異世界ギャル Lv.999〜 ギャルと魔王とナルシスト〜

唐夜

第1話 どうして魔王討伐の勇者パーティに魔王本人が加入するんだ!!!!!!

 「あぁ、神たちよ! この混沌とした世を鎮め我らを導かんとする勇者の召喚を、どうかお赦し下さい! そして願わくば、我らにお力添えを――」

暗い部屋の中に、青白い光が円状に輝く。瞬間、それ――魔法陣は鋭い光を放ち、円の中心に人影が現れた。部屋の壁に沿うように並んだ百人の信者たちは、その影に祈りを捧げる。神は我々を見捨ててはいなかった。これは神々の加護である! 影が動く。暗い部屋の中に、影の主の声が響き渡った。

 「は!? ちょ、ナニコレ!? なんのドッキリだよ!? あーしこの後アユミとミホとプリ撮り行くんだけど!」

金髪が揺れ、スクールバッグにつけられた大量のキーホルダーがぶつかり合う音が虚しく響いた。


 ――勇者はギャルだった。


 ※※※


 この国には、勇者の伝説がある。こことは違う世界から呼び出される、世を治め民を救う存在。英雄伝説として語り継がれてきたそれは、ただの御伽噺ではない。王家の文献にも記録されている、五百年前に実在した人物。それこそが勇者なのである。勇者といえば、たくましい体躯に凛々しい顔つき。そして何より、威厳のある振る舞い。それこそが勇者たると、人々は信じて疑わなかった。しかし、今、目の前にいる人物はそれとは対照的ではないか。身体はお世辞にも鍛えているようには見えず、眉毛は頼りないくらいに細く、先ほどから「マジ」「ガチ」「ウケル」「バエル」などと意味の分からない言葉ばかりを繰り返している。

 この何とも受け入れ難い事実に、司祭は頭を抱えた。国王陛下より命じられたこの勇者召喚、我が身を持ってしてでもやり遂げると誓ってしまったのに。これでは陛下に謁見どころの話ではない。勇者召喚は、失敗してしまったのだ。

「司祭様、この方を『鑑定』なされないのですか? こんな風貌ですが、実は骨のある者なのかもしれません」

「もうよい、もうよいのだ…… わしは賜われた命のひとつすら遂行出来ぬ老いぼれよ。最近体の節々が痛み、ピントがズレることも多いと思っておったのじゃ。魔法陣を描き違えたのかもしれぬし、呪文を読み違えたのかもしれぬ。あとのことは頼んだ。わしはもう引退する」

「そんな! お考え直し下さい、司祭様……っ!」

「仕方がないのじゃ! 司祭としての役目も果たせぬのに、いつまでもその席に座っておるわけにはいかぬ! では、あとはまかせたぞ……」

「ちょい待ち、じーちゃん」

肩に手を置かれた司祭が振り向くと、そこには先ほどの勇者――ギャルが立っていた。

「お主も、すまんかった。わしが勇者召喚に失敗したばかりに、巻き込んでしまった」

「なんかよく分かんねーけど、あーしはその『ユーシャ』と間違われたっつーワケ?」

「そうじゃ。本当は、この世界を救うために勇者が召喚されるはずじゃった。勇者召喚に失敗した今、世界の終わりの時は近いかもしれん」

「じゃあ…… あーしが救ってやんよ、世界。そしたらじーちゃん、仕事辞めなくて済むんだろ?」

「はぁ!? お主が……!? 」

「たった一回の失敗でくよくよすることねーって。あーしなんか何回失敗してっか分からんよ」

「ええい! 引き止めてくれるな! もう辞めるんじゃ! 決めたんじゃもん!」

駆け足で部屋を出て行こうとする司祭を、従者がなんとか引き止める。

「せめて『鑑定』だけでも! この者は先ほど『世界を救う』と言いました。勇者としての器は、十分に期待できるかと」

従者に言われ、司祭が「なるほど」と髭をさする。「やるだけやってみるべ」というギャルの言葉に、司祭は頷いた。司祭が『鑑定』と唱えると同時に、ギャルの体は青白い光に包まれる。

「――!? なんと! レベル999!?」

司祭の声に、信者たちの間にざわめきが広がる。

「レベル999!?」

「聞いたことがない!」

「あの騎士様ですら、レベルは500だと聞いたぞ!」

レベル999の文字に、司祭は目を疑った。力が衰えたとはいえ、まさか『鑑定』までイカれてしまったのか。いや、違う。今朝食材を『鑑定』したときは間違いはなかった。目が見えなくなろうと足が動かなくなろうと、『鑑定』スキルだけには絶対の自信がある。

「――この鑑定結果は確かなものじゃ。一体、お主は何者なんじゃ……?」

司祭が尋ねると、ギャルは顔の横でピースをつくった。

「あーしはミコ! ミコりんって呼んでね! ユーシャじゃなくてギャルなんで、そこんとこヨロシク!」


 ※※※


 司祭たちに導かれ、ミコは何か仰々しい場所に立たされていた。赤いカーペットの両側にはメイドや執事が並んでいる。カーペットは段差の上の大きな椅子まで続いており、その椅子にはお手本のような格好の、王と思われる男性が腰掛けていた。その横の一回り小さな椅子に座っている美女は誰だろうか。

「やべー、マジで映えるんだけど! スマホ失くしてなきゃインスタ上げんのに!」

「こら、失礼じゃぞ! ――陛下、こちらが例の『勇者』に御座います」

司祭が片膝をついて言うと、王は「この者が……」とミコを爪先からつむじまで、何かを確かめるように目線を動かした。

「お主、名は何と言う」

「あーしはミコ! ミコりんって呼んで!」

ミコが答えると、司祭は顔を青くして慌て始めた。

「陛下に対してなんじゃその態度は! 陛下、申し訳ない。話し方は無礼ですが、実力は確かなのですじゃ。わしの顔に免じて、どうか許してくだされ」

「よいよい。こちらが突然呼び出したのだ。こちらの作法を押し付ける方が、無作法というものだろう」

王はからからと笑った。この人が王様なのか。なんつーか、めっちゃ『王様』っぽいな。

 部屋を見渡すと、そこかしこに装飾品が置かれてある。天井には大きなシャンデリア、壁には絵画と謎の壺。王も宝石のついた指輪をいくつも付けているし、隣の美女のドレスには見たこともないくらい大きな宝石のブローチが輝いている。日本も、総理大臣と国会議事堂をこれくらい派手にすれば映えるのに。

「ミコ殿、突然呼び出してすまない。そなたにしか頼めぬことがあるのだ。聞いてくれるか」

「あーし、堅苦しいのは嫌いなんよ。気軽にミコりんって呼んで」

「……では、ミコりん殿」

「まぁいいわそれで」

「ミコりん殿には、勇者として魔王を討伐してほしいのだ」

王は真剣な目でミコを見た。その瞳には、人々の上に立つ者としての威厳がある。

「おけおけ、マジ任せて……って言いたいのは山々なんだけど、あーし、ユーシャじゃなくてギャルなんだよね」

ミコの言葉に、王は首を傾げる。

「なんだ? その、ぎゃる? というのは」

「うーん、説明はムズイけど…… 自分を貫くっていうか。まぁ、好きなものを好きって言うだけだよ。そんでみんなとダチになれたらチョー良いよね! ってカンジ?」

「よく分からんが、自分を貫こうとする心意気は良いものだ。それに、お主はレベルが非常に高いと聞いた」

すると、ミコの隣にいた司祭が「お見せします」と立ち上がった。司祭が『鑑定』と呟くと、ミコの体が再び青白い光に包まれる。光が消えミコが目を開けると、頭上に枠に囲まれた文字が浮かび上がっていた。

〈ヤナイ ミコ Lv.999

 職業:なし

 スキル:コミュ力(Lv.10)フッ軽(Lv.5)

    お取り寄せ(Lv.1)

 特殊ステータス:聖魔法 黒魔法 ギャル〉

 ミコのステータスを見た人々から、感嘆の声が上がる。王も目を見開き、隣の司祭は何故かドヤ顔をしていた。

「おぉ、本当にレベルが999なのか……! 聖魔法まで! それに、どのスキルも見たことがない! 司祭よ、これらは一体どういうスキルなのだ」

王が尋ねると、司祭は「詳細を開示、と唱えるのじゃ」とミコに耳打ちした。言われた通りに呟くと、ステータスに文字が増える。

〈コミュ力(Lv.10):コミュニケーション能力。

 フッ軽(Lv.5):フットワークの軽さ。〉

「そ、そのままだな…… うむ、しかし、このような項目がスキルになっているのは、初めて見たな」

王は、「こむりょく」「こみりょく」と口をもごもごと動かしている。「コミュ力」とミコが言うと、さて次は、と露骨に話題を変えた。

〈お取り寄せ(Lv.1):自分が一度でも触ったことのある5000ロロ以内のものを取り寄せることができる。なお、日本円で1ロロ=1円〉

「ほぉ、これはすごい! 試しに何か出してみてくれるか?」

「おけおけ! でもあーし出し方とかわからんよ」

ミコが頭をかくと、司祭は「とりあえず1000ロロくらいのものをイメージしてみるのじゃ」と顔の前で手を組んだ。ミコもそれに倣う。

「とりまやってみっか! じゃー…… 出てこい、あーしのつけま!」

ミコが叫ぶと、ブーという音とともに目の前にエラーと書かれた赤い画面が表示された。

〈エラー:所持金が足りません。

 不足金額:950ロロ〉

「あ! そういえば、あーし今財布持ってねーわ。オーサマ、マジすまん」

「セバス、ミコりん殿に1000ロロ渡してやれ」

王が言うと、執事の列の先頭に待機していた白髪の男性がミコの前に銀色のコインを差し出した。コインの真ん中には若い男の顔が彫られている。

「え、もらっていーの? サンキュー、オーサマ! じゃーもう一回! 出てこーい、つけま!」

ミコの言葉と同時に、ティロン、と音がしてミコの手のひらの上につけまつげが現れた。ほぅ、と感心する声が聞こえる。

「やはり初めて見たスキルだ。感謝する、ミコりん殿。して、今出したそれは何なのだ?」

「いいってことよ! これはね、つけまっつって、あーしらギャルの命だよ」

「なるほど、命にも代え難いようなものなのだな。……あまり、そうには見えないが…… まぁ何を大切にするかは人それぞれだからな」

「オーサマは何を大事にしてんの?」

「私が大切にするものは、もちろん我がルーデス王国だ。土地を守るため、伝統や歴史を守るため、そして民を守るためなら身を粉にして働くよ」

王は目を閉じ、国の人々に想いを馳せているようだった。ルーデス王国は由緒ある素晴らしい国家なのだと胸を張っている。人界の中では一番の歴史があるらしい。王は、しかし、と続ける。

「しかし、最近では魔人や魔物の動きが活発になっている。民の中にも被害を受けた者たちがおり、皆恐怖しているのだ。――そこで、お主にはパーティを組んでもらい、魔王を討伐して欲しい。勇者の力が必要なのだ」

「え、あーしに? マオーってあーしに倒せんの?」

「もちろん、魔王は凄まじい強さを持っている。実力主義の魔界で、その王座にまで上り詰めたのだからな。昔は魔界は無法地帯であったという。それをまとめ上げたのが、今の魔王なのだ」

「ガチか、すげーじゃんマオー。てか、そんなんなおさらあーしにはキビシーっしょ! あーしまだ死にたくねぇよ、ダチとプリ行く約束あっし」

今ごろ、アユミとミホはどうしているだろうか。もう二人でプリ撮ってっかな。もしあーしのこと待ってくれてたら申し訳ねーな。

 先ほど司祭から聞いた話によると、ここは地球ではないらしい。不思議な力によって、ミコは別の世界に呼び出されてしまったのだ。帰る手段も、今のところは無いと言っていた。呼ぶなら帰す準備もしとけと思うが、帰れないならこの世界を満喫するまでのことだ。ギャルの適応力舐めんなし。

 「レベル999の力を持つ勇者のミコりん殿なら、魔王も倒せるかもしれぬ。……頼む。どうか、力を貸して頂けないだろうか」

王は椅子を降り、片膝をついて頭を下げた。おやめください! と隣の執事が慌てている。

「……わかった、あーしに任せな! その、マオーっていうの、ぱぱっと倒してやんよ! だから、顔上げてくんね? パパくらいの歳のおっちゃんに頭下げられんのフツーにキチーわ」

「感謝する、ミコりん殿。お主のパーティに騎士団の精鋭を入れたいのだが、生憎今は出向いておってな。帰還し次第、そちらに向かわせよう。問題ないか?」

「よく分かんねーけど、ダチが増えそーでいいな」

「お主が望むなら、他の者もパーティに入れて構わない。金銭的な援助も出来る限り行おう。セバス」

セバスと呼ばれた先ほどの執事が、薄茶色の袋をミコに渡した。中を開けると金色に輝く硬貨が50枚ほど入っている。

「金貨は一枚で10000ロロだ。他に、先程渡した銀貨と、大金貨、銅貨、銭貨がある。詳しいことは後でセバスに聞くといい。――それでは、頼んだぞ、ミコりん殿」


 ※※※


 「うおー! マジで映えるじゃん! カメラ買えねーかな」

城を出たミコは、セバスに勧められて城下町を訪れていた。道の両側に露店が所狭しと並んでいる。肉を焼く音や飴のような甘い匂いに、腹の虫が鳴る。勇者召喚では文化が近い世界に住む潜在能力の高い人間が選ばれるとセバスが言っていたので、食文化の違いに困ることはないだろう。マジよかった、虫とか食いたくねーもんな。

「おっちゃん、串焼きひとつ…… いやふたつ!」

「あいよ! 二本で800ロロな」

甘辛いタレの匂いが漂う。これは絶対ウマイやつだ。ウチは魔法じゃなくて炭で焼くのがこだわりなんだ、と店主が誇らしそうにしている。

「確かに、フライパンより七輪で焼く方がうまいよな」

「お! 分かってんなぁ、お嬢ちゃん。ほら、出来たぞ! すまん、そこの方! このお嬢ちゃんと相席いいか?」

店の前のテーブルには、どこも人が座っている。二人席に一人で腰掛けている黒髪の男性に、店主が声をかけた。男は「構わない」と頷く。食べ歩こうと思っていたが、せっかくなのでミコは勧められた席に座った。

「ありがとな、オニーサン」

「あぁ」

男の前には、大量の串焼きが皿に乗せられている。数十本はありそうだ。

「オニーサン、めっちゃ食うんだな」

「ここの串焼きは美味いからな」

「あーし初めて食べんだよね…… うまっ! ナニコレ!? え、超うまい!」

口に入れると、肉がほろほろと溶けていく。甘辛ダレと肉の旨味が口の中いっぱいに広がった。頬が落ちそうなくらい絶品だ。

「あそこのリンゴ飴も、食べて損は無いぞ。それから、ソフィアという女性が営んでいるパン屋は十二時に行くと焼きたてが食べられる」

「マジか、焼きたてはヤベーな。てか、オニーサン超詳しいね。この辺に住んでんの? あーし来たばっかでよく分かんねーから、よかったら色々教えてほしーんだけど」

もちろん礼はすんよ、と言うと、男はくすくすと笑った。

「これは、ナンパ、というやつか?」

「は!? ちげーよ、ホントに分かんねーの! けど、ヤな思いさせたなら謝るわ」

「いや、不快だった訳ではない。気軽に話しかけられることが少なかったもので、愉快だったのだ。それに、見たところお前はこの世界の者ではないようだしな」

男の真っ黒な瞳がこちらを覗く。そこには、吸い込まれてしまいそうな闇の色が広がっていた。

「てか、この世界の者じゃねーって、なんで分かんの!?」

「……勘だ。ある程度の強さを持つ者は、何となく分かる」

「オニーサン、名前なんつーの? あーしはミコ。ミコりんって呼んで」

「俺はサシャ・マーデルだ」

「オケ、サシャぽんね」

「サシャぽ……?」

サシャは顎に手を当て、眉根を寄せて首を傾げている。ひとつひとつの動作がゆっくりしているが、そこに高貴さを感じる。ミコは二本目の串に手を伸ばした。サシャは食べるのも遅いらしく、まだ先程の串を持っている。

「あーしはさっきこの世界に呼び出されて、ユーシャになったんだよね。マオーって人を倒すんだって。それで、仲間になるっていう人を待ってんの。あーしはボウケンシャっていうのに登録されたらしいんだけど、サシャぽんは何かしてんの? 良いボウケンシャを見つけたら仲間になれってオーサマが」

「それはスカウトと受け取っていいのか?」

「もち。サシャぽん強そーだし」

ミコが答えると、サシャは突然笑い出した。丁寧な所作からは想像できない、豪快な笑い声だ。

「え、なになに急に。あーしそんなオモロいこと言った?」

「あぁ。こんなに笑ったのは久しぶりだ。まさか勇者パーティに勧誘されるとは。長生きはしてみるものだな。……いいだろう、その提案、受け入れようではないか」

「マジ!? あんがとねサシャぽん!」

「しかし、事情があって俺はギルドに登録できない。それでも良いか?」

「よー分からんけどまぁいいっしょ! 大事なのはノリと勢いだって言うじゃん」

仲間が増えた記念にピザでもとっかな、と思考を巡らせる。ミコの『お取り寄せ』はまだレベルが1なので大したものは出せないが、ピザパーティくらいは出来るだろう。てか、それ以外に使い道が浮かばん。


 追加でもう二本串焼きを買って頬張っていると、「あなたがミコ殿か」と背後から声をかけられた。振り返ると、全身に金ピカの装備を纏った背の高い男が立っていた。ミコと同じ金色の髪の毛は後ろで束ねられており、ミコよりもだいぶ長そうだ。

「そう。あーしはミコ。ミコりんって呼んで」

「ボクの名前はアランだ。アラン・クレジア。陛下の命にて、勇者パーティに加わることとなった。よろしく頼む、ミコりん」

「あー! オーサマの言ってた人か! アラっちね、ヨロシク!」

「アラっち……? ボクはアラン・クレジアだが」

「あだ名だよ。せっかくダチになったからさ。てか、アラっちの服マジイカすね」

ミコが言うと、アランは機嫌を直したようでそうだろうそうだろうと胸を張った。

「これはオーダーメイドだからね! ボクの魅力を最大限引き出すことのできる装備を仕立ててもらったのだ! ボクの黄金色に輝く髪色にとても似合っていると思わないか? 思うだろう、そうだろう。ボクもそう思うよ」

アランは時折ポーズをとりながら捲し立てた。言い終わると、自身の金色の鎧に映る自分の顔を見てうっとりとしている。

「ウケる、アラっちナルシすぎ!」

「ああいう人間は、いつの時代にもいるものなのだな」

「ボクの魅力に笑みが溢れるか! はは、仕方がないよ。それは不可抗力だ。抗うだけムダさ。……ところで、そちらの殿方は?」

アランはサシャの方を不思議そうに見つめている。サシャが何かを言おうとする気配はないので、代わりにミコが口を開いた。

「この人はサシャぽん。さっきあーしらの仲間になったんよ」

「サシャ・マーデルだ。事情があってギルドに登録することは出来ないが、パーティに加入することになった。よろしく頼む、アラン」

サシャが言うと、アランは動きをピタリと止めた。先程までの騒がしさが嘘のように静まっている。三分ほどして、ようやくぽつりと呟いた。

「サシャ・マーデル……? それは本当か?」

「あぁ。事実だ」

「ボクの記憶が正しければ、サシャ・マーデルとはあの『魔王』の名なのだが……? 偶然ではないよな?」

「あぁ。俺は魔王だ」

サシャの言葉に、再び沈黙が訪れた。ピチチ、と鳥の鳴き声が聞こえる。今度ばかりはミコも、開いた口が塞がらなかった。

「何か問題があったか?」

サシャが首を傾げる。賑わう休日の繁華街に、アランの絶叫が木霊した。


 「どうして魔王討伐の勇者パーティに魔王本人が加入するんだ!!!!!!!!」


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