第1話 冒険者の店 視点依頼人

 第二次魔王戦争

7年に渡る魔族と人間の戦争は、勇者パーティによる魔王暗殺で幕を閉じた。

今から約50年程前の話だ。


 全種族を巻き込み、魔族が大陸を手に入れる直前までいった第一次魔王戦争に比べると半分以下の規模であったと称されるが、この戦いにより魔族も人間も大きく疲弊し、中立を保った妖魔族連合が力を伸ばした。


 だが、真の勝者は商都ハルピアの大商人達であったとも言われる。

大商人達は敵味方関係なく、人間にも、魔族にも物資を売り莫大な利益を上げた。

大商人達自身も人間、魔族、妖魔族と多彩な為、金の前に世界は既に一つになっていると言う者もいる。


 そのハルピア。

魔都とも呼ばれる街に[森の若木亭]という店がある。

冒険者に仕事を斡旋する[冒険者の店]と呼ばれる店だ。

冒険者には食い詰め者から、道を求める修行者、国に仕える間者スパイ、まで様々な者がいる。


 それぞれの目的の為に、這いずり回る者達。

私も自らの使命を果たすの為、その店を訪れる事になった。


☆☆☆


軋む扉を開けると店内がざわついた。

「おい、あれって。」

「あぁ、だろうな。」

「1人か?男か女か分からんな。」


「いらっしゃい」

店主と思われる人間の男が遅れて声をかけてくる。


「食事と宿を。後、冒険者を斡旋して欲しいのだが……」

私が伝えると店員にテーブル席に案内される。


「定食は銅貨1枚、エール付きなら2枚。宿は4人までの相部屋で、1人銅貨10枚で朝食付きです」


「エール付きで、宿は斡旋された冒険者次第にする」


 銅貨を2枚支払い、出てきた黒パンと雑穀スープを食べていると店主が書類を持ってやってきた。

エールは水の様に薄い。


「必要事項を順に書いてくれ。あんたなら代筆はいらなそうだな。」


 人間共通語で書かれた書類を読むと、項目を順に記入する書式になっていて、

いくつかの注意点は括弧書きされている。

どうやら冒険者の店ギルドの共通書式の様だがお世辞にも整った文章ではない。


 食事を終えると書類に記入を始めた。



依頼内容を記入して下さい。

「学術調査の護衛」

依頼の達成条件を記入して下さい。

「最低3ヶ月の護衛。延長1回まで」

総報酬額を記入して下さい。

「金貨10枚、延長時は20枚」

前金と後金の金額を記入して下さい。

(依頼者側からのキャンセルは前金放棄、冒険者側からのキャンセルは前金の倍返しの為、注意して下さい。)

「前金4枚、後金6枚」

前金には経費込みか別かを記入して下さい。

「経費込み」

契約成立時点で総額を店に供託するか否かを記入して下さい。

「する」「延長分を除く」

しない場合は支払い保証人か保証組織を記入して下さい。


斡旋料は契約成立時点で総額の10%を別途お支払いいただきます。(斡旋料金は前払いになります)


契約上のトラブルなどがあった場合[冒険者の店ギルド]の仲裁に従っていただきます。

訴えがある場合、お申し出下さい。



 書類の記入が終わり、店主に確認を頼みながら報酬の支払いの相談をする。


「支払いは絹布エルフシルクを換金して払いたい。換金出来る店を知らないだろうか?」


「そこに冒険者の店のギルド証がかかってるだろ?うちでも手数料もらうが換金出来る。下手な店に持ち込むより安心だ。後で物を預かるが、値段が気に食わなきゃ返す。」


 絹布エルフシルクなら捨て値でも金貨10枚にはなるはずだが、足元を見てくる者は多い。

手数料を取られてでも、冒険者の店ギルド加盟店の方が信頼出来るかも知れないが……。


「では、取り敢えず頼む。物は後でも良いのだろう?」


 里を出る時に金貨20枚と絹布を2巻渡された。

使命を果たすのに1人では難しいからだが、里から出るとあらゆる事に金がかかる。

何事も金が無ければ始まらない。


 私と友人のウンディーネだけで、遺跡探索が出来れば良かったのだが、それは難しい。

人間が信用出来るのは金を払っている間だけとも聞いた事があるし、金が絡むと人間は信用出来ないとも聞いた事がある。

どちらにしろ、人間に注意するに越した事はない。


 人間のあらゆる欲望には限りがないからだ。

里で受けたエルフ法の教育で、人間との性交が犯罪なのは、人間の旺盛な繁殖行動に巻き込まれ不幸な目に合わないない為だと教えられた。


 人間はゴブリンより厄介で、自身の種族だけでは飽き足らず、エルフ、魔族に始まり、オークに魚人に人魚、果てはアンデットのヴァンパイアまであらゆる種を犯し、繁殖を試み、実際混血例がある。

竜の仔、ハイリザードマンと混血した竜人などは竜の島で大繁殖していると聞く。


「カウンター横から奥に入ってくれ、商談用の個室がある。個室が嫌ならテーブル席の端でも良いが?」


「問題ない。信用ある冒険者の店と聞いている。」


「そりゃどうも」


 いきなり私を捕らえて売り飛ばす可能性もゼロではないが、私は[冒険者の店ギルド]を信用する事にした。

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