滅亡予定のモブ国家に王女として転生したので、影ながら世界を救う変身ヒロインになります~気付けば原作が跡形もないけど、平和になったから別にいいよね?~
ジャジャ丸
第1話 炎の変身ヒロイン
眼下に広がるのは、燃える町。
あちこちから悲鳴が上がり、剣戟のような金属音まで聞こえてくる。
けれど、そこで町を守るために戦っている騎士達が相手にしているのは、人間じゃなかった。
魔力から生まれ、人を襲う、普通の生物とは全く違う性質を持った化け物達。
魔物の群れだ。
「騎士達がやられてる、早く助けないと」
『気持ちは分からないでもないですけど、あなたの鎧はまだ未完成です。あまり活動出来る時間は長くないですから、下手をするとあなたの正体が露見してしまいますよ。そうなったら私の研究も露見して大変なことになりますから、慎重にお願いします』
「分かってるよ」
炎を纏って空を飛びながら、私は耳に付けられたヘッドホンに似た通信魔道具にそう答える。
私は現在、真紅の鎧を纏って上空を飛行し、魔物の襲撃を受けた町に到着したところだ。
鎧と言っても、手足と腰周り、胸のあたりしか保護してないし、背中から伸びた翼に似た部位から炎を噴きながら空を飛ぶこれを、果たして鎧と呼んでいいのかは疑問だけど。
どちらかといえば、これは……魔物と戦うための、私の“武器”だ。
「行くよ!!」
一気に急降下し、今にもやられそうになっている騎士と魔物の前に割って入った。
着地と同時に粉塵が舞い、魔物が吹き飛ぶ。
爆心地で起き上がり、長い金髪を翻す私を、周囲の騎士達は驚きの表情で見つめる。
「な、なんだ!? 新手!?」
「いや、違う。紅蓮の鎧を着た……少、女……?」
「なぜこの場に、女の子が!? しかもあの姿は一体!?」
私を目にした騎士達が、驚愕の声を上げる。
まあ、こんな戦場のど真ん中に鎧姿の女の子が現れたら、誰だって驚くよね。
「まあ、今はそんなことより、こっちの対処が先か……!!」
拳を構えたその先にいるのは、緑色の肌を持つ小鬼……ゴブリンだ。
魔物の中では数は多くとも比較的弱いはずのそいつが、剣で武装してこちらに構えているその姿を見て、私は思わず顔を顰める。
「なんでゴブリンが金属の剣なんて持ってるの? おかしくない?」
『殺した騎士か、町の外に拠点がある盗賊か何かから奪った物でしょうね。町を飲みこむ規模に育ったゴブリンの群れですから、そんなのが大量にいてもおかしくないですよ』
「……そっか。そういうことなら、遠慮はいらないね!!」
翼から噴き出た炎に後押しされ、凄まじい速度で繰り出された拳がゴブリンを叩き潰す。
血の一滴も流さず、ただの魔力になって空気中に霧散し消えていくという奇妙な現象には違和感を覚えるけど、それがこの世界の"魔物"という存在なんだと自分を納得させる。
というか、これくらい生物の枠から外れていてくれた方が、私もやりやすいし。
「てやぁぁぁぁ!!!!」
手足の鎧からも炎を噴き出し、全身をコマのように回転させながら蹴りを繰り出す。
次から次へとゴブリンを薙ぎ倒し、ただの魔力へとその存在を変えていく。
ゴブリン達も剣を振るって対抗しようとはするんだけど、今の私にそんなものは通用しない。
真正面から拳で弾いて剣をへし折り、カウンターを叩き込んで吹き飛ばした。
「す、すげえ……なんなんだ、この子は……!?」
「ゴブリンが、あっという間に……!!」
呆然とする騎士達を余所に、目につくゴブリンを片っ端から薙ぎ倒す。
そうしていると……これまでとは一線を画する、巨大なゴブリンが現れた。
「グオォォォォ!!」
轟く咆哮に、思わず耳を塞ぐ。
普通のゴブリンが"今の"私の腰くらいの背丈しかないのに、こいつは二階建ての家よりも大きい。
こいつはゴブリンを束ねる王……キングゴブリンだ。
「めちゃくちゃ厄介そうなのが来たね……全力で一発ぶちかまそっかな」
『さっきも言いましたけど、今の鎧は稼働出来る時間が短いです。本気の一撃を放ったら、戦線からは離脱するようにお願いしますよ』
「……了解」
まだゴブリンは残っているし、出来れば完全に掃討してから撤退したいんだけど……さっきの大暴れもあって、このデカブツさえ倒せば、後は任せても大丈夫なくらい敵の数は少なくなってる。
そうと決まれば、と……私は、地面に落ちた紫色の石を拾い上げた。
消滅したゴブリン達が唯一この世界に遺した物。魔物を形成する核となっていた、"魔石"だ。
「行くよ、デカブツ。《
腕に付いたガントレットを開き、そこに空いた穴へと魔石を放り込む。
ガシャンッ、と金属音を響かせて閉じたガントレットは、潰し砕いた魔石から高純度の魔力を抽出し、全身へと巡らせていく。
「《
「グオォォォォ!!」
漲る力を拳に込めて、炎の塊と化した私は一直線にキングゴブリンへと突っ込んでいく。
キングゴブリンもまた、私を叩き潰さんと近くにあった家をそのまま手掴みで引き抜き、叩き付けようとしてきたんだけど……魔石の魔力で限界突破した今の鎧の出力では、そんなもの障害にもならない。
「はあぁぁぁぁぁ!!!!」
家を貫き、キングゴブリンの体さえ拳一つで突き破った私は、その先で砂煙を上げて着地。
直後、キングゴブリンの体は盛大な爆発を起こして消えていった。
「ま、まさか……キングゴブリンが、こうもあっさり……!?」
「普通なら、騎士十人が束になって、相打ち覚悟で倒すような魔物だぞ……」
「本当に、何者なんだ……?」
さて……出来ればここで派手に名乗りを上げた方がヒーローっぽくてカッコイイなって気はしないでもないんだけど、残念ながら今の私にはあまり時間がない。
万が一にも鎧が解除されて、私の正体が露見するような事態は避けなきゃいけないわけだし、ここらでお暇するとしようかな。
「騎士さん達、後のことは任せたから!」
「ま、待ってくれ!! せめて名前を!!」
そんな声が聞こえたので、私は最後に一言だけ言い残し、炎の翼で大空へと飛び立った。
「"ブレイズ"……って名乗っておこうかな。それじゃあね!!」
そんな風に思いながら、私は大急ぎで戦場から離脱していった。
上空を高速で飛翔していった私は、人里離れた山の麓へと着地した。
そこでようやく一息吐いた私は、鎧を解除して腕輪型のデバイスへと戻す。
同時に、鎧の効果で変化していた私の体も、元の姿を取り戻していった。
十六歳くらいだった身長が、十二歳ほどに。
長く伸びていた髪は短く纏まり、服装は煌びやかなドレスへと。
金髪赤目の美幼女へと変貌した私の耳に、パチパチと手を叩く音が聞こえて来た。
振り向けば、そこには黒髪黒目に白衣を纏った、二十歳前後の若い女性が立っていた。
「初戦闘でここまで完璧に使いこなすとは思っていませんでしたよ。流石、ボクが見込んだだけのことはありますね、アイミュ王女殿下」
「その呼び方はやめてよ……レーナに敬われると、そのまま人体実験でもされそうで怖くなっちゃう」
この人の名前は、レーナ・ディストピア。私が戦うための兵装、
間違いなく魔法科学者として優秀な人物なんだけど、いかんせん研究バカというか、マッドサイエンティストというか……頭のネジが何本か抜け落ちたような思考回路をしているのが難点なんだよね。
そんな私の評価を裏切ることなく、レーナはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「よく分かってるじゃないですか、アイミュ様。にしし」
「そこは否定して。私がこの国の王女なのは事実なんだよ?」
溜息を吐きながら、改めて私は私自身の"今の"立場と名前を思い出す。
アイミュ・レナ・ルナトーン。まだ十二歳の、ルナトーン王国第二王女にして……前世の記憶を持つ、転生者。
そんな私がどうして、正体を隠して魔法の鎧を纏い、魔物を相手に戦うことになったのか。
話は、私が前世の記憶を取り戻した五年前にまで遡る。
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