのは、昨日の昼以降安否確認が取れていなかったエビリスだった。
「おい皆! エビリスから電話だ」
「エビリス、生きてたのか! まぁアイツの『スライミー・メタモル』は最強クラスの能力だしな、無事じゃない訳ねーか!」
マイクをスピーカー状態にして、レクスとヒスイ、リンドウにも聞こえるようにしてから電話に出る。魔王荘の奴らとこうやって会話するのも三日ぶりだな。この三日間は密度が凄かったので、彼らと話すのはとても久しぶりに感じる。
「エビリス、それに皆も無事だったんだな!」
『あぁ。昨日の昼以降連絡が途絶えてすまなかった。だがワシもこの通り無事だから、安心してくれ』
「……昨日アズトがメールした通り、俺も無事だ。その……勝手に抜け出して悪かった」
『結果的に無事だったから良いのよ。いきなりぶっ飛んだ事するなんていつも通りのレクスじゃない。ハムちゃんも無事みたいだし、色々と安心したわ』
『リンドウも猿になりながらも生きながらえた訳だし、ひとまずは全員無事って事か。それよりエビリス、いきなりグループ通話なんて開いてどうしたんだ?』
全員の無事を確認し終えた所で、ヴェルトが本題に切り込んだ。エビリスは一呼吸置いてから、衝撃の事実を告げた。
『それはお前達に伝えたい事があるからだ。……掴んだぞ、天魔会の本拠地を!』
「なッ……エビリス、本当か⁉」
予想の斜め上を行く報告に、俺は唖然とせざるを得なかった。レクス達も大体同じような反応だ。
『あぁ。ワシを襲って来た殺し屋の男を返り討ちにして、姿を真似させてもらった。ワシの髪の毛や爪を集めてワシの生首に変形させて、あとは殺し屋に変身したワシが一緒に写真を撮って偽造完了という訳だ。ワタルと交渉して、首を上納金として天魔会に入れてもらえる事になった。そしてついさっき、天魔会の本拠地に行ってワタルと面会してきたぞ』
「すげぇぜエビリス……相変わらず鬼有能だ」
前にも聞いたが、やはり自分から切り離した体の一部でも変形させられる『スライミー・メタモル』は汎用性の塊だな。それにエビリスの高い知能も加わり、最強クラスの使い勝手になっている。流石は魔王荘の策士だ。
『それで、天魔会の本拠地はどこにあったんだい?』
『……悪いがそれは分からない。相手側もまだワシを完全に信用した訳ではないようでな。移動中は目隠しをされ、本拠地ではスマホを触らせてもらえなかった。だから地理的な手掛かりは全くないな』
「えっ、それじゃ私達は本拠地に行けないじゃないですか。場所が分かったんじゃなかったんですか?」
『確かに場所は分かっていない。だが、タネは撒いて来た。準備は既に整っているぞ』
『……そうか、ヤマの能力か!』
エビリスの言葉を聞いたヴェルトは、大体の目星がついたようだ。
「ヤマの能力?」
『彼の能力『ヘルゲート』は二つの地点を繋ぎ、その二地点間を瞬間移動することができるんだ。ウチの押し入れと冥界を繋いでるのもこの能力だね。そして地点を繋ぐ条件は、彼自身が実際にその場所に訪れるか、彼の体の一部がそこにある事だ』
『そしてワシはさっき、天魔会の本拠地にこっそりヤマの髪の毛を置いて来た。これでヤマの能力の発動条件が満たされ、奴と合流さえすればいつでも天魔会に攻め込めるという訳だ』
「……という事は、もう準備は全部整ってるって事か!」
『そうだ。一刻も早く、天魔会との決着をつけなくてはならないんだろ? なら、決行は早い方が良いな。アズトの能力がフルに活かせるように、今夜にでも攻め込むとしよう』
『それじゃあ今日の十時に魔王荘に集合だな。皆、くれぐれもバレないように慎重に移動するんだぞ!』
ここまでやられっぱなしだったが、ついに逆転の兆しが見えてきた。
リンドウをこんな姿にして、大勢の人を傷つけて、俺達を引き裂いた天魔会。奴らの野望は、俺達が必ず食い止める。
~~~
約束の時間になり、俺達は三日ぶりの魔王荘に戻って来た。賞金稼ぎ達は既にマークから外したのか、周りに敵の気配は無かった。
改めて誰にも見られていない事を確認し、魔王荘の中に入る。既に俺達以外の全員、集まっていたみたいだ。
「久しぶりだなお前ら! そしてこのボロ屋も三日ぶりだ!」
「ボロ屋なのはそうだが……確かに実家のような安心感があるな。レクスの言う事もよく分かる」
「通話してて思ったけど、皆本当に相変わらずね! 賞金稼ぎに襲われ続けて精神崩壊してないか心配してた私がバカみたいじゃない」
「私達がそんな下衆な奴らに負けるわけがないじゃないか。なんてったって『魔王荘の魔王』だよ?」
「ヴェルトの言う通りだな。そこらの能力者がワシらを倒すなど100年早いわ!」
こうして全員無事に、またこの場所に集まる事ができた。それだけでも感慨深いものがあるな。だが、本番はここからだ。
「皆、お待たせ。……この様子だと、準備万端みたいだね」
最後に押し入れからヤマが現れて、魔王荘は全員再集結した。
「オレは現世の人間に過度に干渉する事は禁じられている。だからサポートできるのは、君達を送り届ける所までだ。そこからは完全に、君達に委ねる事になる。今回は魔王荘結成以来の超重大任務だ。必ず、生きて帰ってきてくれ」
「当然だ。『天魔会を潰す』『生きて帰る』どちらもやるのが魔王荘の魔王だからな!」
「フフッ、全員覚悟はできてるみたいだね」
俺達の様子を見て、ヤマは満足げに頷いた。
「それじゃあ送るよ。検討を祈る! 『ヘルゲート』!」
ヤマが能力を発動し、俺達は天魔会へと転送される。
「さぁ……魔王荘を怒らせた事、後悔させてやろうぜ!」
最終決戦が、今まさに幕開けようとしている。
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ヤマのメモ
能力名:ヘルゲート 能力者:オレ(ヤマ)
能力:二つの地点を繋ぎ、その二地点間を瞬間移動したり、させたりできる。地点を繋ぐには、オレ自身が直接そこを訪れるか、オレの体の一部をそこに置いておく必要がある。
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魔王荘は止まらない ~転生先は全員魔王のシェアハウス!? 今度は平和のために異能力で戦います~ 三ツ谷おん @onn38315
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