第5話模擬戦
は今王城の一室にいる。
冒険者ギルドで登録する前に王城に来てしまった。少なくても身分証なしで入って良い場所ではない。
まあ王城に来たということは怪しい仕事では無いことは確かだ。
王子様は今、国王陛下に話があると言い、謁見の間に行っている。
つまり、この部屋には僕しかいないのだが、部屋の外に見張りが一人いる。念のためだそうだが今日初めて会ったやつを王城に見張り一人で待機させるって大丈夫なのか?
そういえば王国に入ってからソラとは話していない。
まあ、独り言を喋っている変なやつと見られたくなかったのだ。それをソラもわかっていて何も話しかけて来ないのだろう。
そう思っていると王子様がやっと帰ってきた。
「それで良い仕事って何なんですか?」
「敬語は辞めろと言っているだろう。まあ、良い。その仕事に関してだが、実力を示したらやらせても良いと父上より許可がおりた」
「分かったよ。それより実力を示すってどうやって?」
「何でも今、国軍の中で一番強い者と模擬戦をして勝ったら認めるとのことだ」
「ちょっと待て。何で軍のトップと戦わないと行けないんだ?」
「それだけ責任がある仕事と言うことだ。心配し無くてもお前が勝つと私の直感が言っている」
この人、勘で動く人か。まあ、前にソラが僕が軍に入ったら1、2を争うぐらいは強いって言ってたから、その勘は当たってはいると思う。
そういえば王子様の紹介をしておこう。本名はレクス=ウェンテライウ。
赤髪で見た目はとてもチャラそうなのだが、王子様なだけあって中身はすごく真面目。
というのも街に出ていたのは、国王になる予定の者は王国内と友好国を旅するならわしがあり、その予行練習だったらしい。
その旅は極秘裏に行われるため知っているのは王国内の街を治めている貴族達と友好国の国王のみだそうだ。
このならわしの目的は見聞を広めること、貴族や友好国の国王に挨拶をし顔見知りになっておくことの二つだそうだ。そして、バレないようにするために護衛も最小限にするとのことだ。
そんな国家機密的なのを僕に教えて良かったのだろうか。
結構話が脱線しているので元に戻そう。
「いつするんだ?」
「何でもお前の準備が出来たらすぐにでも始めるとのことだ。」
「準備・・・・・・武器はそっちで用意してくれるんだよね?」
「ああ、一応一通りの木製の武器は準備してある。しかし、カイは魔法使いなのだろう?武器はいらないのではないか?」
「武術もある程度出来るからね。相手に合わせた戦法で戦いたいんだ」
それに魔法だとどれくらい手加減しなければいけないかわからない。
「そうか・・・・・・。やはり私の勘は当たっているかも知れんな」
「準備は必要ないかな。どこでやるんだ?」
「練兵場でやるそうだ。案内しよう。多分あいつもそこで待っているだろう」
あいつ?ああ、軍のトップの人か。やっぱりいかつい感じの人なのかな?
そう思いながらレクスについて行く。
そういえばレクスに呼び捨てで呼べとしつこく言われて渋々そう呼ぶことにした。
大国の王子を呼び捨びって・・・・・・
今後がとても心配だ。王城を出て数分歩いた所に練兵場はあった。すごく大きい。
何でも大きくないと機能しなくなるほどの人がいるらしい。
そんな練兵場に入ると、訓練していたであろう人達は膝をついてかしこまっていた。
僕が入る前に案内していたレクスが入ったからだろう。
「皆、楽にしてくれ。私はアゴットに用があって来た。」
「良くお越しくださいましたレクス様。話は聞いております。そちらの方と模擬戦をすればよろしいのですか?」
そう答えたのは軍のトップのアゴットと言う人なのだろう。中年でとても鍛えられた体をしている。多分魔法使いというよりは武術にたけた人なのだろう。
「ああ、その通りだ。父上にこの話を通すにはお前と模擬戦をさせること以外なくてな。迷惑をかける」
「滅相もございません。私と致しましてもレクス様が目をかけられた方と模擬戦が出来ること光栄に思います」
「そう言ってくれると助かる。それでは早速始めたいのだが良いか?」
「はっ!準備は出来ております。模擬戦用の武器もあちらに用意しております。」
そう指された所を見ると木製の武器が並んでいる。ソラとの訓練で使い方を習得していない武器は無さそうだ。
どれを選んでも善戦は出来るだろうけどアゴットさんがどれ程の使い手か分からないため、一番初めに習得し、他より経験の長い剣を選んだ。
そして、アゴットさんの前に立つ。少し離れた位置に審判がおり、周りは先ほどまで訓練をしていた者達が取り囲んでおり、審判と周りを囲んでいる人達の間にレクスがいる。
「初めまして、警備軍長を務めております、アゴット=ウォーカーでございます」
この警備軍というのが国を守るための軍であり、同時に警察的な仕事をしているそうだ。
「こちらこそ初めまして、カイ=マールスです。まだ何故模擬戦をするのかよく分かっていないのですがよろしくお願いします」
レクスへの不満を込めてそう挨拶する。
「説明されていないのですか?レクス様のことです。何か考えがあるのでしょう」
そうかな?多分、言ったら僕が拒否する可能性があるから言ってないだけじゃないのかと。
あ、それも考えに含まれるのか。まんまと乗せられてるな、僕。
そこまで分かっていて何故模擬戦をするのか。
それは、僕のイメージの中の冒険者ギルドだとその乗りについていくことが出来な気がしているからだ。
喧嘩を吹っかけられるなんて日常茶飯事。そんな生活を避けるために掛けに出たのだ。
それにレクスとは仲良くなれそうな気がするし。王子だけど・・・・・・
「両者準備は良いですね?」
審判の人が聞いてきた。アゴットさんと僕はそれに頷く。
「それでは、始め!!」
◆
「ソラ、アゴットさんって僕より強いかな?」
小声で聞いてみた。
(さあ、多分勝てるんじゃないかな)
こいつ、他人事みたいに言いやがって。
ここで、模擬戦のルールの確認だ。
相手が気絶または降参したら勝ち。魔法は直接攻撃をしないならあり。
つまり、ありがちな火の魔法で攻撃はダメでも水の魔法で相手を濡らして動きを妨害することなどはありな訳だ。そんなルールでやるわけだが、アゴットさんは僕と同じ木剣を手にして僕の前で構えている。
さすが軍のトップ、隙がない。だが、僕には確信している一つのことがある。
それはソラよりは弱いということ。
決してアゴットさんが弱い訳ではないのだが、僕はソラという格上を知ってしまっているからそれ以上の脅威を感じることが出来ない。
そう思っているとアゴットさんの剣先が微かに動いた。
それを確認した僕は前に飛び出る。
アゴットさんは一瞬目を見開いたき対応するために後ろに下がろうとするのだが、僕が飛び出した時同時に薄い氷の壁をアゴットさんの背後に作っていたのでその壁に突っ込んでしまう。
薄く作っていたのですぐに壊れたのだがアゴットさんの体勢が崩れる。
そこに追いついた僕はアゴットさんの剣が手から離れるように弾く。
アゴットさんの剣は審判の近くまで飛んでいき、その剣とアゴットさんの間に僕が立つ。
「降参だ。まさかこんなあっさり負けてしまうとは・・・・・・私もまだまだですね」
「いえいえ、あの隙のない構えはさすがの一言ですよ」
そこで審判が、
「勝負あり!!、勝者カイ=マールス!!」
と言うと周りで見ていた人達が歓声を上げ始め、瞬く間に騒がしくなった。そしてすぐに囲まれた。
すごいなやらなんでそんなに強いんだやらいろいろ言われてるが一斉に言われているので何が何だか分からない。どう反応しようと困っていると、
「落ち着け!!レクス様の前だぞ!落ち着かん者にはこの後私が直々に稽古をつけてやる!」
アゴットさんが助け船を出してくれた。
しかし、・・・・・・ここにもいたよ、ドSで鬼畜なやつ。僕に向けられていないのでとりあえず触れないようにしよう。触れぬ神にたたり無しって言うからね。
「アゴットさん、ありがとうございます」
「いえいえ、部下たちが申し訳ない」
そんなことを話していると、レクスが近いてきた。
「やはり、お前はただ者では無かったな。私の勘はやはり正しいようだ」
あ、負けた方が良かったかも。レクスに自信付けさせちゃった。
・・・・・・まあいいか。
「ところで僕がする仕事って何なんだ?」
ため口だったことで周りがざわつく。あ、周りに大勢いたんだった。
やっぱりため口はやめた方がいい気がする。じゃないと人前でボロが出る。今みたいに。
ざわめきがヒソヒソに変わる。
「仕事だったな。それは、私の護衛だ。」
・・・・・・
待てよ、こいつ王子なんだよな。会って間もない僕を護衛に付けるってどういう事だ?
「ちょっと待て、何で僕なんだ?」
「そうだな、一番の理由は勘だ」
こいつ、勘信じ過ぎだろ。
「後は、同じ魔法学校の生徒になる護衛がいなかったのと、強い事位だ」
先にそっち言えよ。それはともかく、レクスと僕は同い年だ。なので魔法学校では同学年になる。
「お前が私の護衛になるなら王家から学校の資金を出す。もちろん、給料から引かれる訳ではない。給料もかなりある。この条件でどうだ?」
好条件を並べてきやがった。かなり必死だな。僕には今二つの選択肢がある。
一つは断り、冒険者ギルドに入り魔獣を倒しながら生活し溜めたお金で学校に通うこと。
もう一つはこれを受け入れレクスの護衛になることで学校に実質無料で通うこと。
実際どちらでも良いのだが、実質答えられるのは後者のみだ。だって、皆こっち見てるのに王子様の要求を断ったらどうなることか。
「分かりました。護衛を引き受けさせて頂きます。」
「む、だから敬語は辞めろと言っているだろう。だが、よく判断してくれた。これからよろしく頼む。」
「ああ」
こうしてレクスの護衛になることが決まったのである。
その後、特別訓練として僕との模擬戦が行われた。
危なくなることもなく全勝したが、結構な人数だったため少し疲れた。
その程度で済んだのはあの死と隣り合わせの走り込みがあったためだろう。
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