末路
あの地獄での出来事から二ヶ月経った。
玲奈達は、伝説を捻じ曲げた事、私から巫女の名と異能を奪った事とお母様を殺したという真実が知れ渡り村民の怒りを買った。
玲奈は村の牢に、お父様とお継母様は追放された。
宮司の仕事も神社の権利も、玲奈達に楯突いたことで追放されていた和正のお父様のお兄様に譲渡されたそう。
玲奈は蛇神様の怨念の呪いのせいで激しい痛みに蝕まれ、毎晩悪夢を見てるようだ。
今も信様と結ばれる事を望んでいるようだ。
私が本当の龍神の巫女だと、私が龍神様の花嫁に相応しいのだと喚いていると。
我儘に育った彼女に諦めという言葉はないのだろう。
そして、赤ん坊にされてしまった和正は、名前を変えてどこか遠い寺に預けられたという。将来的に僧侶になることは確定してるらしい。
もう、私の知ってる和正はこの世にいないのだと改めて実感させられた。彼は生まれ変わり、私を知らない人生を歩むのだろう。
裏切られたのはとても悲しかったが、元幼馴染として彼の幸せを願った。
ひばりさんは完全に精神を病んでしまい、実家の座敷牢に閉じ込められていると聞いた。ふくよかだった身体は痩せ細り、いつもろかちゃんの名前を呟き中暮らしているらしい。蛾と火を見ると異常に怖がる様になったとも聞いた。
ろかちゃんの残骸は、ひばりさんのしてきた事を知った親族が彼女への罰としていらない物と一緒に処分したそうだった。
母を殺し、私から全てを奪い、村のみんなの苦しめた。罪を犯した人たちは全員不幸になっていた。
そして、荒れていた村も元の姿を取り戻し始めている。
今まで癒しの異能の施しを受けれなかった人達にも行き渡るようになった。
実家も改装し、子供達の遊び場や、傷付いた人や妖達の保護等に使える村の憩いの場にしようと考えている。
ちなみにまだ玲奈の呪いを解くつもりはない。心の底から反省し、分け隔てなく人やあやかしを助けるような人になったら解いてやろうと考えている。
(あの性格じゃ無理ね)
きっと、私の見えない場所で生きている筈。私に対して恨み言を呟きながら。
「私は悪くない!!全部お姉様のせいなのに!!私が龍神の巫女として相応しいのに!!どうして!!どうしてなのよぉーー!!!!」
此処にいない筈の玲奈の声が聞こえた気がした。多分、冷たい牢の中で叫んだのだろう。呪いの痛みに苛まれながら。
けれど、もう私には関係ない。全て彼女達が蒔いた種だ。自業自得と言えよう。
それに私の今の家族はこの素敵な屋敷にいる。
龍神の信様やつららちゃんや紅葉くん、そして、この屋敷で働く妖の子等。
玲奈達には何度も殺されかけたけれど、彼に巡り合わせてくれた。そのことだけは感謝しよう。
「陽子」
屋敷の自室で思いにふけていると愛おしい声が背後から聞こえてきた。
信様が後ろからそっと抱きしめてきた。私は少し驚いたけど、すぐに嬉しさに変わる。愛おしい想いで彼の腕に触れる。
「どうしたんだい?」
「フフ。信様の事を想っておりました」
「どんな事?」
「あの白鷺が貴方でよかったって。後、ずっと私を愛してくれた事を」
「……でも、僕はすぐに君を助けてあげることができなかった。そのせいで君はアイツらに傷つけられ続けた」
悲しげな表情を浮かべる信様の方に身体を向け、ぎゅっと彼を抱きしめた。
「でも、貴方は私を見つけちゃんと助けてくれた。ほら、私はちゃんと貴方の胸の中にいる。巫女として、貴方の妻として…」
「陽子…」
信様は私の頰に手を添えて、自分の唇と私の唇をそっと重ねる。私はその口付けを受け入れる様にゆっくりを目を瞑った。
信様との幸せな時間はとても静かで素敵な満月の夜だった。
ずっと続いて欲しい。いつまでもずっと。全てを奪われ、傷ついた私がようやく掴んだしあわせな時間。
私はそう願いながら信様に身を任せた。
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