第25話 旅行編、ウェイの別荘

 しばらく車に行った所にウェイの別荘はあるらしい。実際はこちらの家が本当の家のようで、ペットを飼っているという事だ。

 ウェイがどんなペットを飼っているのか気になる一方、仕返しの内容が頭から離れないエラ。

「ねぇ、ごめんって言ってるじゃん。殺し屋のウェイの仕返しなんて受けたら死んじゃうよ」

「大丈夫ですわ、死にはしませんわよ」

 ふふふと不気味な笑いをするウェイに寒気が収まらないエラ。

 シャルは尋ねた。

「結構大きな家に住んでいると聞いてますが、管理は今は誰がしてるんですか?」


「使用人を雇っていますの。ワタクシ人を片付けるのは得意ですが、物を片付けるの苦手でしてよ。ですから仕事中もほぼ使用人に任せていますわ」

 ペットの世話も任せているというウェイにどんなペットを飼っているのか聞くバック。

「とっても可愛らしいペット達ですわよ。きっとバックは気に入りますわ」

 バック「は」という辺りで、エラが震えた。

「本当に大丈夫なの? 虎とかライオンだったら流石に無理だよ……?」

「それらに比べたら可愛いものですわ。勿論、虎やライオンを更に別宅で飼うことも検討してましてよ」


 車はウェイの別荘で止まる。シャルは運転席から降りない。

「行ってらっしゃいませ」

「あなたも来るんですのよ、シャル」

 そしてボソボソとシャルに話しかけるウェイ。ため息をついたシャルは運転席から降りて後部座席からエラとバックを降ろす。

 玄関に入るとメイド服の人が頭を下げる。

「おかえりなさいませ、ウェイ様」

「みんなは元気かしら?」

「体調の変化もなく元気ですよ」

 シャルがなかなか中に入らない。ウェイは一瞬で腹にパンチを入れ担いで連れて行く。

「ねぇ、ウェイ、ごめんってば。許してよ」

 シャル程の人間ですら恐る部屋がこの先にある。二重ドアの中に入っていくと、そこはジャングルを模した大きな部屋だった。

 リビングとも言える部屋に入ると、ウェイは中に入るように二人に言い、シャルを降ろした。

 そして鍵を閉めた。

「ちょ、ちょっと!」

「この子たちが怖がってはいけませんわ。大声はやめてくださいませ」

 そこには沢山の蛇がいた。

「……」

 エラは固まった。そして寄ってくる蛇たちに向かって首と手を振る。

「無理無理無理無理無理無理!」


 どんどん近づいてくる蛇たちの前に、バックは立って迎え入れた。サイズとしては小さめの蛇たちだ。

「毒は持っていませんが牙がありますので刺激はしないであげてくださいませ」

 バックは優しく手を差し出す。するうと腕に巻きついてきた。

「バックが襲われてるよ!」

「危険はありませんわよ」

「可愛いね、舌チョロチョロしてて凄く可愛い。ほら、エラも見て」

「わかった! 私が悪かったから勘弁してよ!」

「肩に乗っているのは平気でして?」


 エラが自分の肩を見るとタランチュラが乗っている。小さな悲鳴をあげて、ウェイに助けを求める。

「取って取って取って!」

 ウェイが手を差し伸べるとウェイの方に飛び乗るタランチュラ。

「ではこの部屋で三時間ほどお茶をしましょうか」

 顔を真っ青にするエラはバックに助けを求めた。だがバックは笑うばかりで周りを見ている。

「みんな共生しているの? 食べあったりしないの?」

「ワタクシ、爬虫類や蜘蛛などを調教できますの」

 それは一体どんなやり方だろう?

「叱る時は捕まえて殺気を放つ、愛でる時はいっぱい愛す。そうすることで、何をしたらワタクシに怒られるかを理解するんですの。ワタクシ、生き物の気配には敏感ですので逃がすこともありませんわ」


 シャルが気がついたのか、起き上がって部屋を出ようとする。

「どこに行くんですの? シャル」

「皆さんにお茶とお菓子をご用意します」

「あなたも客でしてよ。ワタクシの使用人にさせますからここから出しませんわよ。そもそもこの子達が逃げたらどうするんですの? 大人しく慣れてる人に任せるんですの」

 するとシャルは隅に寄っていてって、立ち尽くした。

「私は今から木です」

 すると笑い声を上げたウェイは指をパチンと鳴らし蛇たちを集めた。エラは震えている。

「あちらに木がありますわ。みんな行きなさい」

 ウェイがすうっと手を前に出すと、蛇や蜘蛛などがそちらに向かう。

「ひっ!」

 シャルがシャルらしくない悲鳴をあげた。そのまま固まっていると蛇や蜘蛛が登っていく。動けないシャルは完全に遊ばれていた。


「こちらジャイアントスネークのスネちゃんですわ、そしてこちらはジャイアントイグアナのイグちゃんでしてよ」

 1メートルを越えるイグアナに体長2メートルを越える蛇の登場に、もはや死人のようなエラは倒れた。

「もう好きにしなさいよ……」

「ふふふ、ではイグちゃんを持ってもらいますわね」

 巨大なイグアナをエラに抱かせるとエラはゆっくり感触を確かめてみる。

「あ、これは大丈夫かも」

「ワタクシも自慢の子達ですので好かれた方が嬉しいですの」

 バックは自分は何を任せられるのかと期待していると、ウェイはバックにスネちゃんを巻き付かせていく。

「撫でて大丈夫?」

「大丈夫ですわ。危険があればすぐにワタクシが殺気を放ちますので安心してくださいませ」

 バックが優しく撫でるとスネちゃんは頭をバックの顔に寄せて舌をチョロチョロと出す。

「可愛い」

「まぁ多分美味しそうだと思われていますわね」

「あはは、そうなんだね」

「毒はないの?」

 エラが尋ねるとウェイは笑って言う。


「ここにいる生き物には元々毒を持っていた子達もいますの。その子らは毒の器官を抜いた処置をしていますわ。ワタクシは毒なんて何ともないのですが、この子らの世話をワタクシの代わりにするメイド達に危害を加えてはいけませんもの。ペットはペットですわ、人を怪我させていいものではありませんの。怪我をさせれば最悪処分をされるのが常ですわ。ですので、躾も含めてワタクシがしっかりしていますわよ」

 そう語るウェイはとても楽しそうだった。そのまま、注意深くお菓子やお茶を容器に入れて持ってきたメイド達が、机に置いてお茶会を開く。

「エラ。座ってくださります?」

 イグちゃんを退かせ、机のお菓子を手にとるウェイは説明する。

「このお菓子はこの子達が食べても問題ありませんわ。ですから遠慮なく一緒に食べてくださいませ」

「食欲なんてないよ」

 エラがそう言うとウェイはアイスティーだけでもとストローの付いた容器を差し出す。

 こうして三時間、ウェイの家の部屋で過ごしたのだった。

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