狩りの後

 前書き

5日ぶりの更新


遅くなってゴメンネ



 「私は朝まで外す用事が出来たわ。悪いんだけど、それまでの事を頼めるかしら?」


 任務完了後に拠点としてるホテルの部屋へ戻ると、魔王と共に立つ涼子はベッドに未だ眠る陽子を優しく寝かせる正樹に告げる。

 そんな涼子に正樹は承諾する。


 「別に構わねぇよ。だが、明日の朝飯までには戻れな」


 勿論、キチンと朝には戻れ。

 そう釘を刺した上でだ。

 そんな正樹に涼子は「ありがとね」と感謝すると、魔王と共に空中に浮かぶ扉の向こう。

 異世界へと姿を消した。

 独り残された正樹は顔を仕方ない。

 そう言わんばかりの溜息を漏らすと、テーブルの上に硝煙臭うM79グレネードランチャーを置いて分解整備を始めた。

 M79の分解整備は清掃と動作点検も含めて5分も掛からずに終わった。

 カラシニコフと比べて単純明快な構造で部品数も圧倒的に少ないのだ。

 正樹の様な専門家からすれば、清掃も含めた分解整備は容易い。

 そんな正樹は煙草を咥えると火を点す。

 紫煙を吐き出し、暢気に煙草を燻らせる正樹は先程までの涼子の動きを振り返る。


 「後ろから刺されても平然としてる。槍を投げたら音速超えの爆音と共に幾つもの障壁を重ねて防御する標的をアッサリとブチ抜く……文献で幾つかの逸話を知ってたけど、実際に目の当たりにするとデタラメ過ぎて言葉を失うな」


 歴史好きとして、神話や伝説となった魔女の実力の片鱗を目の当たりにした事はハッキリ言って感動レベルだ。

 だが、ソレを復讐相手に重ねれば、目を逸らしたい現実が重く伸し掛かる。

 それ故、正樹は自らの口で言葉を失ってしまう。

 それしか言えなかった。

 しかし、それでも悲願達成の為に現実を見据える必要が有る事に変わりはない。


 「俺の復讐相手はアレ涼子と比べれば格段に強い。その上、戦略核で道連れにしてやっても生きてる様なバケモノと来てる……やっぱり、魔法とか学ばんと駄目そうだな」


 現実を見据え、現実を受け止める。

 理想や渇望を叶える為には己の無力を自覚するのが、偉業を果たす為に必要不可欠とも言える初めの小さな一歩だ。

 だからこそ、正樹は現実を受け入れた。

 だが……


 「魔法かぁ……俺に才が無いって言われたのを思い出すと、自信沸かねぇなぁ」


 当時。

 正樹にとある魔導の専門家が言った。

 才能が無いと……

 それ故、座学等で魔導の理論や仕組みを学んでも実践はしなかった。

 だが、それでも。

 魔導に傾倒し、圧倒的な強さを持つ者達を様々な手練手管を用いて次々に殺して来た。

 しかし、そんな自分でも復讐相手であり、涼子の師でもあるハミュツ。

 永遠の名を持ちし、最強の一角とされる伝説の魔女へ正樹は広島と長崎に落とされた原爆。

 それ等を鼻で笑ってしまえる程の威力を持った核爆弾で道連れを図って自爆。

 だが、結果は御覧の通り。

 完膚無きまでの敗北を喫している。

 それ故、伝説の魔女を相手に魔導の才が無い自分が勝てるのか?自信は無かった。

 しかし……


 「自信が無いからって挑まない方がバカだ。あの頃の俺は歳老いてたし、未知を学んで自分のモノにする時間も無かった。だから、理論だけ学ぶだけにせざる獲なかった」


 人間の生命は有限だ。

 特に歳を経て、大人になってからソレは顕著となる。

 そして、残り時間も著しく短くなる。

 それ故、正樹は正樹自身が口にした通り。

 理論だけしか学ばなかった。

 正樹の言葉は言い訳がましいだろう。

 だが、現実も人も得てしてそんなものである。

 しかし……


 「今は違う。今は幸いにも若返ってる。チャンスを活かし、時が来るまでに備え続けられる事が出来る」


 そう例え、怨敵たる魔女の手によるものであっても。

 今は若返り、生きている。

 老いた者は若返らず、死者は蘇らない。

 ことわりから外れた外道。

 そう呼ばれても文句は言えぬ。

 そんな歩く死者の身であろうとも、生きている事には変わりないのも事実。

 だが、同時に……


 「生命を握られ、何時でも俺を殺せる状態なのも変わりはない」


 そう生命を握られてもいる。

 怨敵の気紛れから、2度目の死を迎える可能性は否定出来ない。

 だが、正樹は怨敵であるハミュツがソレをしない。

 そんな確信を持っていた。

 しかし、確信を持っていても実際にどうなるか?

 ソレは解らない。


 「せめて、生命を握られているって状態だけは何とかしてぇけど……無理なら無理で諦めるしか無いわな」


 紫煙と共にそうボヤくと、ベッドの方で呻き声がした。

 正樹が煙草を燻らせながらベッドの方を見ると、陽子が意識を取り戻した様であった。

 陽子はベッドから起き上がると、周りを見廻していく。


 「え?此処は?私は確か……」


 訳も解らずに困惑する陽子に正樹は煙草を灰皿に押し付けて消し、窓を開けてから陽子の脇に赴いて尋ねる。


 「あぁ……気分は?」


 「大丈夫です。それより此処は?」


 「此処は俺達が泊まってるホテルの部屋だ」


 陽子の問いに正樹はそう返すと隣のベッドに座る。

 そんな正樹に陽子は更に尋ねる。


 「九尾は?」


 「片付いたよ」


 素っ気無く簡潔明瞭に答えれば、陽子は「そうですか」とだけ返して悩ましい様子で沈黙する。

 そんな陽子に正樹は更に言葉を続ける。


 「君は愛する母親の死の真相を知ってしまった。そして、それは最も否定したい真相であった」


 唐突な己を見透かす言葉に陽子が驚くと、正樹は気にせずに言葉を続ける。


 「愛する母親の死の真相は君を虐待していたとは言え、結果的にその歳まで育ててくれた連中が犯人と言う事実に君は戸惑っている。多分、そんなクソ共の中に君にとって恩人が居る」


 正樹の言葉に陽子はか細い声で肯定した。


 「冴木さんの言う通りです」


 弱々しく肯定する陽子へ正樹は「俺みたいなクソなロクデナシが言えた義理じゃない」そう前置きしてから問う。


 「君は母親の死の元凶に復讐したいと思っている。だが、地獄みたいな人生の中でも少しだけ救いもあったからこそ、どうすれば良いのか?解らずに迷い、困惑している。違うかな?」


 優しい口調で問えば、陽子は正樹の目を見据えて肯定する。


 「その通りです」


 「さっきも言ったが、俺が言えた義理じゃない。だが、俺としては復讐を棄てて欲しい」


 そう告げると、正樹は「無論、タダで辞めろとは言わない」と締め括る。

 そんな正樹に陽子は真剣に問う。


 「何を対価に私に復讐を辞めろと?」


 「アイツ涼子は君に新たな人生を歩める様に上と掛け合い、天涯孤独の君に真っ当な後見人と新しい住居等を提供出来る様にしたそうだ」


 涼子がタケさんと掛け合い、新たな人生を歩める様にした。

 そう告げると、陽子は今更ながらも涼子がこの場に居ない事に気付いて尋ねる。


 「薬師寺さんは?」


 「アイツは用事があるって言って出掛けた。朝まで戻らないそうだ」


 涼子の事を答えた正樹は更に続ける。


 「結果的に君はアイツの差し伸べた手を取り、救われた。例え、互いに利用する形であっても救われた事実に変わりはない」


 「う……」


 自分が涼子を利用した事の罪悪感を見透かされ、言葉を詰まらせる陽子を正樹は責めなかった。

 寧ろ……


 「そんなバツの悪い顔をするな。君は生きたいと願い、生き残る為に選択した。そして、アイツと俺はその想いを利用して仕事をした。ある意味、文字通りのWin-Winな形だな」


 好ましくさえ思っていた。

 そんな正樹に陽子は尋ねる。


 「責めないんですね」


 陽子へ正樹はアッケラカンに返す。


 「責める理由が無い。責めて欲しかったのか?」


 「いいえ。そう言う訳では……」


 「なら、気にするな。もう終わった話だ」


 正樹は本心から答えた。

 だが、陽子には解らなかった。


 「何で、そんな平然としてるんですか?私は貴方達を利用したと言うのに」


 「言ったろ?俺達も君を利用して御互い様だってよ?それに……」


 「それに?」


 「君は裏切らなかったし、君の今までの言葉に嘘偽りも無い。その上、標的を釣る餌としても大役を果たした。殺す理由が無い」


 さも当然の様に裏切っていたら殺していた。

 そう告げる正樹に陽子は吐露する様に問う。


 「私はどうすれば良いんですか?」


 その問いに正樹は敢えて問い返す。


 「君はどうしたい?」


 「私は赦されるならコレからも生きたい。願わくば、薬師寺さんと共に」


 正直に想いを吐露すれば、正樹は答える。


 「前者は寧ろ生きてくれと俺も願ってる。だが、後者……アイツと一緒にと言う事に関しては条件次第だな」


 「何でもします!!」


 条件次第。

 その言葉に対し、陽子は己の全てを捧げても良い。

 そう言わんばかりの答えを出せば、正樹は条件を告げる。


 「なら、退魔師を辞めろ。で、アイツが望むように平和で平穏な人生を歩め。そして、友としてアイツと触れ合え」


 「え?」


 益々、訳が解らなくなった。

 そんな陽子へ正樹は告げる。


 「君には才が有るんだろう。だが、才が有るからと言って俺やアイツみたいな人生を歩む必要は無い。君は君の人生を歩め」


 普通の女の子として生きろ。

 正樹から己と涼子の本心を告げられると、陽子は自分は棄てられるのではないか?

 そう想ってしまう。


 「用が済んだら棄てるんですか?」


 「そう感じてしまうんだろうな。だが、そうじゃない」


 陽子の言葉を否定すると、正樹は正直に本心とも言える想いを告げる。


 「君は若く、未来もある。その上、アイツと同じ学校に通っているって事は学もあると言っても良い。そんな恵まれた奴が未来を棒に振るのを俺は見たくねぇ」


 「どうして駄目なんですか!?」


 己を救ってくれた涼子の為に戦いたい。

 そんな想いが籠もった陽子の言葉に正樹はハッキリと返す。


 「アイツの想いを無碍にするな」


 「でも!!」


 頑固に食い下がる陽子に対し、正樹は顔色一つ変えずに平然とブローニングハイパワーを握って銃口を向けた。


 「え?」


 唐突かつ突然に銃口を向けられ、困惑。

 同時に死の恐怖に直面する陽子に正樹は引き金に指を掛け、冷徹に言う。


 「これ以上、グダグダ抜かすならこの場で撃ち殺すぞ」


 断固たる意志と共に正樹が告げれば、陽子は沈黙してしまう。

 そんな陽子へ正樹は銃口を向けたまま言葉を続ける。


 「俺達の仕事は人殺しを始めとした汚い仕事をする。そんなクソみてぇな人生を歩もうとするな。そう言ってる」


 正樹のぶっきらぼうで乱暴な物言いに対し、陽子は銃口を向けられて生命を握られているにも関わらず臆する事なく反論した。


 「貴方や薬師寺さんが良くて、私が駄目なのはどうしてですか?」


 ある意味で、核心とも取れる問いに正樹は真剣に答える。


 「俺もアイツも戻れない所まで来てしまった。形は異なれどな……そんな所まで来た者として、前途有望で未来ある若い娘が俺達みてぇなロクデナシになって欲しくない」


 その言葉で漸く、正樹も涼子の様に優しい人間。

 そう理解した陽子は更に言葉を続ける。


 「私の人生をどうするか?私が決めます。貴方にどうこう言われる筋合いはありません!」


 平然と人殺しが出来る正樹から向けられた銃口に臆する事なく覚悟を示す陽子。

 そんな彼女に正樹は溜息を漏らすと、仕方ない。

 そう言わんばかりに銃口を下ろした。

 それから、ブローニングハイパワーの安全装置をカチッと鳴らして撃てないようにすれば、正樹はブローニングハイパワーを脇に置いて告げる。


 「1ヶ月だ」


 「え?」


 「1ヶ月。その間、平穏で平和な人生を送れ。で、その間にどうするか?決めろ」


 1ヶ月。

 人によっては短く。

 人によっては長く感じる期間。

 その間、普通の人生を過ごせ。

 そして、その上で考えて選択しろ。

 正樹からそう告げられると、陽子はハッキリと言う。


 「考えは変わりません」


 だが、正樹は淡々と言い放つ。


 「1ヶ月経つまで答えを聞く気は無い。無論、その間に"犬小屋"に来たら俺は君を殺す」


 そう宣告されると、陽子は何も言えなかった。

 そんな陽子に正樹は念を押す様に言う。


 「1ヶ月。真剣に考えろ。真っ当な普通の人生を棄てるか?否か?を……アイツや上には俺から言っておく」


 「1ヶ月後に私が薬師寺さんや貴方の意に沿わない選択をしたら?」


 自分が2人の意に沿わない決断をした時は?

 そう問えば、正樹はハッキリと告げる。


 「俺はバカな選択をしたと罵るし、多分殴るだろうな。で、諦めてテメェをロクデナシのクソに仕立ててやる。その時は一切容赦しない」


 正樹の本心とも言える責任を取る。

 そんな答えに陽子は感謝する。


 「ありがとう御座います」


 「感謝してるんなら、真っ当な人生を過ごせ」


 そうして話が終われば、正樹はブローニングハイパワーを手に立ち上がった。

 それから、陽子の足元側を指して言う。


 「其処に下着含めて着替えを用意してある。一先ず、色々とスッキリさせたいならシャワー浴びると良い」


 先ほどまでの態度が嘘の様に優しく告げた正樹は、ブローニングハイパワーをテーブルに置くと「俺は喫煙所で一服してくる」そう言い残して部屋から去った。

 独り残された陽子は着替えとバスタオル等を持つと、バスルームへと向かう。

 其処で今着てる生贄の装束を脱ぎ捨てると、シャワーを浴びる。

 勢い良く噴き出す湯を浴びる陽子はその場で蹲ると、嗚咽と共に泣いてしまう。

 まるで、我慢していた恐怖等の様々な感情が堰を切ったかの様に泣き続けるのであった。

 そんな陽子を他所に誰も居ない喫煙所に来た正樹はハイライトの柔らかな紙箱から煙草を1本抜き取って咥えると、慣れた手付きで火を点す。


 「すぅぅ……ふぅぅ……」


 紫煙を吐き出すと自分しか居ない喫煙所にも関わらず、後ろから気配がした。

 振り返ると、其処にはタケさんの姿があった。

 タケさんは正樹の様に慣れた手付きで煙草に火を点すと、正樹ににこやかに語り掛ける。


 「よう、小僧。仕事ご苦労さん」


 タケさんの挨拶に対し、正樹は何も言う事なく静かに煙草を燻らせる。


 「釣れねぇ態度だな。まぁ、良い……お前さんと嬢ちゃん涼子の意志は俺も姉貴も尊重する。無論、あの子狐陽子の意志も含めてな」


 涼子と正樹。

 2人の意志を尊重する。

 同時に陽子の意志も尊重する。

 そう告げられると、正樹は言う。


 「オッサンの言う子狐が彼女の事だって言うなら、普通の人生を選択しても文句は言うな」


 「言わねぇし、それが理由で普通の人生を送らせねぇなんてケチ臭ぇ事も言わねぇよ」


 簡潔明瞭に普通の人生を送れるようにする事を確約する事をタケさんが告げれば、正樹は安心した様に言う。


 「それなら文句は無い」


 「なら、子狐がお前等と同じ場所に立ちたいと言っても文句は言うな」


 タケさんの言葉に正樹は殺気と共に睨み返す。


 「ったく、俺は仮にもお前等の雇い主だぞ?少しは敬意を払えよ。この狂犬が」


 正樹の態度に悪態を吐くタケさんであったが、タケさんに不満は無かった。

 そんなタケさんは言う。


 「子狐を心配するお前さんの姿は子を想う父親にも見えたぜ。あの嬢ちゃんもそうだ」


 タケさんの言葉を正樹は否定する。


 「そんなんじゃねぇ」


 「じゃあ、何だ?」


 問われると、正樹は正直に答える。


 「どうせ全部見てたんだろ?なら、あの場で言った言葉が全てだ」


 「まぁ、そうなんだろうな。だが、無意識にお前さんは喪った娘さんと重ねてるんじゃねぇか?」


 タケさんの問いに正樹は少しだけ肯定する。


 「そうなのかもしんねぇな。だが、あの娘は俺の娘じゃない」


 「なら、子狐が選んだ事も尊重する事だな」


 返って来た答えに対し、タケさんが言えば正樹は少しだけ苛立ちを覚えてしまう。

 そんな正樹にタケさんはハッキリ言う。


 「お前さんも子狐も言ったろ?あの子狐の人生なんだ。他人のお前さんや嬢ちゃんが子狐が覚悟を決めて選んだ道をとやかく言う筋合いは無い。それこそ筋違いってやつだ」


 「確かにその通りなんだろう。だが、ソレを喜ぶ理由はねぇよ」


 「お前さんの言う通りなんだろうな。人の子からすれば……だが、俺としてはお前さん等のチームの戦力が充実する方が雇い主として嬉しいんでな」


 サラッとロクデナシな発言するタケさんに正樹は紫煙混じりの溜息を漏らしてしまう。

 そんな正樹へタケさんは狩りの件を切り出した。


 「まぁ、良い。西洋退魔師共を殺っちまった件に関しては"弟"を納得させてやるし、俺の手下してるロクデナシにも話は通して、お前さん等はお咎め無しで済む様にしてやる」


 標的以外に若き2人のエクソシストを涼子が殺害した件。

 それを不問とする事を告げるタケさんに正樹は言う。


 「アレは完全な正当防衛だ。咎められる理由が無いだろ?」


 「確かにその通りだ。あんなんされたら俺だって殺る。だが、人の子ってのは俺達以上に仲間を殺られた事に憎悪を滾らせる。お前さんが知らんわけじゃないだろ?」


 仲間を殺された怨みは決して晴れない。

 タケさんの言う通りだ。

 人は仲間や同胞を殺された事に対し、殺した者へ憎悪を滾らせる。

 殺した者へ復讐を果たさない限り。

 それは正樹も承知し、理解していた。


 「で?俺達にどうしろと?」


 「近い内に俺の手下が九尾の首を取りに行く。西洋退魔師共との交渉で使いたいそうだ」


 九尾の首を交渉で使う。

 そう言われれば、正樹が反対する理由は無かった。


 「俺は別に構わねぇよ。けど、持ってるのはアイツ涼子だ。俺からも伝えるけどよ、アイツにも言ってくれ」


 「その肝心の嬢ちゃんは何処だよ?」


 「知らねぇよ。朝まで戻らねぇとしか言わずに向こう異世界に消えちまったし」


 正直に答えれば、タケさんは「しゃあねぇな」そう紫煙と共に愚痴を溢して一応は納得した。

 それから、次の要件を切り出す。


 「西洋の兄弟の抱えてる問題は知ってるか?」


 「詳しくは知らねぇな」


 「まぁ、良い。その件が進展してるか、既に片付く目処が立ってんなら報告しろと言っておいてくれ」


 ルシファーとミカエルにとって大きな問題となっている件がどうなっているのか?

 タケさんから報告しろ。

 そう言付けを頼まれた正樹は答える。


 「その件なら片付いた的な事を言われたぜ」


 唐突過ぎる答えに流石のタケさんも間抜けな声を漏らしてしまう。


 「はぁ?」


 「電話で一方的にブツを確保出来た。って言われただけで詳しい事は知らねぇけどな」


 正直に己の知る全てを答えれば、タケさんは確認する。


 「なら、ブツはアイツ涼子の手の内にあるんだな?」


 「処分してないなら多分な」


 「そうか。なら、さっさと処分しておけって言っとけ。兄弟から対価を好きなだけ巻き上げても良いってのも含めてな」


 「りょーかい。あ、オッサン」


 「何だよ?」


 「俺やアイツに今後も作戦遂行させたい。それに間違いはないか?」


 「あぁ、その通りだ」


 自分の問いにタケさんが肯定して確認が済めば、正樹は傭兵として要求する。


 「なら、仕事に必要な物資や情報等を支給してくれ」


 汚れ仕事ブラックオプスを今後もさせたい。

 ならば、雇い主として必要な物資や情報を支給しろ。

 そんな正樹の要求に対し、タケさんは答える。


 「悪いな。お前さん等の技量を測る為に俺が止めてた」


 「なら、支給してくれる。そう認識しても良いのか?」


 その問いにタケさんは肯定した。


 「当然だ。お前さん等はキッチリ仕事する。ならば、飼い主として飼い犬が望む物を提供するのは俺達が成すべき義務だ」


 皮肉交じりの肯定に正樹は皮肉で返す様に「ワンワン」と犬の鳴き真似で返せば、タケさんは具体的に告げる。


 「ロクデナシの手下に支給するブツの見本を用意させる。その中から選べ」


 「予定日は?」


 「その前に奴は今日か明日には首の引き渡しをしてくれと言ってる。首を渡す時に奴と直接やり取りして決めれば良い。首の引き渡しは"犬小屋"でだ」


 タケさんから首の引き渡し日を指定されれば、正樹は承諾する。


 「解った。明日には引き渡せる様に整えておく」


 「じゃ、頼んだぞ」


 そう言い残すと、タケさんは短くなった煙草を灰皿へと棄てて喫煙所を後にした。

 喫煙所に残された正樹は短くなった煙草を燻らせると、静かに紫煙を吐き出すのであった。



 後書き


正樹も今は一応は善良なので未来ある娘がバカやるなと説得する

それでも駄目だったら、1ヶ月後に宣言通りぶん殴る。で、それをケジメにして新兵として扱う

本来なら強制的にさせるべきなんだろうけど、それをしたらしたで壊れるのが目に見えてしまってる。

だから、容赦無く指導して一流のロクデナシに仕上げる

中途半端と思われるだろうけど、突き詰めれば所詮は他人の人生なんだよね

酷い言い方だけどさ

後、優しさって何なんだろうね?


エクソシスト殺した件は正当防衛だし、殺しても良い条件を完璧に満たしてる

でも、それで納得出来るほど人間は寛容じゃない。特に現場の人間や過激派にすれば尚更ね

その為にもお互いに水に流そうね?と交渉する必要が産まれてしまう

それでもバカやる奴が現れたらって?

その時は互いに不幸な結果になるだけだよ

どんな形であれね


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