第12話
レルマの視点:
「ねえ、大丈夫かよ……」
「大丈夫じゃないよ」
駆け寄ってきたフーレくんの手を振り払う。
「なんで助けてくれなかったの」
「なんでって……あの空気で言い出せるわけないだろ」
それから顔をそらして、「僕にも立場があるんだぞ……」と。
「おーい! お前ら!」
遠くから緑のモッズコート、トールードさんがやってくる。
「大丈夫かよ!? や、なにがあったかは大体把握してる。フーレの通話がつなげっぱになってたからな」
「どうしよう、ミィニャちゃんが……」
「大丈夫だ、とりあえず休憩室に行こう。そこで落ち着いて考えるんだ。大丈夫、すぐには殺されない」
「トールード、お前仕事はいいのかよ」
「ヘーキだよそんなもん。俺は生産性が高いんだ」
それから、僕は肩を押されて、休憩室までなんとか歩いて行った。椅子に座ると、どこからかトールードさんが大量のお菓子を持ってきて、紙の皿にあけた。「食えよ」とチョコレートの包みを一つ渡される。僕はそれを食べた。一つ食べたら止まらなくなってしまって、出されたお菓子をいくつも食べてしまった。そうしてようやく、僕は落ち着いた。
「さっきはごめんなさい、なんか、ヘンな態度とっちゃった」
「別にいいよ。あんなことがあったんだし」
「うん……ありがとう」
フーレくんのフォローに、少し心が休まる。
「さて、作戦会議だ」
トールードさんが切り出す。
「どうやってミィニャを助けるか、だな」
どうやってミィニャを助けるか?
「あの、待って。確認なんだけど、二人とも、助けてくれるの?」
僕はてっきり、みんなヴァーデルラルドの味方だと思っていたから、びっくりして聞いてしまった。フーレくんは腕を組みながら「当たり前だろ」と言った。「ミィニャは『イェレイさんの』大事なペットなんだからな」と、それから小さく、「それに、お、お前の大事な友達……? でもあるし」と。トールードさんはといえば、「こんなに面白そうなこと、首突っ込まないわけにはいかねえだろ!」と笑っていた。
そっか、二人とも助けてくれるんだ。
「取り返すなら早いうちがいいよな。今日の夜。今日の夜でどうだ」
「今日の夜だって言っても……どうするつもりなんだよ」
「どうするって、あいつの部屋に忍び込むんだよ。そんでミィニャを連れ戻す」
「できるの? そんなこと……」
「できる。俺がハッキングしてあいつの部屋のドアを開けて、その間にお前ら二人がミィニャを連れ戻すんだ」
「そっ、そんな危険なこと……」
「僕やります」
僕は言った。
「僕が部屋の中に忍び込むから、フーレくんには周りを見張っててもらうっていうのはどうだろう?」
「まあ、そのくらいなら……」
「いいと思うぜ」
「じゃあその方向で話を詰めていこう」
僕たちは話し合った。お菓子を食べながら話し合ううちに、みるみる計画は固まっていった。
「じゃ、夜の十二時にヴァーデルラルドの部屋だ! いいな!」
僕たちは頷いて解散した。
「大丈夫かなあ……」
「大丈夫も何も、やるしかないだろ!」
「そうだけどさあ……」
僕とフーレくんは、トールードさんからの連絡を待ちながら、廊下で待機していた。どうにも落ち着かなくて、もらった予備端末を何度も見てしまう。
「それにしても、こんな時間だっていうのに、妙に人が多くないか?」
「たしかに……」
また一人、職員の人が通り過ぎていく。もう深夜だというのに、今日は何人ものの人たちとすれ違った。何かあったのだろうか。
「ていうかこれ、僕にできるかなあ」
僕はポケットから小さなUSBを取り出して眺めた。それは、ここに来る直前に、トールードさんからもらったものだった。
「それは『できれば』でいいって言ってただろ。無理にやることはない」
「そうだけど……」
トールードさんの部屋でのやりとりを思い出す。
「清掃員さん、アンタの話を聞いて、俺も興味が湧いてきた。俺も調査に協力したい。できればでいいが、ヴァーデルラルドの部屋に行った時に、ついでにこのUSBを挿してきてくれないか」
「え?」
「ウイルスが入ってる。これで奴のPCを感染させて、あとは遠隔で情報をぶっこ抜くんだ。もしかしたらPCの中に、重要な情報が入ってるかもしれないからな」
「そんな……僕にできるかな……?」
「できそうならでいいから、な? とりあえず持ってってくれ」
「うーん……」
そう言いつつ僕がUSBを受け取ると、「僕もいい?」とフーレくんが手を上げた。
「僕もやってほしいことがある。ヴァーデルラルドの私物……コップとか衣服とか……を持ってきて欲しいんだ。僕も調べたいことがあってね」
「調べたいことって?」
「それはある程度証拠が揃ってから言う」
回想終わり。とにかく僕は、二人からも大事なミッションを頼まれていて、ちょっとだけ、いやかなり、プレッシャーで潰されそうになっていた。
ヴ! と端末が一瞬震える。トールードさんから。そこには短く、「開けた。行け」と書いてあった。
ついに。
「行ってくるね」
フーレくんは小さく頷いた。それから僕は、小走りで、ヴァーデルラルドの部屋を目指した。
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