第7話 メーナと催眠術
メーナは上機嫌で歩いていた。手には、オーバルから取り返した懐中時計が握られていて、時々彼女の手の上でポンポンと跳ねている。
(ほんっと辛いわー。手のかかる兄や義姉をもつ妹は辛いわー)
二人が相手を愛していることには気づいていた。なのに兄は何故かそれを表には出さないし、ソフィアはソフィアで、自分のせいで兄に迷惑をかけたと思って遠慮している。
両想いなのに義務的な夫婦を演じ続ける兄と義姉に、非常に、非常にヤキモキしていた。
だから魔術研究の一環として、人の心理について勉強したとき、一つの作戦を思いついたのだ。
ソフィアはとても優しい。
だから魔術に失敗して、非常に落ち込んだ自分を事前に見せておけば、催眠術が成功して滅茶苦茶喜んでいる自分に気を遣って、失敗を言い出せないだろう。さらにここで兄が戻って来れば、さらに言い出せない雰囲気となり、催眠術にかかったフリを続けるに違いない。
そうなれば兄も催眠術を信じ、何故か隠し続けているソフィアへの想いを見せるだろう。
最後は、兄に渡した懐中時計の時間がずれていて、すでに催眠術が解けているとネタばらしすれば、作戦終了だ。
まあ半分ぐらい上手くいって二人の気持ちが近付けばいいな程度だったが、先ほどの兄の様子を見る限り、かなりの成果があったのではないかと思う。
ヘタレな兄と大好きな義姉が幸せになってくれれば嬉しいし、二人の間に子どもが産まれれば、今まで結婚しろとメーナに煩く言ってきた両親の注目も孫に向くだろう。メーナにとって、良いことずくめだ。
それにしてもと、メーナの記憶が初めてソフィアと出会った夜会へと遡る。
(何でお兄はソフィアと結婚したのかな? 今まで言い伝えなんて、全く気にしていなかったのに)
兄はメーナの魔術研究に付き合ってくれるが、基本的に疑い深い人間なのだ。
だからソフィアの飛ばした靴が立ったとき、すぐさま結婚を申し込むとは正直思わなかった。
身内の中には、今更そんな言い伝えを気にする必要はない、家に利益のある相手と結婚すべきだと、二人の結婚を反対する者も少なからずいたが、兄は頑なに言い伝えに従うことを主張した。
そしてソフィアと結婚した。
(ま、今更どうだっていいけど)
疑問はあるが、メーナにとっては些細なことだ。結果的に、大好きな同志が家族になってくれたのだから。
ニマニマしながら部屋に戻ったメーナだったが、その数日後、ソフィアに催眠術をかけたことをオーバルから報告された両親から非常に怒られ、しばらく魔術研究を禁止されて涙目になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます