度胸試し

「マジでやるの?」

「は? びびってんの?」

「いや、びびってなんかないけど」

「じゃあお前が壊せよ」

「え、俺!?」

「なんだよやっぱビビってんじゃねぇか」

「いやだってさすがにこういうのは苦手なんだよ」

「根性ねぇな」


 小馬鹿にしたような笑みを残して真也はさっさと歩いて行ってしまった。


「度胸試しとかいつの時代の不良だよ、なあ晋平?」

「通常運転だろ」


 深夜の国頭神社というそれだけで不気味な状況だが、晋平は感情も表情も微動だにしていない様子だった。こいつが本当は一番肝が据わってるんじゃないだろうか。


「めんどくせぇなほんと……」


 自分はと言えば、びびってはないが気は進まなかった。

 確かに自分も不良の端くれかもしれないが、無駄に非行に走る気はさらさらなかった。面倒毎を増やすのは正直ごめんだ。学の無さとガタイの良さから自然と不良達が寄ってきて、気付けば真也達とつるんでしまうようになっていただけだった。


“あそこの祠、ぶっ壊してみようぜ”


 馬鹿かと思った。だがあからさまに否定すると真也がキレて暴れるのは目に見えている。正直力比べなら負ける気はしない。ただ平気で刃物を振りかざす危険性こそ真也が一目置かれている理由だった。一目というか、正確には皆から引かれているんだが。

 

 祠を壊すだなんて罰当たりな。別にオカルトを信じているわけではないが、それでも達成したからといってスカッとするようなものではない。

 ただ近場にあってろくな管理もされていないという理由だけで国頭神社が選ばれた。この神社の歴史なんてもちろん知らない。それでも神聖な場がこれから容赦なく汚されるのかと思うと、真也と刺し違えても止めるべきなのではないかとも思った。

 しかし結局、もやっとした気持ちで終わるのと刺される事を天秤にかけた結果、今に至っている。


「あったわ」


 狭い神社だからすぐに祠は見つかった。というかもとから存在を知っているで容易い話なのだが、深夜という事もあってか神聖さというか妙な不気味さが増している。


「壊す前に開けて見るか」


 岩の台に置かれた木製の祠の扉に真也は躊躇なく触れた。ぱかっと何の抵抗もなく開かれた祠の中を覗き見ると、


「最高だなおい」


 真也が心底愉快そうな声を上げた。


「……マジかよ」


 思わず鳥肌がたった。わざとかと思う程中には気味の悪いものが収められていた。

 小さな座布団のようなものの上に丸い石が置かれている。だがよく見るとそれが小さな地蔵の頭だという事がすぐに分かった。


「名前と何か関係があるのかな」

「名前?」

「国頭。なんか、まさにって感じしない?」


 晋平は相変わらず冷静だった。国。頭。確かに意味ありげだが、あったとしても趣味が悪すぎるだろう。


「もしくは俺達みたいな奴が先にイタズラしたのかもな」

 

 どちらかと言うと真也の答えの方がしっくりきた。と思っていた矢先、真也は地蔵の頭を掴み、地面に思い切り投げつけ踏みにじった。


「えぇぇ……」


 もうドン引きもいい所だ。さっさと呪われろよこいつ。そして瞬く間に祠は真也の手によって蹂躙され跡形もなく壊されてしまった。


「大したことねえな」


 何がだよ。そりゃ木製の箱自体に大した耐久性もクソもないだろうが。


「ちょっと刺激が足りねえか」


 言いながら真也は壊した祠の木屑を一か所に集め、あろうことか火をつけた。


「おいおいおいおい」

「何?」

「やりすぎ……いや、もういいよ」

「はは、あったけぇ」


 いよいよ何が楽しくてこんな奴とつるんでいるのかと馬鹿らしくなった。刺された方がましだったかもしれない。


「十分だよ。もう帰ろう」

「ま、そうだな。もうやる事もねえし」


 つまらなそうに真也は先に境内から出て行った。真也に続こうとした所で、晋平がぼんやりとお堂の方を眺めていた。


「どした?」

「なんか、終わったかも」

「は? どゆ事?」

「いや、分からん。俺今何て言った?」

「終わったかもって」

「そうだよな」

「なんだよ気持ち悪いな」

「全くだ」


 そう言って晋平は何事もなくすたすたと歩き出した。


”こいつはこいつでやっぱ気持ち悪いな”


 明日にでもこのグループから抜けよう。ここは自分の居場所なんかじゃない。

 心の靄を抱えながら俺もその場を後にした。

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