平和な休日1日目は頭痛と共に終わる


 「さてと……」


 風呂を浴びて仕事の疲れを癒すと共に汗を流して身体を清めた後。

 母親の用意した手作りの夕飯である豚の生姜焼きを食べ終えると、涼子は自室の勉強机に着席していた。

 綺麗に整理整頓された勉強机に置かれたメモ帳に記された任務に関する記載をジッと見詰める涼子は、八咫烏を介して"飼い主"から通達された任務に関する情報を整理していく。


 九尾が封印された事になっている場所は京都にある禁足地に指定された山の奥深くにある祠。

 山中には九尾の手下として多数の妖怪達が蔓延って居て、中には鬼や土蜘蛛等の大物も含まれている。

 同時に禁足地にされたこの山にはなる妖怪達も多数住んで居て、彼等は標的である九尾が主催する百鬼夜行に参加する事は既に確認済み。

 以上3点が現地に関する大まかな情報ね。


 メモ帳に記した3点の情報を確認すると、次に自分が護るべき制限とも言える条件を確認していく。


 制限は……

 先ず1つ目は当然ながら無関係な善良なる妖怪達を殺す事が厳禁。

 でも、九尾の手下をやってる奴は絶対に殺して、一人も残さずに皆殺しにしろと言う要望。

 次に焼き討ちは絶対に駄目。

 これはこの山を司る山の神である大山祇神オオヤマツミからの要望で、同時に可能な限り山林等へのダメージは抑えろと来てる。

 妖怪を殺した際に死体から溢れ出る穢れに関しては、そのままで良いと言う御達し。

 死体を始末する手間が省けるのはとても助かるわね。

 死体を全て集めて全部燃やして処分しろとか言われたら、滅茶苦茶面倒臭い上に時間も掛かる。


 「それ死体の後始末が無いだけでも良しとしないと駄目ね」


 そうボヤいた涼子は椅子の背もたれに大きく寄りかかって天井を見上げる。

 指定された制限とも言える条件。

 其れ等を基に自分が行使可能な攻撃手段を探し始める。


 指定された条件を踏まえると広範囲に及ぶ高火力の攻撃は一切使えない。

 勿論、穢れを欲する先方を踏まえるならドレイン系統も駄目。

 オマケに無関係な非戦闘員善良なる妖怪の殺傷も厳禁だから尚更駄目。

 そうなると広範囲に及ぶ高火力攻撃による砲撃は攻撃手段から除外され、自然とピンポイントで低火力な攻撃でチマチマと処理し殺していく事にならざるを得ないのが確定事項となる。

 そうなると……


 「手始めにカミカゼ仕様のドローン使い魔を大量に用いてピンポイントに爆撃する事は決定ね。地上でチマチマと1匹ずつ殺すなんて"かったるい"上に面倒臭さ極まりないし……」


 こうして初撃を加える方法が決まった。

 だが、その次の攻撃を含めた行動が問題である。

 涼子はそのまま代わり映えせぬ天井をジッと見詰めたまま、頭を働かせて今の自分の懸念を脳内に提示した。


 一度にカミカゼアタックで全ての敵を始末したいけど、流石に


 確かに涼子は戦闘技巧に長け、膨大な魔力を持った最強と謳われた魔女である。

 だが、それは1年前に己の意思で棄てたでもあった。


 1年前に私の中にある魔力の9割を棄てた。

 それと同時に自然と魔力が回復する体内のメカニズムも強制的に機能停止させ、私は私の持つ生命エネルギーを魔力に変換しないようにもした。

 邪悪な魔女であった過去を棄てる為に。

 大方、エレオノーレも私の今の状態に

 だからこそ、戦う気が失せたんでしょうね。


 長年数え切れない程に繰り広げて来た決着が未だに着かぬ涼子との戦い。

 その戦いの決着を最も着けたいエレオノーレが今の涼子を目の当たりにした時。

 退いてくれた理由の一端を察した涼子は少しだけエレオノーレに感謝した。


 「ありがとうエレオノーレ。アンタに感謝の言葉を述べるのは滅茶苦茶ムカつくけど」


 そうボヤくと、親しみに溢れる魔力の反応と共に噂の当人の声がした。


 「なら、本来の最強の名を欲しいままにして|全てに繋がれぬ魔女であった貴様に戻れ。そして、私との決着を果たせ」


 声がした方を見ると、其処には腕を組んで佇むエレオノーレの姿があった。

 異世界の住人であるエレオノーレが居る事に対し、涼子は全く驚く事なく返す。


 「私が異世界間を渡る魔法を構築出来たんだから、貴女が目の前に立って居てもおかしくは無いわね。でも、御願いだから他の魔女連中とかには教えないでよ?特にフィリアとモラには絶対に教えないで」


 涼子の要求も交えた言葉にエレオノーレは不快そうに返した。


 「あの腐れ外道2人にこの世界を教えれば、最悪の事態を招く事ぐらい私でも理解している。それに私は貴様と違って余計な死を撒き散らさぬだけの分別を持っている。見損なうな!」


 不快そうに言うエレオノーレに涼子はエレオノーレの性格を思い出すかの様に言う。


 「そうだったわね貴女は高潔な魔女。私と違って分別を持ってたわ。御免なさい」


 「私は謝罪を求めている訳じゃない。貴様に求めるのはあの頃の貴様に戻って、私との決着を果たす事だけだ」


 エレオノーレが本心から渇望する要求に涼子は約束。

 否、確約した。


 「なら、私が生きるのに飽いた時。その時に私は私の名に誓って貴女の渇望を満たす事を確約するわ」


 涼子の言葉をエレオノーレは信じた。


 「その言葉信じるぞ。もし、貴様が約束を違えた時には私はあの2人フィリアとモラを此処に連れて来て、この世界を地獄に変えてやる事を確約してやろう」


 勿論。

 約束を違えた時のペナルティは忘れない。

 そうして、涼子との決闘の約束を結んで自分の要件が済んだエレオノーレは次の話題を口にした。


 「さて……貴様はどうやら戦力を欲しているみたいだな?」


 エレオノーレの言葉の真意を察する涼子は即座に拒否する。


 「アンタを私の戦いに参加させろって言うならお断りよ」


 涼子が己を傭兵として使え。

 そんな真意を察していた涼子が拒否してもエレオノーレは予想の範疇だったのだろう。

 特に驚いた様子ではなかった。


 「そうか。折角、異なる世界の戦士と刃を交えられると期待したのだがな……」


 「絶対に辞めろ戦争バカ女。お前みたいな傍迷惑な戦争バカに好き放題されたら大迷惑極まりないから」


 エレオノーレは闘争を好む。

 無論、自分と無関係であっても戦争も大いに好む。

 それ故にエレオノーレは『戦争の魔女』と人々から大いに忌み嫌われている。

 そんなエレオノーレが好き放題に暴れたら大惨事になるばかりか、世界が滅茶苦茶になる。

 それを理解しているが故に涼子はエレオノーレに辞めろと告げる。

 続けて「用が済んだらさっさと帰れ!」とも語気を強めて告げた。

 涼子の言葉にエレオノーレは少しだけ不満そうにしながら言う。


 「本当ならこの世界の戦士と刃を交え、魔法無き世界の戦争を観てみたかった。だが、貴様との決着を確約出来ただけ良しとしよう」


 「私はお前との決闘を確約した。だから、この世界の戦争を高みの見物はしても参加は絶対にするな。それを破ったら私は自分の手で私自身に死を与えてやる」


 涼子の言葉は冗談などではない。

 本当にエレオノーレが地球で起きている戦争に参加し、戦場を滅茶苦茶にした時。

 即座に解けば死が約束された不老不死を解除し、自ら死んで未来永劫決闘が出来ない様にする。

 そんな涼子の覚悟にエレオノーレは応じた。


 「良いだろう。貴様の覚悟に免じて戦場いくさばに馳せ参じる事は私の名に誓ってしないでやる。だが、貴様は自らの口で言ったな?戦場を高みの見物するのは良いと?」


 「言ったわよ。アンタみたいな戦争バカは絶対に完全なる未知と言える魔法無き世界の戦争に興味を示すのが解りきってる。それを止めたいなら、私は本気で挑まなきゃならなくなる。そんなの嫌だし、面倒臭いから高みの見物だけなら許してやるのよ」


 強気に上から目線で言えば、エレオノーレは帰る事にした。


 「では、またな」


 「二度と来るな」


 涼子の悪態にも似た別れの言葉と共にエレオノーレは己の身から深紅の魔力光を放ち、姿を完全に消した。

 エレオノーレが元の世界へ帰って独り残された涼子は厄介な悩みが増えた事に心の底からウンザリとした大きな溜息を漏らすと、ウンザリとした面持ちでボヤく。


 「ハァァァァァ……マジ最悪」


 心の底から最悪な気分になった涼子はエレオノーレと言う頭痛の種に頭を痛めてしまう。

 だが、同時にレオノーレから戦争に参加しない事を確約させた事に少しだけホッとする。


 「でも、あの戦争バカに戦争に参加しない事を確約させただけ良しとしておこう」


 己の課した条件に応じてくれた事に涼子は少しだけマシな結果になったと思う事にすると、狩りの計画立案を辞めて気分転換にゲームをやり始めるのであった。



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