「あの祠が一体何の為に存在し、何を収めているかはよく分からん。祖父、父と引き継いできたが、さっきも言ったように途中からまともな管理がされなくなってしまった。僅かに残された伝言ゲームだけで今に至っているんだ」

「およそ管理とは呼べない状態だな」

「その通りだ。それでも俺は今まで守ってきた。残された伝言は、壊された時の器を用意しておけ。それだけだ」

「器って?」

「そこなんだよ」


 敬三はそこで一旦渋い顔を見せながら説明を続けた。


「壊れてしまった場合は同じような祠をまた用意すれば良い。ただもし壊された場合、普通の祠ではもうダメなんだそうだ。違う器を用意しないといけない」

「違う器?」

「これだよ」


 敬三は自分の心臓辺りをとんとんと叩いた。


「血筋の身体。壊された場合、そのままにしておくと祠の中のモノが完全に解放される事になる。それを防ぐために、次の器がここだという道標をつくっておかなければいけない」

「まるで生贄だな」

「まるでじゃなくてそのものだよ。あれが壊された時、俺達が代わりをしなければならない」


 そこまで聞いてあまりに不完全な管理と対応だと思った。

 もしそうなった時、器となった敬三の身体に祠の中のモノが入る。

 それだけでまず治まるのか。そしてそうなった場合、通常の祠であればあまり気にする必要のない寿命の問題が発生する。緊急措置とはいえ期限付きの一時的な器に過ぎない。敬三が死んでしまった時、すなわち器が壊れた時、その時はどうなるのか。

 それらの疑問を投げかけて返ってきた答えはあまりにもひどいものだった。


「分からんよ」

「分からない?」

「言っただろ。まともな管理なんてされてないし、あまりにも残された情報が少なすぎる」

「じゃあ……」

「いずれ詰むんだよ。どっちにしろあれが壊されたらその時は終わりだ」


 敬三の言葉は絶望的なものだった。


「俺達が出来るのは最後のあがきに過ぎない。ただの延命処置だ」


 だから俺達がおかしくなった時は、そういう事なんだよ。

 敬三がどんな気持ちで言葉を口にしているのかは分からなかった。

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