ついに、始まる。

第7話 急にどうした?

 僕が『可愛い』『美しい』という言葉の使い方を改めようと決意してから、数日が経った。


 今日も僕は、早めに次の授業が行われる理科室に移動して、自分の席に座っていた。


 どの学校でも同じだと思うが、ここ理科室では、グループごとに一つの机を使う。

 つまり何が言いたいのかと言うと、僕は美羽の隣なので、理科室でも必然的に席が近くなるということだ。


 自分の席に座って、近くにいる友だちと話していると、誰が僕の背中を軽くたたいた。

 誰だろうと振り返ってみると、そこに立っていたのは美羽だった。

 

「え?どうした?」


 僕がそう聞くと、美羽は少し微笑み、何も言わずに自分の席に座った。

 そこで僕は、


(え? 急にどうした? もしかして僕にかまってほしいの? てか、めちゃ嬉しいんだけど。今の僕、幸せすぎん?)


とかなり浮かれていた。


 今回の背中を軽くたたかれるというのは、美羽を好きになってから初めてされた『ボディータッチ』でもあったので、すごく驚いたと同時にすごく嬉しかった。


 そんなことがあってから、一週間が経ち、給食の時間。

 今日の給食は、の入ったスープだった。

 ちなみに僕は、嫌いな食べ物は少ない方だと思うが、今日みたいなはどうしても好きになれなかった。

 そんなことを考えながら、まいたけスープを見つめていると、


「うわ、今日のスープにまいたけ入ってるやん」


と隣から、今日の給食に対する文句が聞こえてきた。

 さらにそのクレーマーは、


「はるさん、いる?」


と僕に聞いてきた。

 そこで、


(好きな人から給食もらう系のイベントって、こんなすぐに起こるものなのか? 僕は、関係が縮まるようなイベントがもっと起こってから、今回みたいなビッグイベントが起こるっていうイメージだったんだが……てか冷静に考えてみると、距離の縮め方ヤベーな……)


 美羽の積極的すぎる性格に驚きながらも、


「あ、いいよ、別に」


と冷静さを装いながら、そう答えた。

 その答えに対し美羽は、


「え? いいの? これ口付けてないから」


と言い、口をつけていないであろう箸で、口をつけていないであろうスープに入っているまいたけを僕のお椀に移す。


(いや別に僕は、口をつけたやつをくれてもよかったんだけど?)


 そういう考えが一瞬頭をよぎったが、


(まあ給食もらう系のイベントが起こったしいいか)


と思い、素直に喜ぶことにした。


 当たり前のことのように言ってるけど、僕自身こういうイベントは初めてだったので、本当に嬉しくて、ドキドキした。


 こうやってまいたけをもらったのも、美羽が好きだったというのもある。

 だがそれ以上に、好きな人が「あげる♡」って言った食べ物をもらう以外の選択肢が思いつかなかったから、もらったというのも理由としてある。

 てか美羽こそ、僕みたいなただの「隣の席に座ってる系男子」に給食をあげるって中々だと思うんだが。

 僕以外の普通のクラスメイト系男子にそういうことしてたら中々冷めるけど……。

 これは、僕だからやってくれたってことでいいのか?


「私にとって、はるさんは特別だよ♡」


って意味でやってくれたという解釈で合っているのか? これは。


 まあ、そういうことにしておくか。


 そんなこともありながら、僕と美羽の甘い給食の時間は終わった。

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