第54話楽しい時間はいつの間に……
「私たちがどれほど他人の目を気にしているかは、私たちの自由を奪う最大の原因のひとつだ。」
― フリードリヒ・ニーチェ
「蒼君、蒼君この団子美味しいですよ」
「こっちの焼きそばもバカ美味いぞ」
澪は屋台で買ったあんこがこれほどかって言うぐらいふんだんに塗られていた団子を食べながら言った
先ほどまでの、猫に標的と見られ何も動けないネズミのように、男共に見られてただおれの胸に隠れ小刻みに震えていた澪とは違い周りの視線すら気にしなくなるほど食べることに集中していたんだろう、
にしても、祭りで食べる焼きそばって普段の焼きそばより美味いって感じるよね、これは全国共通でしょ
「では、この残り一本と焼きそば半分こう、いっっ……」
澪はどうせ残りの半分を全部この団子一本で交換しようって言うゴミみたいな取り引きをしようとしたんだろう
おれは澪も頭に軽くチョップをした
幼稚園児でも引っかかる奴は流石にいないでしょ
澪は煌びやかな視線を向けてきたが、それも一瞬——
おれのチョップを喰らうと少しだけ涙を浮かべていた
だが断る
絶対にあげねぇ、これだけは死守しないとな
不自然に罪悪感は湧き出ることは無かった
「じゃ、じゃあ一口ぃ」
「じゃあ団子一個とな」
普通に考えて女子の一口の量と団子一つは絶対に団子一つの方が得でしょ
すると、澪は残り一本の団子を2つ食べ、素直に残り一つの団子だけ着いた木の棒をくれた
あ、ラッキー
おれは団子を口に入れると、祭りバフ関係なくあんこをふんだんに塗られているせいかめちゃくそ美味かった
そして、おれは焼きそばの入ったプラスチック製の器をあげようとしたが、澪は、いわゆるあーんしてほしいのか、小さな口をこちらに向けて開けていた
「早く、して、ください」
澪も照れているのだろう、めちゃクソ赤い
おれは澪の口に少し少ない量の焼きそばを入れた
「美味しいですね」
「だろ、てかもう少しで始まるし少し急ごうか」
「ですね」
「にしても…花火大会、久しぶりだな。澪はいつ以来なんだ?」
おれが軽く話を振ると、澪は少し考え込むようにしてから答えた。
やっぱり澪はって流石黒の女神って呼ばれているぐらいに美人だよな
「子どもの頃に家族と行ったのが最後だと思います。こうして蒼君と一緒に来られて嬉しいです。」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が一瞬ドクンと跳ねた。夕暮れ時の薄明かりの中で澪の微笑みがいつもより柔らかく見えて、どう返事をしたらいいか分からなくなる。
綺麗だな
「おれも嬉しいよ。澪と一緒に来るなんて、なんだか特別な気分だ。」
自分で言いながら、少し照れて目をそらした。
そうこうしているうちに、辺りがすっかり暗くなり、ついに花火が打ち上がり始めた。
ドン!
夜空に一番初めの大きな花火が咲く。赤、青、金色の光が暗闇を照らし、観客たちの歓声が沸き起こる。澪も自然と顔を上げ、目を輝かせながら見入っていた。
「すごい…綺麗ですね。」
花火の光を反射した彼女の瞳がまるで星空のように輝いていて、俺はその横顔にまたしても心を奪われる。
「本当に。だけど、花火より澪の方が綺麗だと思う。」
不意に口をついて出た言葉だったが、言った後で自分の顔が熱くなるのを感じた。澪は驚いたようにこちらを見つめ、それから頬を赤く染めながら小さくうつむいた。
流石にちょっと恥ずいな
「蒼君、そういうことは…突然言わないでください。」
彼女の声は少し震えているが、それでも照れくさそうな笑顔が見え隠れしていて、おれはその反応が可愛くてたまらなかった。
花火は次々と夜空を彩り、最後のクライマックスに向かう。どの瞬間も美しく、どの瞬間も特別だったけれど、それ以上に特別だったのは隣にいる澪の存在だった。
最後の大きな花火が夜空をいっぱいに広がらせたとき、澪がぽつりと呟いた。
「来年も、また蒼君と一緒に見られたら…嬉しいです。」
その声は花火の音にかき消されそうだったけど、ちゃんと聞こえた。おれは隣にいる彼女を見つめ、笑って頷く。
「もちろん。来年も再来年も、ずっと一緒に見よう。」
おれたちは夜空に咲く最後の大輪を見上げながら、互いに言葉少なにその瞬間を共有した。それはただの夏の夜の一場面だったかもしれない。でも、俺にとってはずっと心に残る、澪との大切な思い出になった。
そう、この瞬間までには
「あれ、そこにいるのは八方美人さんじゃないですか」
「っっえ、な、なん…で……」
夜空には美しい花火に塗りたくられ、真っ暗な夜空に輝きを与えていた。
それのおかげでおれは見たくもない、目を背けたいほど、花火とは対象的に澪の瞳には輝きが無くなり、顔も徐々に青ざめていった。
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