第92話
内心でほっと胸を撫で下ろす乃亜の前で、健はクローゼットを開けた。掃除用具一式が並んでいる。
「明日掃除やっとけよ。おまえは家で家事とダイエットだけやってりゃいいんだろ。気楽でいいよなあ」
「…………」
確かにこちらに来て、乃亜は仕事をしていない。健の言う通りだが、そんな言い方をされると嫌な気分になった。
それにダイエットだって楽ではなかった。必死な努力の結果、ここまで痩せたのだ。なのに、まるで遊んでいたかのような口ぶり。
(理央くんは、そんなひどいこと言わなかったのに)
唇を噛み締める乃亜の前に仁王立ちして、健は更に続ける。
「オレと結婚すれば専業主婦になれるんだ、嬉しいだろ?」
「ちょっと待って、私、健ちゃんと結婚は――」
「子育てとパート程度の楽な人生なんだから、家事も合わせておまえの仕事だ。手を抜くなよ」
あまりの言い草に、乃亜は唖然とした。思い返せば、アルバイトやパートをしている乃亜に対して、健はしばしば見下したような発言をしていた。
(私、なんでこんな人が好きだったんだろう)
どんどん健から離れていく乃亜の心。そんなことには気づかない健は、乃亜にぴったりくっついて座ると、乃亜の太腿を撫でる。
「なあ、久しぶりに……いいだろ?」
「!!」
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