ひとりぼっちの魔法使い、陰陽師と出会う。

安曇桃花

第一話 むかしむかし

「一晩、泊めてくれはしませんか?」


薄暗い扉の向こうには、大粒の天の涙が止めどなく溢れては地面に叩きつけている。


縦に長く厚いオークの扉に手を置いて、その長身の男は立っていた。手に持った蝋燭に映るその男は、異様なほどの輝きを、そのを身に纏っている。


「泊めてくれるのですね!ありがとうございます、貴方様は命の恩人でございます!」


意気揚々とした声色で、突然こちら側に歩みを進めて扉を閉めた。

チリン、と聞き覚えのない音が足元で鳴り響く。


「ま、待って、まだ私何も」

「ああ、なんて美しいぶろんどの髪なのでしょう!私、初めて見ました!」

「……よく見る髪色だけど。」


不気味なほどパーソナルスペースというものがないこの男は、縦長の廊下をいいことに徐々に近づいてきては中に入り込む。


ゆらめく蝋燭を落とさぬように気をつけながら、その男を睨みつける。すると、にんまりと口を綻ばせて、そのひらひらとした袖を手前に持っていき軽く会釈をした。


「申し遅れました、私は陰陽師の久遠千里くおんせんりというものでございます。以後、お見知りおきを。」


その昼間の太陽光を吸収したようなを見に纏ったその男は、気味が悪いほどの笑顔をしながら私を見つめていた。

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