突破
屋敷に戻り、急いで装備を整えたが、すでに屋敷は翼派に囲まれており、脱出が難しい状況に追い込まれていた。
俺たちは互いに顔を見合わせ、一点突破しかないと覚悟を決める。
「ここまでか…逃げ道はないか?」
剛蔵が焦りながら周囲を見渡すが、逃げ道はどこにも見つからない。
「隠し通路はない。俺たちが住んでいたこの屋敷で、そんな場所を知らないはずがないんだ」
剣が刀を握りしめ、覚悟を固めた表情で言った。
「一点突破しかない。正面の門を突破するんだ!」
俺は冷静に判断し、皆に指示を出す。
「兄上、やるしかない。私も戦います!」
琴が力強く剣を構え、決意を示す。
「俺もだ! こんな状況で黙ってやられるわけにはいかない!」
玲二も剣を握りしめて同意する。
「俺も戦うぞ。正面突破で逃げるしかないんだろ?」
勇太が俺の隣に立ち、共に戦う覚悟を決めた。
「私も行くよ、無駄な戦いはしないわ!」
グリズラが低い声で答え、すでに戦闘態勢に入っている。
「ナミラ、準備はいいか?」
剛蔵が隣のナミラに確認すると、彼女は静かに頷いた。
「行くぞ、みんな! 一気に突破して外へ出るんだ!」
俺は声を張り上げ、全員を先導する。
全員が屋敷の正面に向かって一斉に駆け出した。
翼派の兵たちは数で圧倒的だったが、俺たちは文字通り命を懸けて突撃を開始した。
「突撃だぁ!」
剛蔵が力強く咆哮し、敵兵に斬りかかった。
その剛腕から放たれる一撃で、複数の敵が倒れていく。
「私も続く!」
グリズラが吼え、次々に敵兵を薙ぎ倒しながら前進する。
「兄上、行けますか?」
琴が剣と共に敵兵を払い、前へ進む。
「問題ない、行くぞ!」
剣は鋭い刀さばきで敵を打ち倒し、玲二もその後に続く。
ナミラと剛蔵も共に戦い、俺は風の身体強化を使い、敵兵を次々とかわしながら前進した。
「突き破れ! このまま外へ!」
俺が叫び、全員が一致団結して一点突破を図った。
俺たちは、先頭を俺と剣が切り、次に琴、玲二、グリズラとナミラ、そして勇太と剛蔵が続く布陣で正門へ向かって突撃した。
次々と現れる敵兵に立ち向かいながら、翼派の兵たちを薙ぎ倒して進んでいった。
「突き破れ!」
俺が叫ぶと、剣も力強く前方を一気に切り開いてくれた。
琴もその後に続き、彼女の技と力で敵兵を吹き飛ばしていく。
グリズラとナミラも力強く後方を守りながら、全員が屋敷を突破するために進んでいった。
ついに、正門を突破した瞬間――
「行ける!」
と俺が振り返るが、そこで剛蔵が突然脚を止めた。
「何してるんだ、剛蔵!」
驚いて叫ぶと、剛蔵は振り返り、静かに答えた。
「俺が止める。お前たちは先に行け!」
「何言ってる! 一緒に行くんだ!」
俺が必死に食い下がるが、剛蔵は決然とした表情で俺を見据えた。
「ナミラ、グリズラ! おまえたちも一緒に来るんだ!」
振り返り、二人を呼び寄せようとするが、ナミラとグリズラは剛蔵の隣に立ち、静かに首を振った。
「私たちも旦那を置いて行けないよ」
ナミラが静かに答え、グリズラも黙って頷いた。
「でも――!」
さらに食い下がろうとした俺を、剛蔵が一喝した。
「隼人!!」
剛蔵の声が鋭く響き渡る。
「お前の使命は、郷田家に琴たちを連れて帰ることだ! この場に残ることじゃない! 俺たちはここで食い止める。その間に、お前たちは逃げろ!」
剛蔵の言葉に、一瞬言葉を失った。
剛蔵の覚悟が伝わってきたからだ。
「剛蔵……分かった。でも必ず、最後まで諦めるなよ!」
俺は目に決意を込め、拳を強く握りしめた。
「任せておけ。俺たちは負けない!」
剛蔵が力強く微笑む。
「行け! ここは俺たちに任せろ!」
グリズラも戦闘態勢に入り、ナミラも剛蔵の側に立つ。
悔しさがこみ上げてきたが、剛蔵の決意を無駄にするわけにはいかない。
琴、剣、玲二、勇太とともに、俺はその場を後にした。
「必ず、無事に戻ってくるんだ……」
そう呟きながら、前を向き、皆を連れて突き進んだ。
全力で走りながら、隣を走る剣に息を切らしながら声をかけた。
「剣! 馬を調達したい。どこかに安全な場所はあるか?」
俺の問いに、剣は険しい表情をしながら首を振った。
「もう光政派の家は、すべて翼派の手が回っている。どこも安全ではない……逃げ場がないんだ」
剣の声には、焦りと無力感が混ざっていた。
俺は唇を噛みしめながら、周囲を見回す。
逃げ場がなければ、このまま全員で突き進むしかない。
だが、その時、ふと脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
「鷹雅様だ……」
俺が呟く。
「鷹雅様? 叔父上が……どういうことだ?」
剣が怪訝そうに俺を見つめ、問いかける。
「鷹雅様は、翼派か光政派か、俺には分からない。だが……もし、彼が俺たちを助けてくれるなら…」
急いで考えをまとめながら話した。
鷹雅が今の事態を知れば、何か手を貸してくれるかもしれないと思った。
「叔父上が……」
剣は険しい顔をしながらも、何かを決意するように頷いた。
「分かった。鷹雅様のもとに向かおう。ただし、気をつけなければならない。叔父上がどちらに味方するか、確証はないんだ」
剣の言葉に、俺も力強く頷く。
「それでも、今は鷹雅様に賭けるしかない」
俺の声には、覚悟が滲んでいた。
「だが、急がなければならない」
剣が進む方向を指し、全員が再び走り出した。
鷹雅の屋敷にたどり着いた頃、彼はすでに俺たちの来訪を予感していたかのように、冷静な表情で座していた。
広い屋敷の大広間で、黙然とした風格を漂わせ、まるでこの混乱を見通していたかのようだった。
「来たか、隼人」
鷹雅は静かに口を開いた。
彼の声には深い重みがあり、その場の空気を引き締めているのがわかった。
俺はすぐに頭を下げ、息を整えながら鷹雅の前に進み出た。
剣や琴、勇太たちも、その厳粛な空気の中で一歩下がって控えている。
「鷹雅様、急報にて参りました。我々は光政様のもとを離れ、逃げ延びてここに参りました。光政様が…」
俺が報告を始めると、鷹雅はそれを遮るように静かに手を上げた。
「翼が動いたか。奴はこの時を待っていたのだな」
鷹雅はゆっくりと目を閉じ、重い息をついた。
「……光政は、どうなった?」
鷹雅の声には感情を押し殺したような響きがある。
俺は一瞬、言葉を詰まらせたが、覚悟を決めて報告した。
「光政様は、翼の手によって……討たれました。乱入した翼派により、無念にも命を落とされました」
その瞬間、剣が肩を震わせ、涙を堪えるように顔を伏せた。
琴も必死に泣き声を抑え、固く拳を握りしめている。
鷹雅はしばらく言葉を発することなく沈黙し、やがて重々しく頷いた。
「……そうか、光政は討たれたか。あの愚か者が、ついにやってしまったな」
その言葉には、怒りや嘆き以上に、深い諦念と悲しみが込められていた。
「翼は、私の息子ではあるが、その行動は許しがたい。光政を討つことで大谷家を手中に収めようとするその浅ましさ……謝罪する。全ては、私の不徳の致すところだ」
鷹雅は頭を垂れ、翼の行動に対する責任を感じていることを俺たちに告げた。
その姿を見て、俺は彼がどれほどこの事態を予感し、苦悩していたのかを痛感した。
「今、あなた方がここに来たことに感謝する。だが、光政を失った大谷家は、このままでは崩壊する恐れがある。お前たちは何としても、郷田家に無事戻り、状況を伝えねばならぬ」
鷹雅は強い口調で俺たちに告げた。
「鷹雅様……」
俺が答えようとしたその時、鷹雅は鋭い目で俺を見つめた。
「お前たちの使命は、郷田家の力を借り、大谷家を救うことだ。光政はすでに失われたが、大谷家の未来を守るためには、まだ道が残されている」
俺は深く頷き、その言葉を胸に刻んだ。
鷹雅は、俺たちが郷田領へ逃れることを見越して馬をすでに用意してくれていた。
屋敷の前に出ると、そこには頑丈で戦闘にも耐えられそうな馬が並んでいた。
手配された馬の数は十分で、全員が馬に乗ることができる。
「隼人、勇太、剣、玲二、琴。この馬で迅速に郷田領へ向かえ。道中、翼派の追手が現れるかもしれないが、この馬ならば早く逃げられるはずだ」
鷹雅は力強い声で告げ、俺たちを見送る。
「ありがとうございます、鷹雅様。この恩は必ず返します」
俺は深く頭を下げ、礼を述べた。
剣や琴、勇太たちもそれぞれ礼をして、馬に乗り込む。
「急げ、時間がない」
鷹雅の言葉に促され、俺が馬の手綱を引き、全員が出発の準備を整えた。
俺が先頭に立ち、次に剣、琴、勇太、そして玲二が続く。
鷹雅が手配してくれた頑丈な馬たちは力強く地面を蹴り、俺たちを一気に郷田領へと駆け出した。
馬蹄が地面を叩く音が響き、俺たちの姿は鷹雅の屋敷から遠ざかっていく。
振り返ることなく、ひたすら郷田領を目指し、険しい山道を抜け、追手が来る前に距離を稼ごうとしていた。
「隼人、無事にたどり着けるか?」
剣が隣で低く問いかける。
「必ずだ。俺たちはこの試練を乗り越え、郷田領で力を蓄える。大谷家を取り戻すために、全力を尽くそう」
俺は強い決意を込めて答え、前方を見据えながら馬を走らせ続けた。
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