第12話黒の女神は1人だけに見られたい

玄関を開けた瞬間、思わず息をのんでしまった。


澪は、清楚な白いワンピースを身にまとっていた。普段の制服姿や、少しクールな表情とは違う、柔らかくて上品な雰囲気が漂っていて、いつもの澪とはまた違った魅力があった。

白いワンピースが、澪の透き通った肌とよく似合っていて、風にそよぐ髪がその美しさをさらに引き立てていた。


おれは思わず見惚れてしまい、しばらく言葉が出てこなかった。どうにかして何か言わないとと思っても、頭の中は真っ白で、ただ彼女を見つめることしかできない。


だって、綺麗すぎるんだよ

この状態、この情景でスラスラと感想を言える男の方がキモイって


そして、おれの頭には1つの感情が生まれてしまった


おれが澪を独り占めしたい

澪の姿を他の男どもには見せたくない


「蒼君、どうかしましたか?」


澪が不思議そうに首をかしげる。その一言で我に返り、何とか平静を装おうとしたが、うまく隠せていなかったのか、顔が熱くなるのが自分でもわかった。


「あ…いや、別に。なんでもないよ。ただ、その…中学校の時と違って、なんか大人になったというか、更に清楚感が強くなったな、みたいな…よく似合ってるなと思って」


それを聞いた澪が、ほんの少しだけ顔を赤らめ、少し照れたように目をそらした。

しかし、それも一瞬


すぐに攻撃をしてきた


「ありがとうございます。やっぱり、その…お相手が蒼君ですので……も、もちろん、こんな服装を堂々と見せてあげるのは、あ、蒼君だけですよ」


その控えめな微笑みと上目遣いのコンボ、おれの心を掴んで離さない。

こんなふうに澪がおれのために準備してくれたんだと考えると、嬉しさと照れが混じり合って、ますます意識してしまう。


しかし、やられっぱなしのおれじゃない


おれは澪に近づきカウンターをしようとした

しかし、うまくいかなかった

——澪の方が一枚上手だったから


急に澪がおれの腕に抱きついてきた

それだけならまだ許容範囲だった

しかし、この後の言葉でおれは死んだ


「あ、あの、、皆さんからの視線を隠したいなぁって、やっぱり、その、恥ずかしいので…そ、それに蒼君にだけ見せたいので」


参りました、降参です


「ダメ、ですか?」


首を傾げながら言ってきた

こんなんされて、いいよ以外言うやついる?


おれは自分が負けた事を認め


「良いよ、おれだってこんなに綺麗な澪を見せたくないし」

「あ、ありがとうごじゃい、ましゅ」


せめてもの悪あがきをしたら、少しだけ効果があったらしい、まぁ、結果は負けたに変わらないんだけど



一緒に歩き出しても、時折澪の姿が目に入って、そのたびに心臓こ鼓動が大きくなる。

彼女の言葉や仕草が、どれも自然に目を惹いて、視線を逸らすことができない。


「蒼君? 私の服になにかついてますか?」


流石に見すぎたな

今後は、バレないように見ようかな


おれは少し反省をしながら、適当な言い訳を言った


「いや、なんでもない、今日の晩ご飯は何かなーって考えてただけ」

「蒼君の好きなものでいいですよ」

「でも、今日の買い物は、食材を買いに来たんじゃないんでしょ」

「そうですね、今日の目的は、服とか、身の回りの物を買いに行きます」


服か……

おれは澪の方を見て、似合いそうな服を考えた


やっぱり、清楚系が似合いそうだな


おれは大してファッションの知識がある訳ではないが、直感で清楚系が似合うと思った


服は何となく想像できるけど、身の回りの物って何買うんだ?

女子ってそういう知識、どこで蓄えてるんだよ


「服はわかったけど、身の周りの物って何買うんだ?」

「ティッシュとか、食器とかですかね」

「なるほど、じゃあ、おれはもう一回、市内に戻るのか」


その途端、澪の淡い蒼の瞳、容姿端麗の綺麗な顔にうっすらと曇がかかってしまった

澪にも申し訳ない、と思った節が合ったんだろう

そう考えると、少し胸が痛む


会話が下手すぎるな


「すいません…私の我が儘で」

「いや、おれこそごめん、澪は周りの視線が嫌なんだもんな、おれの方が理解が足りなかった」

「今日は、我が儘を言っても良いですか?」

「全然良いよ」

「わかりました」


澪は頷きながら言った

しかし、その後の言葉がよくなかった


「やった」


澪からしたら聞こえないように言ったんだろう

でもごめん、全文聞き取れちゃったんだ

そんなに嬉しいのか?まぁ、我が儘の許可をおろして、楽しんでくれるんだったらまぁいっか


澪の独り言に少し悶えたがバレないように駅に向かった


◆◆◆


「澪さんや」

「何ですか?」

「体幹クソ雑魚なのに、何で吊り革に……あ」

「わかってて言いましたよね?、わかったのなら壁際に移動しましょう、ちょうどあそこにスペースがあります」


そして、おれ達は壁際に移動したんだが

体幹クソ雑魚の澪には壁という支えがあっても意味が無かった


「え、大丈夫?」

「大丈夫じゃな、キャっ」


慣性の法則

電車の中で働く有名な物理法則

電車が急に発進すると、体は後ろに引っ張られるように感じ、逆に、電車が急に止まると、今度は前方に押し出されるように感じる


電車が駅に止まった1秒後

おれ視界には宇宙のような綺麗な黒髪が広がっていた


そして、もちろんスペースが空いたら、そこに移動されるのがあたりまえ


澪が本来いた場所には屈強の男が来た


「中央駅まで我慢してね」

「はぃ……」


おれは優しく澪に言い

直ぐに消えそうな声で返ってきた


中央駅まで後一駅

おれの理性、耐えてくれよ


















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