第33話 バック=バグの過去
昔、バックが五歳の頃。よく遊んでいた男の子とのやり取りを見て母はきっとバックは最高の神になれると語っていた。
月呪法の勉強をさせられていた頃、よく月神会の男の子たちや女の子たちと笑いあっていた。
共に学ぶ日々、この方法は子供たちに月祝法と呼ばせていた。
全ては大人たちの都合のいいようにさせられていた子供たちは熱心に月を祝っていた。
母はいつもバックの兄の話をした。兄が生きていればきっと良い兄妹になったろうにと嘆く母を見て、必ず自分が救ってみせると誓ったバック。
バックはとても愛された。それが条件だからだとは知らずに。そして、母とよく出かけた。
バックは母と手を繋いでいたのだが、興味や関心が高かったバックはすぐに手を離してあちこちを見るのだ。
それを見かねたバックの母は、よく言った。
「もう……置いていくわよ?」
母はこちらを見ながらも先に進む。バックは慌てて追いかける。そんな姿を見ながら、母は小走りで離れていく。
「待って! 待って! 置いてかないで!」
足の遅いバックは焦るが、母はすぐ立ち止まって手を繋ぎ直してくれる。
「お母さんの意地悪」
「ふふふ、バック、余所見もいいけど本懐を忘れないでね」
お母さんの悲願、月祝法の完成。そうすればお兄ちゃんにも会えるそうだ。バックは張り切った。世界を救うためという名目で。
ただ、反対運動をする人もいた。名前は知らないけど、お父さんとお母さんの知り合いもいたようだ。
だが、ただの宗教団体と思われているため、なんのお咎めもない。
月日が経ち、バックは本当に愛されていた。それは歪んだ愛だったがバックには関係なかった。毎日の日々が一番楽しかった。
そしてバックの八歳の誕生日前日、とても豪華な昼食に驚くバック。
明日は特別な日なのだ。深夜に教会に集まるバックたち。
「今日、月祝法を行ってくれるのは、バック=バグ、君だ」
「はい!」
「頑張って、天国のお兄ちゃんがついてるわよ」
顔も知らないお兄ちゃんに勇気を貰い、月祝法いや月呪法を行うバック。
深夜、日付が変わる十分前、バックは舞う。祈りを捧げ、月の三つの神に祈る。
踊るバックが零時になる瞬間光り輝いた。
「誕生日おめでとう! バック!」
母と父が祝ってくれる。その時だった。辺りが真っ暗になり、月が大きくなり近づいてくる。何が起こったかわからない。
「叶ったのか!?」
「とうとう成し遂げた!」
「バック=バグはやり遂げたぞ!」
父と母が駆け寄ってくる。
「本当によくやった。これでアクセルの元へ行ける」
「ああ! バックありがとう! あなたは神よ! 私の自慢の娘!」
月が背面からくるりと回り、三つの顔の月が姿を見せる。
「まさか我らを呼び寄せる者がいたとはな」
「ほほほ、望みは当然、国を呪うことですか」
「くくく、望み通り殺してやろう!」
バックはそれに慌てた。
「待って! 殺すって何? これは国を救う方法じゃなかったの?」
問答無用で死蝿が襲ってくる。皆恍惚な表情で死んでいく。母が叫んだ。
「お願いします! この国の政府の人間から殺してください! それが願いです」
それに対してデスの月が答える。
「いいだろう、お前も死ぬがそれでいいな?」
「はい!」
「お母さん!?」
バックは母の裾を掴み懇願する。
「こんな事はやめてよ! 間違ってるよ!」
だが父と母は笑っている。本当に幸せなのだ。復讐ができる。手の届かない場所にいる奴らに、仕返しができるのだ。
「ありがとう、バック。愛しているわ」
「誇れ、バック。お前は古ぼけた国を壊し新たな世界を創る神となるのだ」
そうして父と母も死んだ。もう動かない喋らない。おまけにバックだけが死なない。
「なんで……? 私も殺してよ」
もう死にたい。だが三つの顔の月は笑った。
「それだけはできない。我らを召喚した神なのだから」
神だなんだと何なんだ? そんなモノいるわけないのに。だが目の前で起こっている事実に、目を背けるわけにはいかない。
(神様、もしいるなら助けてください……どうかお願いします)
祈り続けて時間が過ぎ、太陽が登る時間になりつつある。願い続けるバックに太陽の神が応えた。太陽が大きくなる。
『汝の願いを叶えよう。ただ我は人の世に干渉できない。これより十年生き続けよ。そうすれば呪いは解ける。そしてお前の幻影を三つの顔の月に張り付かせる。お前が楽しく生きれば三つの顔の月は弱るだろう。だがお前が心を弱らせれば再びこの状況が繰り広げられる。お前の感覚を広げておこう、三つの顔の月の使者である蝿がいる場所と潰し方を教える。後は蝿によって弱らせられたり、死んだ者を生き返らせる植物を与えよう。半日過ぎたら効果はなくなるので注意せよ。何か質問はあるか?』
「半日ってことはお父さんとお母さん達も生き返るの?」
『それは許されない。お前達の罪だ。この国を呪ったお前の罪だ。背負って生きよ』
「十年頑張ればいいのね?」
『そうだ。それまでにお前が死ねば全てが無に帰すと思え』
バックは立ち上がる。人を救わないと……自分の罪だ。全てを背に背負って、光の中から現れた植物を手に取った。
『その植物を育てよ、葉に能力がある』
教会を出て、すぐ人が倒れてるのを見た。葉をちぎって飲ませるとその人は生き返った。
「君は……バック=バグか」
「何故私の名前を?」
「そんな事はどうでもいい! 月神会はどうなった?」
「月呪法というものを私が発動させてしまって皆死んだよ」
「何故そんなものを……」
「皆は神の祝福だって言ってた。でもそんな事なかった。私はとんでもない過ちを……」
「何故君は平気なのだ?」
「私が呪った張本人だから。そして、太陽の神に人を救う方法を教わったの」
バックは男に話をする。自分の名前を知るこの男に話を聞いて欲しかったのかもしれない。
「私が何とかする。君はその蝿とやらを潰してくれ。その植物は預けられはしないだろう? 私の車に乗れ。人を救おう」
「あなたの名は?」
「……そうだな、博士と呼んでくれ」
「……わかった。あなたを信じる」
感覚でどの方向、どれくらい先に蝿がいるのかわかった。かなり被害は拡大している。
「まずはほんの少しでも植物の葉が効果あるのか検証するぞ」
少しの欠片でも人々は生き返った。だが植物には限りがある。
「蝿があっちにいる。博士、お願い」
そうして潰して回る。四匹の死蝿を潰した後、国の政府機関に行った。そこは惨状だった。まだ時間はある、まずは死蝿を潰す。そうして選定が始まった。
まずは国のトップや幹部から、そうして事情を説明して回る博士は、後に三つの顔の月対策本部の主任となる。
そうしてバックには家を与え、月呪法を解くまでは安全に過ごすことを命じる。
それからたくさんの検証をして、植物の育て方等もわかってきたのだった。
それまでたくさんの犠牲が出た。公には公表されてない、不審死として人々は流行病を恐れたのだが、バックは何度も申し訳なさに悩まされた。
バック=バグ、八歳の頃の話
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