荒ぶる神
パンチ太郎
第1話
1. ”ニュータウン”と呼ばれる街がある。所謂とかいなかというやつで、都市への過密化の対策として、山を切り開き、そこにマンションや駅などを立てていくのであった。
しかし、そんな計画もバブルの崩壊とともに頓挫してしまい、開発が進んでいる地域と、進んでいない地域で格差ができてしまい人々は都市へと進まざる負えなくなってしまった。
とある、市では区を設置するほどの条件は満たしておらず、かといって人口は少ないわけではないので財政状況はひっ迫しているのであった。
「そろそろ町おこしの季節だなあ。」初老のやせ型の男は、小さなため息をついていた。地域活性化の元にこの市役所に赴任してきたが、職員の数は相当少なく、且つ市役所の雰囲気としては、ただ、言われた業務を淡々とこなすという志の低い職員ばかりであった。
やる気満々だったこの五軒家も負のオーラに取りつかれてしまい、満期までをただ、愚直に働けばいい、と言う思考になっていたのであった。
「五軒家くん。町おこしの企画そろそろできそうかね?」
「はい。まあなんとか。」
「市民からは毎年同じものだと苦情が来るから。なんかマンネリ化しないように頑張ってくれ。」太った男はあいまいな指示を出して、その場を去った。
町おこしの仕事と言っても、屋台やだんじりなどをその辺でやらせるということしか五軒家には思いつかなかった。
2.丸テーブルの周りを5つの椅子が囲んでいた。お盆が所狭しとテーブルの上を占領し、違う食材を共に食べていた。
しかし、5人が5人とも同じペースで食べているわけではなかった。一人はスマホを眺めながら。一人は雑談をしながら、一人は、スマホのゲームをしながら、一人は無言でごはんを食べていた。
食堂は、そこそこ清潔に保たれていた。
ただ、建物は古かった。
大学の食堂は、メニューが少なく、代り映えはなかった。
「教育実習めんどくさいよねー」一人が話し始めると、それに続いてわらわらと話し始めるが、しばらくすれば、また元の状態に戻るのであった。
「うちの小学校なんて、町おこしの手伝いしないといけないから、教育実習生も手伝えだって。まじありえない。」
「うちの学校は何か出すの?」
「恐竜研究会が化石の写真だすってさ。」
「さすがに舐めすぎじゃない?」
「せめて実物持ってきてやれよな」
一同は笑いあった。
「そういえば、今度大きなショッピングモールできるんだって。みんなでいこうよ。」
3.開発からはや数年がたっていた。地質調査により、複数個の化石やら、地質層からの貝殻や自然石以外のものがでてきた。
それは、博物館にて展示されることとなった。
それが、恐竜研究会の写真に納まり、町おこしで展示されるということである。
彼らは恐竜研究会であるはずなのに、どこを探検すればいいというのが分からないのである。
恐竜の化石があるとされる土地のほとんどは、中国の富豪によって買い取られてしまい、捜索できないのであった。
その中国人の富豪は、土地を買い取り、マンションをおったてたり、ショッピングモールを立てたり、博物館を立てたりしていた。
中国人がこの土地を知った経緯は、近くの大学が、外国人留学生の受け入れを積極的に行っていたことにある。
そして、工事は日本の業者が行った。中抜きに中抜きを重ねて、現場の人間は薄給で受注しなければならなかった。
「さっさと機材はこべや!!」現場監督はそう言って檄を飛ばす。中には、PTSDや自殺者が起こるくらいに過酷な現場となっていた。
ほとんどのものは自宅か、通勤途中で死亡が確認されるが、数名行方不明になっていた。
それでも現場は納期に間に合うように作業を続行しなければならなかった。中断や休止はないのであった。
それだけ頑張っても、遺族への見舞金は雀の涙だった。勿論給料も少ない。
そう言った過酷な環境の中で、中元修一は、懸命にかじりついていた。
家に帰ると、大学生の息子と看護師の妻、そして、3歳の息子が待っていた。
4.「パパおかえりー」3歳の
息子は一方的に父に話しかける。保育園の話を舌かと思えば急に兄である、龍誠の話をしたりをする。兄の龍誠の話をすると決まって父はこう言う
「あいつ、金食い虫のくせに、遊んでくれへんのか!!」
「遊んでくれないの。」
そして、風呂から上がると、リビングで食事をする。4つテーブルが並べられているが、座るのは、母と父と龍だけであった。
母はすでに出来上がっていた。所謂キッチンドリンカーであった。そして、修一も冷蔵庫からビールを取り出し、コップに次いでそれを呑む。
すると母親は、細長い紙を取り出した。振込用紙であった。
「パパ。これ龍誠の後期の授業料だからよろしくね。」
「よろしくてなんやねん。払えゆうんか!!」修一は怒鳴り出した。
「龍誠の授業料はあなたもちって約束よ。」
「あの金食い虫が...」コップを持つ手がわなわなと震えていた。
「じゃあ、
「それだけはあかんいうとんじゃあ!!」修一はテーブルを叩いた。
「あの子親戚中に、金の無心をしてるんだって。」
「いくらや。」
「50万」
「それくらいママの稼ぎから出したったらええやろ」
「なんで葵を甘やかすのよ」
こういう口論は日常茶飯事だった。3歳である龍誠はテレビに夢中になっていた。
修一は息子の龍誠をことあるごとに罵った。
最初は小学生の頃だった。双子の兄である、
葵は他人とのトラブルは尽きなかったが、空手の黒帯を持っており、おまけに勉強もできた。
そして、現在、葵は神戸で一人暮らしをしており、双子の兄・響は自衛隊に所属している。
龍誠は教育学部で単位をきちんと取りながらアルバイトをしていた。
教育実習のため、多忙な日々を過ごしているにも関わらず、修一は龍誠に対し、「バイトを増やせ!!」と迫っていた。
口を開けば、自分を罵ってくる修一に対し、龍誠はなるべく顔を合わせないようにしていた。
中元家は三角屋根の一軒家だった。それぞれに自分の部屋を有しており、ローンは35年で残り15年となっていた。
修一と妻・正美は20歳の時に”でき婚”をし、娘・葵を授かる。その2年後に、響と龍誠を出産し、その17年後に息子・龍を出産した。
修一の性格は、行き当たりばったりで、無計画で、他責思考であった。
次の日、仕事着に着替え、朝6時に家を出た。家族の誰とも、顔を合わさずに出ていった。その日以来、修一は帰ってこなかった。
5.龍誠は教育実習に向かった。狭い道路で、歩道が十分に確保されておらず、自転車も車に接触しないように、歩行者を押しのけて進んでいった。
歩行者は隅によるしかなかった。
歩いて30分ほどだった。バイクであれば時間は短縮されるが、学校側は事故に逢っても責任は持てないとの理由で、徒歩による登校を命じた。
職員室につくと、担当の教科の準備をした。隣に座るのは、指導担当の小田和正だった。
教育実習の先生は、イケメンでなくとも人気を獲得することができた。
午前中の授業を終え、担当のクラスの子供と共に給食の準備を行う。龍誠もエプロンを持参しなければならなかった。
彼は給食を食べるのに、10分もかけなかった。それ程教師とはタイトなスケジュールで働かなければならないのである。
そして、午後の授業を終え、帰りの会を行う際、小田勝正から、一枚のプリントが配られた。
「帰宅の途中で、井峯瑠奈さんが、途中で迷子になってしまいましたので、今週から集団下校を行います。途中ではぐれたりしないでください。」
中元は直前に説明を受けていた。昨日の午後17時半ごろ、友達と公園で遊んだ後に帰宅する途中でおそらく、誘拐されたのだろうと小田は話した。
井峯の親は20時になっても帰ってこない娘を心配して、失踪届を出した。持たせているスマホにいくらかけても、繋がらなかった。
荒ぶる神 パンチ太郎 @panchitaro
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