荒療治

 前書き

何か、映画で観た事ある!!ってなるだろうけど気にすんな←




 夕方前の池袋某所。

 其処にあるマンションの一室とも言える"犬小屋"に行くと、リビングで煙草を燻らせながら資料とにらめっこする正樹の姿があった。

 正樹は涼子に「どした?」と、暢気に尋ねる。

 だが、涼子の後ろに陽子の姿を認めるや否や、態度を一変させた。


 「おい、何でソイツ陽子が居るんだ?今日は約束の期限じゃねぇぞ」


 辛辣に問うと共に手にしていた資料を裏返して部外者である陽子が見えないようにした正樹は、腰からGLOCK17を抜いて右手に握りながら陽子に怒気と共に問う。


 「俺は言ったよな?期限前に此処に来たら殺すって?忘れたとは言わせねぇぞ」


 正樹が有言実行を果たす為に躊躇いなく陽子に銃口を向けようとすると、涼子がスッと陽子の前に立って正樹の射線を遮った。

 そんな涼子を正樹が殺気の籠もった怒気と共に睨み付けながら「其処どけ」と警告すると、涼子は正樹に告げる。


 「私が連れてきたのよ。ジックリと話し合う為に」


 陽子とジックリと話し合う為。

 そう涼子が告げれば、正樹は銃口を向けたまま吐き捨てる様に返す。


 「だったら、他所でやれ。此処に部外者連れ込むんじゃねぇよ」


 部外者をセーフハウス隠れ家に連れ込むな。

 至極真っ当な正論を叩きつけられれば、涼子は申し訳無さそうに答える。


 「私だって悪いと想ってるわよ。だけど、内容が内容だから、他所で大っぴらに話せないわ」


 言い訳がましく聞こえる涼子の答えに正樹は何かを察したのだろう。

 ウンザリとした気持ちが籠もった大きな溜息を漏らすと、銃口を下ろしてGLOCK17を腰のホルスターに差し込みながら告げる。


 「話し合うってんなら、俺は席を外す」


 それは陽子を殺すのを辞める。

 その宣言でもあった。

 正樹は資料の束を全て手に取ると、リビングから去ろうとする。

 だが、陽子の脇に立つや陽子をシッカリと見据え……否、睨み付けた上で怒鳴りつけた。


 「与えられたチャンスを無碍にすんじゃねぇよクソガキ!!嘗めた事抜かしたらマジでブチ殺すぞ!!」


 憤怒の形相と共に怒鳴りつけると、正樹は今度こそリビングを後にする。

 そんな憤怒に満ちた正樹の背を涼子は陽子と共に見送ると、陽子に告げる。


 「取り敢えず、其処座って……あ、何か飲む?」


 涼しい表情で何も無かったかの様に陽子に問うが、陽子は緊張した面持ちで答えられなかった。

 そんな陽子の気持ちを察した涼子は陽子の意志を敢えて無視して、ケトルに水を注いでお湯を沸かし始める。

 ケトルを沸かしてる間。

 手持ち無沙汰になった涼子は何処からとも無く愛用の煙管を手にすると、慣れた手付きで火皿に煙草の葉を詰め込んでいく。

 火皿内に葉を詰め込み終えると、涼子は指先に灯した仄かな火で点せば、紫煙を吐き出した。


 「ふぅぅ……」


 堂の入った涼子の喫煙姿に陽子は驚きを露わにしてしまう。


 「薬師寺さん、煙草吸うんだ……」


 「禁煙してたんだけどね。あ、学校には内緒よ?」


 涼子は紫煙と共におちゃらけながら口止めしすると、煙管を燻らせながらも真剣な眼差しを向けて問う。


 「すぅぅ……ふぅぅ……本気で私達と共に戦いたい。その意思に変わりはないのね?」


 「無いわ」


 陽子がハッキリ答えると、涼子は落胆しながらも何も言わずに煙管を燻らせる。

 そして、陽子に見えない様に右手に一丁の大きくクラシカルなリボルバー拳銃を召喚すると、陽子に見せながら語り掛ける。


 「ダーティーハリーは知ってるかしら?」


 唐突に何の前触れも無くリボルバーを見せ付けられながら問われると、陽子は恐る恐る答えた。


 「て、テレビで観た事はあるわ」


 陽子が答えると、涼子は続きを語り出す。


 「そのダーティーハリーことハリー・キャラハンのシンボルにして44フォーティーフォーマグナムを一躍有名にした拳銃がコレ……Sスミス&Wウェッソン M29。無骨で飾り気の無い時代遅れの古い拳銃よ」


 そう語ると、涼子は陽子の前に赴いてダイニングテーブルの上に置いた。

 テーブルの上に置かれたS&W M29が異様な存在感を醸し出し、涼子が何をするつもりなのか?

 解らない陽子は困惑してしまう。

 だが、涼子は困惑する陽子を他所にS&W M29の前に6発のセミジャケット仕様のソフトポイント弾を並べていく。

 並べ終えると、涼子は陽子に命じる。


 「M29を手に取って弾を込めなさい」


 「え?」


 益々困惑してしまう陽子に涼子は語気を強めて繰り返す。


 「銃を取って弾を込めろ」


 有無を言わさぬ涼子。

 陽子が恐る恐るS&W M29へ手を伸ばして掴むと、涼子はリボルバーの最大の特徴とも言える弾倉。

 もとい、シリンダーの出し方を教えた。

 涼子に教えられた通り、シリンダーをスイングアウトさせた陽子は1発ずつ44マグナム弾を装填していく。

 程無くしてシリンダーへ6発の44マグナム弾を装填し終えた陽子に対し、涼子は更に命じる。


 「弾を装填したらシリンダーをフレームに戻しなさい。戻したら、私の前に立ちなさい」


 何をさせたいのか?

 解らぬ陽子であったが、素直に応じた。

 そして、陽子が目の前に立つと、涼子はハッキリと命じる。


 「それで私を撃て。引金に掛けた指に力を込めるだけで良いわ」


 「え?」


 自分を撃て。

 いきなり、そう命じて来た涼子に陽子は訳が解らなくなってしまう。

 だが、涼子は気にせず言葉を矢継ぎ早に浴びせて急かす。


 「どうした?人殺し。早く撃てよ。人殺しする覚悟キメたんでしょ?ほら?早く撃ちなさいよ」


 しかし、引金が引かれる事は無かった。

 そんな陽子に業を煮やしたのか?

 涼子はS&W M29を持つ陽子の手ごと掴むと、銃口を自らの眉間に押し当て、再び命じる。


 「コレなら当たるでしょ?ほら、撃鉄を起こして引金を引きなさい」


 唐突で突然過ぎる命令に陽子は強く拒絶する。


 「嫌よ!!」


 そんな陽子に涼子は問う。


 「貴女は人殺しになりたいんでしょ?だったら、私を撃ち殺して人殺しになりなさいよ。さぁ!!撃てよ!!」


 笑顔と共に問われ、更には自分を撃て。

 そう涼子から強く告げられた陽子の頭の中は混乱のあまり真っ白になってしまう。

 それ故、S&W M29のウッドグリップを握り締める右手はガクガクと大きく震わせていた。

 そんな陽子を涼子は笑顔と共に容赦無く急かす。


 「早く撃ちなさいよ。人殺しになる覚悟を決めたんでしょ?なら、撃てるわよね?ほら、撃てよ。撃ちなさいよ」


 真剣な眼差しと共に強く浴びせられる涼子の言葉に陽子は何も出来なかった。

 S&W M29を握り締める手を震わせるだけで、陽子が何も行動せずに居ると涼子は笑顔のまま指示を下す。


 「私にソレM29を寄越しなさい。何もしないからさ……」


 涼子の言葉に陽子は解放されたと想い、胸の内でホッと胸を撫で下ろしながらS&W M29差し出す。

 陽子から差し出された瞬間。

 涼子は即座に奪う様にしてもぎ取ると同時。

 陽子の頭。もとい、髪を左手で乱暴に掴んで目と鼻の先まで引き寄せる。

 そして、銃口を陽子のこめかみに強く押し当てながら陽子の耳元に自分の口を近付け、問い掛けた。


 「私みたいな人殺しは平然と嘘を吐く。チョロいものね小娘が……さて、貴女の目には何が見えるかしら?ねぇ?何が見える?」


 嗤って問い掛ける涼子に対し、陽子は強烈な恐怖と悍ましさにガクガクと全身を震わせてしまう。

 そんな恐怖で泣きそうになる陽子へ、涼子は撃鉄を起こしながら急かす様に問うた。


 「ほら?早く答えなさいよ。貴女の目には何が映ってる?何が見える?」


 しかし、陽子は直ぐ近くにある死の恐怖で答えられなかった。

 だが、涼子は気にする事無く嗤い、急かす様に問う。


 「ほら、早く答えなさい。何が見える?間違えたら終わりよ」


 「解らない!!解らないよ!!」


 心の底から吐き出す。

 否、絞り出す様に陽子が答えると、涼子は笑顔から一変。

 真剣な表情で怒鳴る。


 「アンタは死を解ってない!死の意味を解ってない!!」


 其処で言葉を切る涼子であった。

 だが、銃口は強く押し当て、引金から指を離す事無く更に言葉を強く浴びせていく。


 「恩人の為に人殺しになりたい?ふざけんな!!私はアンタを人殺しにする為に助けたんじゃない!!」


 涼子は本心からの言葉を浴びせると、未だに死の恐怖に身を震わせ続ける陽子は更に告げる。


 「アンタは闇の世界から抜け出せた!だったら、表の世界で生きるチャンスを生きてる内に活かしなさい!!」


 そう告げれば、涼子は陽子に押し付け続けていた銃口を下ろし、解放する。

 強烈な死の恐怖から解放された陽子がその場にへたり込んでしまうと、涼子はハッキリと問う。


 「決断しろ!!」


 涼子の問いは一言だけであった。

 だが、その一言で充分なのだ。

 未だに死の恐怖に身を震わせ続けて沈黙する陽子へ、涼子はさっきまでの殺意や狂気が嘘の様な優しい笑みを浮かべて語り掛ける。


 「生きてる間にチャンスを活かしなさい。貴女は真っ当に生きられるし、良い学校にも通ってるんだからソレを活かして良い就職先を見付ける方が良いわ。やりたい事を捜してみるのも悪くないわね」


 優しく諭す涼子に陽子は沈黙を破って尋ねる。


 「薬師寺さんはどうして……」


 その後の言葉が見付からず、言い淀んでしまう陽子に涼子は真摯に答えた。


 「私は成り行きから戻れない所まで流された。そして、生きる為に数え切れない人間を殺してしまった。もう、後戻りが出来ないのよ……だからこそ、大事な友である貴女が私みたいになって欲しくないと切実に願ってる」


 涼子の言葉は心の底から願っている本心であった。

 そんな本心を汲んでくれた。

 だが、それでも納得が行かないのだろう。


 「ねぇ……私を救ってくれた恩人の為に尽くしたいって気持ちは間違ってるの?」


 涙を浮かべて問う陽子の言葉に涼子は真剣に答える。


 「間違ってはいない。でも、だからといってクソみたいな世界に踏み込もうとするのは絶対に駄目……貴女は退魔師なんてクソみたいな世界から抜け出す事が出来たんだから、そのチャンスを活かして真っ当に生きるべきなのよ」


 涼子の願いとも言える答えに陽子は漸く納得してくれた。


 「解ったよ。薬師寺さんの望みがそれなら……」


 心が折れた様に涼子の望みに応じ、自分の願望を棄てた陽子を涼子は責める事無く敬意を示した。


 「貴女の覚悟は立派だったわ。御世辞や嘘を抜きにしてもね……貴女は強いわ。今までクソみたいな環境を堪え忍び、生きる為に決断した貴女は立派過ぎると言っても良いくらい。だから、その強さを真っ当な人生で活かしなさい」


 そう言い終えると、涼子は改めて魔女として対価を要求する。


 「私の望みは貴女が真っ当に生きて、天寿を全うする。コレに尽きる。そして、ソレが貴女を救った私に対して支払う対価……」


 実質、無償の施しとも言える対価の要求をする涼子に陽子は尋ねた。


 「何で、薬師寺さんは私にそこまで優しくしてくれるの?ねぇ?何で?」


 今まで酷い環境に居たからこそ、陽子は涼子が此処まで優しくしてくれたのか?

 哀しい事に解らなかった。

 そんな陽子へ涼子はアッケラカンに答えた。


 「私がそうしたいから。理由なんてそんなんで充分なのよ」


 そう答えると、ケトルが沸いたのだろう。

 甲高い音を立て始めた。


 「お湯も沸いた事だし、ティータイムとしましょうか?」


 涼子はニッコリと優しく笑って告げると、自分と陽子の為に美味しい紅茶を淹れるのであった。




 後書き

イコライザーシリーズ好きなんだよね


ある意味で涼子と正樹はマッコールさんみたいなタイプだったりする


まぁ、マッコールさんの方が断然ぐう聖だけど←


それでも邪悪な怪物から愛で人に戻った。


マッコールさんも自分の過去の行いは万死に値すると自ら認め、愛する人に二度とそういう事はしないと誓った…そう言ってたろ?


涼子も赦されるなら邪悪な頃の自分に戻らずに真っ当な生活を過ごし、1人の善良な人間として生きようとしてた


正樹に関しては…気が向いたら本文中に記す←


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