長城 Ⅳ

綾人がインターホンを連打した。

「お、おい、そんなに連打したら……」

「こうでもしないと起きないだろう!」

綾人はインターホンに向かって叫ぶ。

「起きてください!話があります!」

その時だった。インターホンから女性の声の返事があった。

「何ですか……?」

「さっさと起きて……あ……こんな夜にすみません!こちら、警察の者で、佐原春香さんについてお伺いしたいことが……」

こいつはただの記者だと付け加えようかと思った。

「警察の方……ですか…」

「息子さんはいらっしゃいますでしょうか?」

「慶次……ですね」

心拍数が上昇していることが分かった。

しかし、その時、インターホンの奥から、狼狽した声が聞こえた。

「け、慶次が……いない」

「クソが!」

綾人はドンと壁を叩き、吐き捨てる。

「祐希!やっぱりこれはただ事では無い!」

「ああ、これはまずいことになったな……。家の中を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「は、早く来てぇ」

慶次の母だろう。明らかに焦燥している。

しばらくして、ドアの鍵が解錠される音が聞こえてきた。

「あの、息子が……」

「こちら警部の長城です」

手帳を見せ、佐原家の玄関に、強引に押し入った。

「息子がいないんです!」

「いつからですか?」

綾人が半ば強引に質問する。

「確か、私、昨日の四時くらいから眠っていた……」

「その時に、慶次さんが居なくなっていた?」

「それだけじゃ無いんです!その……」

「すみません、後にしてください」

綾人が話を遮った。こいつの目的は明確だ。慶次の自室を調べること。

「失礼しますよ」

綾人は階段を上って慶次の部屋へ向かった。

「すみませんね、ちょっと無礼な者で」

「あ、あのう……」

「何があったんですか」

「えっと、その……」

その時だった。

「ああああああ」

綾人の悲鳴が聞こえる。

「綾人!何があった!」

私は急いで、綾人の居る慶次の自室へ向かった。

「大丈夫か!?」

「ゆ、祐希ぃ……」

綾人の顔は引きつっている。彼のこんな顔を見るのは初めてだ。

「何があったんだよ?」

「これを見てくれ」

綾人は私に何かが書かれたノートを差し出した。

慶次の母も後からやってきた。

「何が見つかったんですか」

私はノートを開く。

それを見た瞬間、大脳に稲妻がほとばしった。

「あ!?」

「嘘……」

そこには、登山サークルメンバーと思われる人間の顔写真が七枚、貼られていた。

「彼は、復讐する気満々だったようだね」

「いやぁっ!!」

そこまで綾人が云うと、母親は顔を手で隠してその場に蹲ってしまった。

「大丈夫ですか?」

「嘘よ……あの子が……そんな……」

「残念でしたが、息子さんは犯行を計画的に企てていたようです」

母親はそれを聞いて嗚咽する。

いや、いまはそんな場合じゃ無い。

「おい綾人、慶次は今どこに居るんだ」

「浅間山だよ」

綾人が案外、あっさりと答えた。

「昨日、登山サークルメンバーは浅間山に登山しているようだ。彼はその情報を何らかの形で入手し、いま、山で……」

「浅間山なら、ここから一時間もあれば行ける!急ぐぞ」

私は綾人を呼び寄せて、この部屋を立ち去ろうとした。

その時、慌てて思い出した。

「ああ、すみませんでした。先ほどなんて……?」

私は母親に何かを聞き出そうとしている最中だった。

顔面がしわくちゃになった母親は、私に云う。

「その……居ないんです」

「慶次さんですか?」

「違うんです」

「誰です?」

母親は、息を吸い込み、云い放った。

です」

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