第57話私の夫はありえない

「蒼君、私の旦那様……」


お願いだからさ、普通に天体観測させてくれよ

なんでおれの腕の中に澪が居る状態で観測しないといけないんだよ、心拍数もえぐい数値になってそう、集中もできないし


「……蒼君……」

「はいはい」

「えへへ……」


お願いだから気持ちよさそうな声出さないでくれ、おれの理性がぶっ壊される


サマーナイトが終わりさっきまでのにぎわいは消え失せ、中央駅周りと天文館周りがただ明るいいつもの市内に戻ってきた。

澪はおれに頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を閉じ、声を漏らした。


サマーナイトはおまけ程度の感覚だったのに、虐めについての話になるし……おれはただペルセウス座流星群を澪と見て、いい感じになったら告白の予告をする予定だったのに、本題はこっちだったんだけどなー、まぁこれはこれで澪には申し訳ないけど、心にはこっちのほうが残るっしょ


「蒼君」

「何?」

「手を離さないでくださいね」

「もちろんさ」


澪は妖艶な声で言ってきた。

それと同時におれは自分の鼓動が澪に聞かれていないか心配した。


ん?

手を離さないでって言われたけど、多分一生傍にてってことなんだろうけど、合宿で潰れるくね?

絶対に『明日合宿』って言ったら殺されるじゃん、もう少し早く言えば殺されずにすむか、夏休み始まる前に言ってたから多分大丈夫だと信じたい


その時脳内に一つの策が浮かんできた


……ワンチャンに賭けるのが男というものだろう、澪は寝ぼけると相当判断力と記憶力が落ちるし行けるかもな


そして、澪を何とか立たせ電車に乗り家に帰った


電車の中でも甘えてきたのは流石におれにも効いた

浴衣姿で自分の胸に顔を擦りつけ『えへへ』とか言ってるんだぞ、おれの理性を褒め称えたい


◆◆◆


おれは風呂から上がり、タオルで髪をざっと拭きながら部屋に戻ると、思わず足が止まった。部屋の布団の上、そこには浴衣姿のまま座り込む女性がいた。

おれは自分の目を疑いたくなったが、眼前には桜島高校のマドンナであり、おれが1番知っている人物だった


「澪?」


驚きの声が自然と漏れる。


時間も時間だからってなり澪は自分の家でお風呂を済ませる事になった。

おれは少し筋トレをしたせいで上がる時には既におれの家に上がっていたんだろう


そして、普段だったらあの心臓に悪い少し肌が透けて見える水色のネグリジェに着替えるはずなのに、今日はどういうわけか浴衣のままだった。髪もまだ濡れている状態で、裾がわずかに乱れている。それがなんだか妙に色っぽく見えて、心臓が跳ねた。


思春期真っ只中なおれに見せるんじゃない

普通にあそこが反応してしまうだろ


澪は僕の声に顔を上げると、少し照れたような笑みを浮かべた。

「…あ、蒼君。ごめんなさい…ちょっと浴衣のままでいたら、そのまま座り込んじゃって…」

「いや、何で風呂上がりなのに浴衣着てるんだよ」


驚きと戸惑いが入り混じった声で問いかけた


「折角の浴衣なんですから少しは堪能したいなーって思い、それに……」


言葉を濁しながら視線を彷徨わせる澪。その仕草が可愛すぎて、逆にこちらの心臓に悪い。浴衣の鮮やかな模様と布団の白が相まって、彼女の肌がより一層映えて見える。


「いやいや、浴衣のままだと寝づらいだろ。ちゃんと着替えた方がいいって」


そう言いつつ、視線を逸らす。浴衣姿のまま横になる彼女を想像してしまって、正直、動揺を隠せなかった。


おれの理性耐えれるんかな?

ワンチャン襲うんじゃ……いやそれだけは流石にしない


「…でも、浴衣って脱ぐのが少しめんどくさくって……」


小声でそう言うと、澪は布団の上で膝を抱えて、じっと僕を見上げてきた。その目には少しだけ甘えが滲んでいる。


「…わかったよ、とりあえず早く寝よう?」


少し苦笑しながらそう答えると、澪は小さく頷いた。浴衣の裾を直しながら立ち上がるその姿を見送る僕の胸は、ドキドキと音を立て続けていた。


布団に入ったは良いものの、浴衣の擦れる音が妙にもおれの理性を揺さぶってくる、本当に心臓君頑張ってくれ


そして、布団で20分ぐらい経った頃、澪は既に朦朧としていた

それを機に作戦を実行した

「……澪に言いにくいんだけど」

「はい?」

「明後日の朝10時から高校に向かわないといけないんだけどさ」

「明後日……も部活、ってことでぇしゅか?」

「いや、その……」


澪は不安そうな目つきでおれを見てきた。


なんかさ、これで澪に傷つけたくないんだけど……いじったりした時は罪悪感は出てこないけど、今回は罪悪感が湧き出るな


おれは『ごめん』と思いながら言った


「明後日から合宿なんです」

「……え」


◆◆◆


「咲茉ちゃん信じれますか!」

「あはは……」


あの夜、私は過去の話をして蒼くんから告白の予告をもらい、いつもより甘え、浴衣だったらと思い少しだけ期待して、寝室に行ったのにあっち系はされなかった。

いや、別にされなくてもよかったのかもしれない、私も心の準備が完璧でわ無かったから、でもさ、寝るモードだったのに私の旦那様から発せられたのは、『明後日から合宿』流石に私の寛大な心でも許される訳ないじゃないですか


「罰としてご飯抜きにしたんだっけ?」

「はい、それぐらい罰を受けて当然です」





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