第2話 『グループ』

 どうしてこうなった……!?

 私の隣席に存在してる人間こと『小鳥遊ユウキ』と名乗る脆弱な存在。

 彼から今、始業式終わりのちょっとした説明の後の休み時間で凄まじい早口を捲し立てられていた。


「鳳さんは吸血鬼なんですよね!? 初めて会いましたよ。いえ、希少な種類の亜人ですもんね。実はですね、僕は将来的に『亜人研究』の職を目指していまして、そのためには図鑑や解説では意味がないと感じ、転入した次第なわけですよ!」

「は、はぁ……」

「おおっと! 申し訳ありません! というわけで今後とも是非とも友好的な関係をですね……」

「そーいうのはパス」


 コイツ……明らかにヤバいやつだ……!

 そもそも現代において、男というだけで身体的ハンデを背負っているのに『全身亜人細胞』と揶揄される亜人たちが集う高校に転入した挙句、目的が研究のためって……。


 でも亜人と分け隔てなく友好を結ぼうとする姿勢は評価できる。

 私は無理なタイプだけど。

 顔はいいんだからせめて亜人なんて悪い趣味を辞めたらと思いながら適当に観察してみる。


「……で、小鳥遊……だっけか」

「はい!」

「うっさ……私と関わるんなら大声はやめてよね。キミの声が頭に響く」

「すみません。配慮が足りませんでしたね」

「そんぐらいの声量で良いんだよ。たぶん今までも鬱陶しがられてたぞ?」


 なんで私は助言なんかしているんだ……。

 にしてもコイツ、聞き分けはいいんだな。


 なんて思いながら始業式の日なので午後は無し。帰路へ向かって下駄箱で靴を取ろうとすると背後に彼がいた。


「何か用?」

「出来れば、校門まで話をしたいのですが……」

「……ホント鬱陶しい」

「あっ……えっと……そう……ですよね。はい」


 小動物みたいに縮んじゃった。

 まあ良いや、帰ろ。


「じゃあ、私は帰るから着いてこないでよね」

「はい。また明日」

「ん」


 私は気だるげに返事をしてから帰ったのだった。


 3日後、本格的に授業が始まり、重い教科書を鞄に詰め込み高校へ向かう。


 あいも変わらず体がだるい。これで夏になったら死ぬんじゃなかろうかと思うほどだ。まぁ、去年死ななかったから大丈夫だろうけど。

『吸血鬼』の特性上、日光で灰になることはないが体力の消耗が激しいという点がある。だから、純粋にとても辛い。


「……」

「おはようございます。鳳さん! 聞いてください!」


 さらに暑苦しいのが来た。

 登校してる最中だぞ。せめて校舎で話しかけてくれ。


 私はキラキラした目をした小鳥遊に呆れつつも会話を聞き流す。


「吸血鬼はですね、やはりなんと言ってもパワーが有り余っているところに魅力を感じていまして、純粋なパワーは獣人には劣りますが血を吸った直後は世界最高峰の力を有するんです。その証拠に屋内スポーツの亜人部門の世界記録の大半が吸血鬼で……」


 血なんか吸ったことないからわかんないし……。

 そもそも嗜好品としての血液なんて、輸血としての需要が高すぎて買えるわけないんだ。確かに力はあると思うけども、それで得したことなんてジャムの蓋を開けやすいぐらいしかない。


 小鳥遊は呆れた様子の私を見て、戸惑っていた。


「あ、すみません。熱中してしまうとつい……」

「……ひとつ言っとく」

「……! はい!」

「吸血鬼は現代じゃあ辛いんだ。陽の光が苦手だし料理にニンニクが少しでも混ざると拒否反応が起きる。オシャレしようとしても銀が少しでも入ったアクセサリーが着けられないし、そもそも鏡に私が映らないからメイクも満足にできない。能力で飛ぶにも今では飛行免許がいる。身体能力なんて事務職に就いたら意味がないんだ。そんな良くないよ、吸血鬼なんて」

「……」

「わかった?」

「ひとつだけじゃない……! こんなに語ってくれるなんて……!」


 その後、教室についてからもこの調子だ。休み時間になる度に話しかけてくる。

 うざったらしいこと、この上ないが、話を聞くにつれ惹かれて行く自分もいた。


「……小鳥遊は、どうして私に話しかけてくるんだ? この学校には他にもいろんな亜人がいるんだぞ?」

「ええ、確かに、吸血鬼に匹敵する亜人も数多くいます。例えばこのクラスで言うと『天使』がそれに該当します。ですが、彼女にはもう友人がいます。去年から形成されている『グループ』があるんです」

「まるで私に友達がいないような口ぶり。実際その通りだけどさ」


 小鳥遊は達観したような顔で私にこう告げた。


「僕もいずれはああいう『グループ』を作りたいんです。今までの僕は心が軋むような人生でしたが、亜人と出会ったことで人生観が変わりました。ですので……」

「『グループ』を作りたい、か。要は嘘をつき合わない友達が欲しいって?」


 隣の席で顔を赤くして大層平凡な夢を語った彼に私は言った。


「じゃあ、作れば良いじゃんか。その『グループ』とやらをね」

「え? いや、でも……」

「要は亜人と仲良くしたいってことだろ? 私にこんだけ理想を語れたんだ。その調子で他の子に話せばいけるって。その分、私はキミと無駄な会話をしなくても済むわけだしね」

「……」

「あとは頑張れ。私にはもう突っかかってくんなよ」


 そうして、小鳥遊の話を無理矢理終わらせて、今日の授業が終わった。

 どうせ、こんな気色悪い奴がキミのそばに居たって、百害あって一利なしだろうから。

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ひとりぼっちの亜人が尽くしたがりの人間に依存する話。 撃速 @Thegunm

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