第18話 新たな魔王
「アズト! カイキはどうなったんだ⁉」
「ヴェルトか。この通り、徹底的にぶちのめしてやったぜ」
カイキを拘束し終えた所で、ヴェルトとヒスイが戻って来た。二人が迅速に客を避難させてくれたお陰で、一般人の被害をゼロに抑えることができた。
「救急車は呼んでおいた。君もそれなりの怪我をしているみたいだから、クリエとリンドウと一緒に診てもらうといいよ。あと、ありがとう」
「礼はいらないさ。命に代えてでも能力で悪事を働く奴を倒す、それが俺達魔王荘の使命だからな。それより、こっちこそ二人に礼を言いたい。二人がすぐに動いてくれなければ、もっと大変な事になってたと思う。ありがとう」
俺が感謝を伝えると、ヒスイは小さな笑みを浮かべていた。さっきまでは自信が無さそうにヴェルトの後ろに隠れていたが、自分から俺の前に出て来てくれた。
「……わ、私、能力者とはいっても戦えないので、ミュータント犯罪対策課の仕事なんて無理だと思ってました。でも、こんな私でも役に立てたんですよね? その、少し自信がつきました。本当は警察を辞めようか悩んでたんですけど……もう少しだけ頑張ってみる事にします」
本当に自信がついたのか、ヒスイの声には今までよりも少しだけ芯が通っていた。よく聞こえるようになって初めて分かったが、透き通るような良い声だ。
「あぁ。これからも一緒に仕事する時はあるだろうから、その時はよろしくな!」
「……はい!」
「おーい! やっと救急車が来たみたいだぞ! 二人とも、クリエとリンドウ運ぶの手伝ってくれ!」
俺達は二人を救急車に乗せ、そして俺も病院で治療を受けさせてもらえる事になった。二人とも重症ではあるが、命に別状は無さそうだ。
今回もかなりの強敵だったが、何とか誰も死なずに勝つことができた。それがただただ嬉しかった。
思い返せば、魔王だった頃はこんな感情は感じなかったな。あの頃はどこか、「魔王」という肩書に縛られている所があったのかもしれない。どうやら俺の心は、魔王荘に来たことで再生しつつあるみたいだ。
~~~
翌日。
クリエの解毒もリンドウの処置も終わり、ひとまず安心できる状態になっていた。そして俺達は、大事を取って数日入院することになった。
「アズトにクリエ、あとリンドウも。オレが来たよ~。はい、これお土産のプリンね」
「ヤマか。来てくれたんだな。そしてこれはプリンじゃねーか! よこせ俺に食わせろ!」
「……ハハ、狂気じみたプリン好きってのは本当だったんだ。まぁ、食べながら色々と話聞かせてよ」
俺とクリエ、そしてリンドウは、プリンを貪りながら昨日の出来事を話した。
「え⁉ あの指名手配犯、右堂カイキを倒したの⁉ 三人とも凄いじゃん!」
「あぁ。かなり苦戦したが、何とか倒せた。今回はかなりヤバかったんだから、前回よりは報酬多めにしてくれよな?」
「そうよ。流石に今回は十万じゃ割に合わないわ」
「それなんだが、奴は指名手配犯だからな。それを捕まえた以上、警察からお前らに報酬金が支払われるはずだ。アイツの危険度からして、二百万は下らないだろうな。それが恐らく二人に与えられる」
「「二百万!?」」
あまりの大金に、俺とクリエは声を揃えて叫んでしまった。
「二百万もあったらブランド物の服も化粧品も沢山買えるじゃない! あの憧れの高級ブランドにも手を出せるかも……! そうだ、今のうちに調べてリストアップしておきましょう」
「二百万もあったら日本中の超高級プリンがいくらでも買えるじゃねぇか! この世界の名だたるプリンを徹底的に食べつくしてやるぜ……! そうだ、今のうちに調べてリストアップしておこう」
「……こいつら馬鹿なのか?」
「単細胞って言ってあげなよ。可哀想じゃん?」
リンドウとヤマが何か言っているが、そんな事はどうでもいい。今はとにかく、目の前の天国を掴み取る事に集中しよう。
待ってろよ、俺の至高のプリン……!
~~~
数日後、ついに退院の時がやって来た。
……正直な所、もっと入院していたかった。病院の飯は魔王荘のよりも格段に美味いし、ベッドの寝心地も魔王荘とは比べ物にならない。だがヴェルトは、「また魔王荘の金が無くなる……」と嘆いていた。悲しきかなヴェルト。
「ただいまー。あー、このボロい木の匂いが懐かしい!」
「やーっと復活したか、お前ら。俺ならそのカイキって奴、入院するほどの怪我も負わずに倒せたけどな!」
帰って早々に、安定のレクスによる謎マウントが飛んできた。正直相手にするだけ無駄なのでスルーする。
「エビリス、俺達が入院している間は特に何も無かったのか?」
「あぁ。レクスも大人しくしてたからな。事件も起こらずいつも通りの平和な魔王荘だったよ」
「おい無視してんじゃねぇ!」
「というか、またヴェルトは仕事なのね。私達と違って忙しそうで可哀想だわ……」
「クリエ、それ絶対ヴェルトの前で言うなよ。『お前らも働け』ってワシらがボコボコにされるから」
久々に魔王荘で盛り上がっていると、同じく退院したリンドウとヒスイがやって来た。リンドウはまだ腕のギブスが外れていないみたいだが、調子は相変わらずみたいなので大丈夫だろう。
「久しぶりだなお前ら。俺が入院している間に、羽牟達がカイキの取り調べを進めてくれたみたいだから、お前らにも共有しに来たぞ」
「あんなヤバい奴の取り調べをしてくれたなんて、ハムちゃんありがとうね。やっぱり頼りになるわ!」
「えへへ。クリエさん、ありがとうございます」
ヒスイは何度かお見舞いに来てくれたが、その間にすっかりクリエとは友達になったみたいだ。今回の件もあってか、初めて会った時よりもだいぶ堂々としてきたように見える。
「まぁ取り調べをしたと言っても、カイキの奴はほぼ黙秘で押し通してるみたいだけどな。だが、一つだけ興味深い事を聞き出せた」
リンドウはパソコンの中の取り調べの資料を見せながら、語りだした。
「今回奴は、この保馬市で大量のエデンの実が発見されたと聞いて来たらしい。その噂の真偽はともかく、もしかしたらこの前の白コートの男が関係しているかもしれないと思ってな。カイキに聞いてみたんだ」
「それで……どうだったんです?」
「……残念だが、奴も噂で知った以上、詳しくは知らなかったみたいだ。だが、これだけは言っていた。———エデンの実を大量に持っているのは『魔王』と呼ばれる男だってな」
魔王。その言葉に、俺達全員が反応せずにはいられなかった。
「お前ら魔王荘が何か関わってるのかと思ったが……その驚き様じゃ、それは無さそうだな。だが、エデンの実なんて簡単に見つかる物じゃない。例の白コートの男が、魔王かその仲間と見て間違いなさそうだな。そいつが何を企んでるのかは分からないが、また何か騒ぎを起こすかもしれない。お前らも用心してくれ」
俺達以外にも、「魔王」を名乗る奴がいる……?
何が目的かは分からないが、少なくともヒョウのような外道に能力を与えている以上、味方で無いのは間違いない。
……俺達にだって、魔王なりの正義があるんだよ。外道に能力を与えて解き放つような奴に、魔王を名乗らせる訳にはいかない。
白コートの男、必ず見つけ出して、真の魔王の鉄槌を下してやる。
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