ノンビリと過ごしながら分析


 夜の9時15分過ぎ。

 帰宅した涼子はお風呂に浸かりながら今日一日の疲れと汗を洗い流して居た。

 暖かな湯に癒される涼子であった。

 だが、今夜殺した相手に対して疑問が今頃になって浮かび上がっても居た。

 その為、首を傾げていた。


 あの術者は何の為に一連の事件を起こした?

 何かしらの魔導的な理由で何人も襲っていた?

 それなら現場に被害者を生かしたまま放置する理由が無い。

 事件化を避けたいんだったら、尚更現場に放置するメリットは皆無と言っても良い。


 今夜殺害した虎の獣人を操っていた術者。

 彼が何の目的を持っていたのか?

 既に殺してしまってる以上は理由は聴けない。

 だが、それでも事件化を防いだ方が良い理由は思い付く。


 現代地球の文明社会。

 特に日本の様に治安が良い市街地に於いて連続的な通り魔事件を目立つ様に起こすメリットが見当たらない。

 皆無と言っても良い。

 だから、何かしらの目的を果たそうとする上で目立ってしまえば、目の色を変えて血眼になってる警察からの妨害は確実。

 その時点で獲物の物色すら困難になる。

 オマケに安倍さんみたいな退魔師っぽいのからも狙われる。

 だから、目立つ事は目的達成に於いて大きな障害となりうる。


 連続的な事件となれば警察だって流石に黙っちゃいない。

 犯人捜索の為に全力で周辺を捜査する。

 勿論、防犯パトロールも念入りに行って被害を食い止めようとする。

 その上、今夜戦っていた安倍 陽子の様な退魔師と思わしき存在から妨害を受ける可能性も大いに存在する。

 だからこそ、今晩殺した術者の思惑が解らなかった。

 だが、視点を変えて考えれば、根拠無き仮説ながらも一つの可能性が浮かび上がる。


 あの殺した術者がだとするなら話は大いに変わる。

 寧ろ、その方が考えとしては一番しっくり来る。


 陽動。

 即ち、何処か知られたくない邪なる企みを持つ者が、周囲の目を逸らさせる為の囮として行動させた。

 そう考える方が涼子には自然と納得出来た。


 そうなると何の目的で陽動していた?

 陽動させた奴の目的は何?

 コレなら殺さずに直接出向いてシバキ回して話を聞く方が良かったかしら?

 でも、悪巧みの為の陽動目的に使われる捨駒に情報を与えるとは思えない。

 私だったら悪巧みする時、使い棄てる捨駒に余計な情報は与えない。

 死ほど確実に黙らせられる手切れ金は無い。


 幾多もの悪行を重ね続けて来た事が有る涼子だからこそ、物言わぬ屍と化した術者の背後に"誰か"が居る。

 そう判断すると同時。

 捨駒として用いたであろう術者へ情報を与えるとは思えなかった。

 そして、話は振り出しに戻る。


 その場合、連続通り魔事件と言う形の陽動で周囲の視線を其処に視線誘導してまで果たしたい目的は一体何?

 あの地域に何魔導的な目的を叶えられる目的があるのかしら?

 それとも、現金とかの即物的な物が目的?

 全くもって解らない。


 「手掛かりが一切無いんだから当然ね」


 パズルを組み立てたくともパズルのピースが無い。

 パズルのピースが無ければ、パズルは作れない。

 当たり前の話だ。

 それ故に涼子は事件に関して考えるのを辞めた。


 「私には関係無い話なんだから別にどうでも良いわね。それに私の仮説通りなら陽動役を殺られた時点で首謀者は事態の掌握も兼ねて息を何日かは息を潜める筈だし、死んだ奴だけのバカな犯行ならコレで終わりだし」


 そうボヤくと湯船から出て頭を洗い始める。

 長い黒髪をリンスインシャンプーで入念に泡立てて洗っていく。

 それから、程良い暖かなシャワーで洗い流した。

 その後、身体をボディーソープをつけたボディータオルでゴシゴシと洗っていく。

 そうして、全身を洗い終えれば、顔を洗顔フォームで入念に洗った。

 全身を余す事無く洗い終えた涼子はバスルームを後にした。

 バスタオルで己の全身の白い肌を濡らす雫を拭い去ると、ドライヤーで長い黒髪を乾かした。

 最後に保湿液で顔の保湿ケアを済ませれば、下着姿になってお風呂場から去った。

 リビングへ来ると、母親が愛娘である涼子の為に遅い夕食の支度を済ませていた。


 「夕飯用意してあるわよ」


 その言葉と共にダイニングテーブルの上を見れば、湯気のたつ野菜と肉がタップリの回鍋肉と大根の味噌汁。それに押し麦入りのご飯が用意されていた。

 涼子は「美味しそう」と言いながらいつもの自分の席に座って「戴きます」と手を合わせ、遅い夕食を食べ始める。

 味噌汁を一口飲んでからモリモリと回鍋肉とご飯を食べる愛娘に母親は呆れた様に言う。


 「ゆっくり食べなさいよ」


 「だって夕飯食べないでラストまでバイトしてたからお腹ペコペコだったんだもん」


 バツが悪そうに返せば、母親は仕方ない。

 そう言わんばかりに呆れた。

 そんな母親を他所に夕飯を食べる涼子は一旦食べる手を止めると、夕飯を用意してくれた母親に言う。


 「ありがとうね美味しいよ」


 「美味しいのはCook Doのお陰よ」


 母親が照れ隠しに身も蓋も無い事を言えば、涼子も「身も蓋も無いなぁ」と呆れながら返してしまう。

 そんな中、父親の姿が無い事に今更ながらに気付いた涼子は尋ねる。


 「そういえばお父さんは? 残業?」


 「お父さんは難航していたプロジェクトが上手くいって成功したから部下の人達と一緒に祝杯あげてるわ」


 夫の成功を自分の事の様に誇らしく言う母親に涼子は何処か無意識にホッとしてしまう。


 「そうなんだ。良かった」


 「だから、帰って来るとしたら11時過ぎね。まぁ、夕飯用意しなくて良いから楽だわ」


 あっけらかんと言う母親に涼子は意地の悪い質問をした。


 「お母さんはお父さんが不倫してたら?って考えた事ある?」


 愛娘から唐突な意地悪い質問を投げられても母親は……


 「無いわよ。あの人は隠し事が下手だし、嘘を吐くのも苦手。オマケにあー見えて私の事を今も愛してくれてるし、貴女の事も愛してるから絶対にそんな事しないわ」


 ハッキリと愛する男は不義を働かない。

 そう言い切った。

 そんな母親に涼子は更に問う。


 「それでもしたら?」


 「そうね。粛々と離婚準備も含めてブッ飛ばす。それぐらいかしらね」


 愛する男が裏切ったら容赦無く叩きのめす。

 そう答える母親に涼子は「流石お母さん」と称賛すると、内心で自分の容赦の無さが母親に似たんだろう。と、他人事の様に思った。

 そんな質問した愛娘である涼子に今度は母親が問う。


 「涼子はどうなの?好きな人が出来て結婚して、その後に裏切られたら?」


 「うーん……未だ好きな人が出来た事が無いから解んないよ」


 その答えには少しだけ嘘がある。

 異なる世界で愛した男が居た。

 その男は邪悪なる魔女と恐れられた自分をさも当然の如く愛した。

 そればかりか、愛の結晶とも言える子供すら設けた。

 だが、己は不老不死に近い魔女であるが故に普通の人間であった夫と娘は天寿を全うした。

 涼子は哀しみと共に愛する家族の死を見送った。

 愛した男は不義を一切働かなかった。

 それ故に母親から逆に問われた「不義を働かれたら?」と言う問いに対しては解らない。と言う点だけは嘘ではない。

 そんな母親は涼子に言う。


 「許す事は確かに大事よ。でも、それでも絶対に譲れない、許せない事だってある。私はあの人が不倫なんて不義を犯したら多分許せないから離婚含めてブッ飛ばすわ……ケジメを着けるって意味も含めてね」


 「覚えておくよ」


 母親の覚悟に涼子はそう返すと、母親は更に愛娘へ大事な事を授ける。


 「後、その人と一緒に子供を育てる覚悟が無いならヤルセックスする時はキチンと避妊しなさい。遊び半分で子供が出来たっていうのは貴女だけでなく、産まれようとする子供にとっても大きな不幸となるわ……だから、付き合い始めて早々にナマでヤろうとか言うバカ男が現れたら直ぐに縁を切りなさい。良いわね?」


 母親からの力強い言葉に涼子は思わずタジタジになってしまった。


 「何か凄く説得力を感じるの気のせい?」


 寧ろ、ドン引きしていると言っても良い。

 そんな愛娘を母親は気にする事無く遠い目をしながら言う。


 「私の昔の友達に出来ちゃった娘が居たのよ。で、その娘を孕ませたクソ野郎は姿を隠して逃げやがって、その娘は酷く後悔してたわ……だからこそ、私は貴女にはそうなって欲しくないからこそ敢えて言ったのよ」


 娘を愛するが故に敢えて不浄とも言える事を言った母親に涼子は「気を付けるよ」と返し、残った夕飯を食べた。

 15分後。

 夕飯を食べ終えて満腹になった涼子は食器を片付けると、自室へと向かった。

 自室に着いた涼子は勉強道具の詰まったリュックサックから出された課題とも言える複数の宿題を出すと、机に置いて早速やり始める。

 黙々と教科書とにらめっこしながら宿題を進め、1時間ほどで終わらせた。

 終わらせた宿題のプリントを透明なファイルに纏めて片付ける。

 そうして寝るまでの間に出来た自由時間を向かえた涼子は自分のスマートフォンが自宅のWi-Fiに繋がっている事を確認する。

 確認が済めば、スマートフォンの画面をタップしてYouTube起動させた。

 YouTubeで贔屓にしている可愛い猫ちゃんのチャンネルを巡回し、猫ちゃん達の動画を堪能していく。

 猫ちゃん達の可愛く愛くるしい姿を堪能して癒されれば、今度は皆には隠しているミリタリーと銃の趣味を満たす為にラリー・ヴィッカースやhickok45等を始めとしたガンチューバー達の動画を巡回した。

 先述の2人のチャンネルを始めとした銃の動画を眺めた後。

 2011年に始まり、未だに終わらぬシリア内戦。

 それと2022年から今も続くウクライナ戦争。

 そして、イスラエルの戦争の動画をニュースも含めて眺め始めた。


 幾ら趣味だとしてもミリタリーが悪趣味なのは理解してる。

 でも、好きなのよね。


 戦争をエンタメとして消費する自分に少しばかり嫌気が刺していた。

 だが、辞められない。

 そんな自分に呆れる涼子は戦場での光景を動画を介して静かに眺めていく。

 そんな戦場をYouTubeを介して観た後。

 YouTubeを消して代わりにTikTokを起動させ、様々な他愛のない動画を眺める。

 様々な動画を眺めた後。

 TikTokを消してウマ娘プリティーダービーを起動。

 それから、最後に残ったデイリーである育成を始めた。

 ノンビリと暢気にウマ娘を育成して、良い結果でデイリーを終わらせた。

 残った育成コストを遠征に全て投入。

 そうして手持ち無沙汰になった涼子はNetflixを起動させると、何度目かのバッドボーイズ2BADを再生する。

 バッドボーイズ2BADを観てゲラゲラと笑い、クライマックス間際の熱い戦いに胸を熱くした。

 こうして、映画を十分に堪能した涼子は部屋を後にすると、お風呂場の洗面所で歯をキチンと磨いていく。

 そして、自室に戻ってベッドで眠りに着くのであった。




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