第25話 死亡フラグの死神(2)
二人のハッピーエンダーの信念の違いは、永遠に交わることは無いのだ。どうせこれ以上話しても無駄だと考えたギガデスが、話を変える。
「しかし、僕が関わっていると、いったい
「最初からさ。ブラウンの台詞、『報奨金は山分けだぜ』なんて有名どころの死亡フラグを俺が見逃すと思ったのか? 映画『荒野の七人』のハリー・ラックの死亡台詞から引用したんだろうがな」
「ご名答です。流石最強のハッピーエンダーと言われたロックさんですね、
死亡フラグはただ入れれば良いというものではない。やはり美しく物語を彩るものでなければいけません。しかし今回はその僕の
逆に言うと竜退治でロックさんに急に『物語改変』されたときは、あまりに陳腐な死亡フラグを入れてしまったんじゃないかと後悔していますよ」
そう話しながら、ギガデスは
「しかし見破られたのは、むしろサロメさんの力ですかね? 流石良い相棒をお持ちだ。ロックさんの大罪に巻き込まれて本にされてしまったものの、元々ハッピーエンダーですものね」
サロメを褒めるふりをしてロックの罪を責めるギガデスに、彼女の神経も逆なでされたようだった。
「無理に褒めなくても結構よ。私、あなたのこと嫌いですもの」
「これは手厳しいですね、ははは」
そう言いつつも気にした素振りも見せず、ギガデスはブラウンに話しかけた。
「
死亡フラグの死神に
「行くな、ブラウン。君を死なせるわけにはいかない。こんなことはやめるんだ。
誰も死なずに生き残れる展開があるはずだ。そのために僕は全てを投げ打ってでも戦う。だから君にも生きるために戦ってほしいんだ」
「お前は優しすぎるよ。そんなところが嫌いなんだよ」
嘘を付いたとき特有の火傷の煙を指先からぶすぶすと出しながら、ブラウンは劇場を去っていく。
すぐに追いかけようとするシーザーを、しかしロックが引き留めた。
「行くな、シーザー。ブラウンを助けるたった一つの賭けがある。ただお前さんには、今からその危険な賭けを成し遂げてもらう必要があるんだ。今は残るんだ」
その言葉を聞いたギガデスが、またもや小馬鹿にしたように黒マントを揺らしながら、くつくつと笑い始めた。
「たとえ最強のハッピーエンダーのロックさんと言えど、今更ブラウンさんの運命は変えられません。
死亡フラグは一発で決まる、一撃必殺の展開だとか勘違いしてませんかね。そうじゃないんですよ。真に美しい死亡フラグというのはですね、展開に展開を積み重ね、もう死ぬ以外考えられない、そういう宿命の領域まで高められて決まるものなのです。
そして今回僕は最も美しい死亡フラグを描かせていただきました。今更あなたの
ギガデスの完全な勝利宣言。だが今のロックにはそれに反論できるだけの余裕はなかった。彼はシーザーの肩をつかみ説得する。
「とにかく鍵となるのは聖剣だ。シーザー、お前さんが拒絶されている聖剣を上手く『役立てる』ことによって、ブラウンの死を
逆に言えば、このまま戦いに
「つまり奇跡頼みってわけじゃないですか。『最強のハッピーエンダー』が聞いて呆れる」
今まで笑いを押し殺していたギガデスが、ついに大声を上げて笑い始める。残念ながらシーザーも疑念を払えなかったようだ。
「ロックさん、それでブラウンの死を回避できる保証があるんですか?」
「保証なんてあるわけない。賭けるしかないんだ。だが、今このまま突っ込んでいけば、その賭けにすらならないんだよ。いつものように冷静になれ、シーザー」
シーザーは早鐘を打つ鼓動を確かめるように、自らの左胸を手で押さえながら叫んだ。
「冷静でいられるわけが無いじゃないですか! 僕は戦う前いつも不安で仕方ない。今度は負けるんじゃないか、仲間が死ぬんじゃないか、人々を巻き込んでしまうんじゃないかとずっと葛藤していますよ。ましてや今回はブラウンの命が掛かっているんだ!」
「お前さんは俺と初めて会ったとき『僕は臆病者です。でもどうせ臆病者なら、前のめりに死にたい』って言っていたのを忘れたのか? 不安と戦うんだ」
「ロックさん、あなたは
そもそもあなたは登場人物のことなど考えず、自分の勝手で物語改変した大罪人じゃないですか。だからそんな無責任なことが言えるんじゃないんですか?」
ついには、触れてはいけないロックの古傷を
「くくく、とんだ茶番だ。僕はこの展開の結末――ブラウンさんの最期を特等席で観覧しに行くことにします。さようなら、ロックさん、ミスサロメ」
そう言うと、ギガデスは
本のサロメを強く握りしめ、ロックは誓うのだった。
「見てろよ、『死亡フラグの死神』め。絶対にお前の思い通りにはさせない――」と。
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