第29話音ゲーは運動



「ゲーセン来たけどどうする?」


店内に入って早々、義隆が言った。

おれはただ単に音ゲーをしたかったから良いが、他の人はどうするんだろう


「……とりあえず、蒼の音ゲー見ようぜ」


は?


「一旦行っとこうか」

「見ながら考えれば良いしな」


意味わからん

何でおれの音ゲーを見ようって発想に行き着くのか

音ゲーを何にも知らない人かプレーしてるのを見ても、何にも面白いって感じないでしょ、最終的に興味が無くなって全員スマホに視線が釘つけされる落ちええしょ


「何の音ゲーをするんだ」


志歩が興味ありそうな声で聞いてきたけど……どうせこいつもすぐに飽きるだろうな


「今日は、太鼓だけかな」

「へぇーじゃあ早よ行こう」


たまたま人がいなくてすぐにできたのは良かった

でも、志歩が放った言葉でおれはテンション爆下げ状態になった。

その言葉は、全国の音ゲーマーさん全員体験した事があるだろう、プレイヤーの心を折るのに最適な言葉


「1番難しい曲やってよ」

「それな、普通にどんな譜面か見てみたい」

「蒼ならできるって」

「ジュース奢るから」


「曲を選んでね」


ジュースか汗か……ジュースがあれば体温を下げれるな……でもなー、汗かいたら元の子もないし


「これがこの音ゲーの最難関曲」


男子高校生の厨二心をくすぐるような、かっこいい曲、そしてイケボ、聞く分には最高だが、やるとなるとな……液晶には、おれが遊びで演奏したゴミみたいな点数が表示されてる


「カッケーな」

「ピアノがすげー」

「後10秒」


おれはすでに、心と体がボロボロだった

どうせ、知らん人達がおれの惨めなプレイングを見て笑われるだけ

それに、2本合わせて250グラムぐらいあるバチで叩けって、無茶なんだよなー普通に

考えてほしい、単純計算でバチ1本125グラム

そんなバチで秒速30打——1秒間に30回叩けると思うか?それに反発も少ししかない……腕力だけで秒速30は無理がある


考えるほど、無理という文字が浮かんでくる


「後5秒」

「早くしろー」

「そうだそうだ」


……ん、待てよ……これっておれからしたら得の方が大きいのでは

……勝ったな


「演奏スタート」


最初は簡単な16分メインでたまに8分や4分が出てくる、字面は簡単そうだが、この曲はBPM300――簡単に言えば1分間に300回叩く速度、秒速だったら5打叩く速度

普通に無理


そして、サビに入ると、複雑な配置プラス32分、できるわけ無い

よく、動画配信サイトに、フルコンボしました、理論値出ました、とか言ってるけど、そいつらは人間じゃないと思う、てか同じ人間って思いたくない


そして、見事にクリア失敗


「…ジュース奢れよ」

「いいよ」

「2リットルな」

「え、なんで」

「お前は、ジュースを奢ると言ったが、量までは言及していない、よって量の上限は無制限になる」

「おかしいだろ!」

「いやいや、そこまで定義していない久則が悪い」

「だったらおご――」

「奢らないは無しだぞ、男に二言は無いって良くお前が言うよなぁ」

「……はぁ、わかったよ、おれの負けだ」


おれは勝ち誇った顔をしながら残り2曲を楽しく演奏した。


「どれがほしいんだ」

「これで」


おれは澪が好きなぶどうのジュースを久則に頼んだ


澪もこれで喜ぶだろう、自分の好きなジュースがあれば誰でも嬉しいからね


「じゃあ、解散ということで」


少し不貞腐れながらも、久則は解散を告げたが、1人、別れ際にクソでかい置き土産を置いていった


「まだ、どっちのマネージャーが可愛いか会議は終わってないからな」


くっそいらない、しかし4人は考えが違うようだ

康太郎は電車の中でも独り言を言い続けてる、それがなんともうるさい、周りの人達には聞こえてないようだが……いや、聞かれないほうが良いか、内容が内容だもんな


◆◆◆


おれはスーパーに着いたら、澪が書いた付箋を見た

えっと、卵、にんじん、鳥の胸肉、牛乳、アイス、洗剤、柔軟剤……アイスは最後でいいとして、最初は洗剤と柔軟剤か、洗剤、洗剤


おれは上空に吊るされている看板を見ながら、洗剤という文字を探していた


流石に洗剤と柔軟剤はセットで同じところにあるっしょ、これでなかったら普通にだるい


「……あった」


えっと、いつも使ってるのは……たしかピンクと水色でカラーリングされてるやつだったはず、で、今回は詰め替えを買うから


「これだ……え、高すぎだろ」


洗剤ってこんな値段するんだ……いや、これは仕方ない出費取捨選択は大事だもんな……量は多いのを買たほうが得だろ


おれは詰め替えの中で一番量が多い詰め替えを買い、柔軟剤は澪が写真で送ってくれたので、迷わずに買えた。


それ以降の物も近場にあったので、苦戦することもなく買い物を終えることに成功した。


一番嬉しかったのは、同級生と合わなかったことだな、買い物で知人とあうと普通にダルい

男だったらいいけど女だったらな……澪と仲いい女子だったらいいけどね、そんな女子なんてレア中のレアだからな



「ただいま」


返事はない

まだ帰ってきてないようだ、まぁ予定の時間はまだまだ先だもんな


おれは買ってきたものを冷蔵庫に入れ、澪の帰りを待った。


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