第3話ソラの異変

また2年がたち10歳になりました。この2年間はほぼ武術と魔法の訓練でした。剣術以外にも棒術や槍術などなど色々と叩き込まれた。ソラによると一応及第点らしい。どこを目指してるのか分からないけど・・・・・・

全てやった結果剣術が一番しっくりきた。次点で槍術だが、その差は結構ある。

一番苦手だったのは双剣術。これは僕が習った中で特に手数で勝負する武器なのだがとにかく考えることが多い。しかも、手数が増えると言うことは瞬時の判断がより必要になるということ。

戦闘に慣れてきたとはいえそういう瞬時の判断が出来るほどではなかった。

剣術だけで魔獣と言われるモンスターの最低ランクを倒すことは出来た。

それ以上は危険な可能性もあるからとやらせてもらえてない。

最低ランクの魔獣は正直手ごたえを全く感じない。



魔法に関しては言うことがないそうだ。この世界にそれだけ魔法が使える人はいないと言われた。

これはあれか?世界一を目指せって言われてるのかな?それとも、やり過ぎと言われてるのかな?

訓練を続けさせられていることから前者の考え方の方が近そうだ。

ただ最近ソラのいる時間が短くなって来ている気がする。僕が訓練に慣れてきてサボらなくなったからという理由も考えられるが、元気もない気がするのだ。

この世界で唯一話したことのある存在、命の恩人でも有り、色々なことを教えてくれる師匠的存在だ。

ドSな行動が減ったのは嬉しいけど、少し寂しくも感じる・・・・・・

別にMになったわけでも調教されたわけでもない・・・・・・はず・・・・・・

そんなことを考えているとソラがやって来た。

「今日はこの本を最初から最後まで読んどいてよ」

そう言って持って来たのはとても1日じゃ読めない位厚い本だった。やっぱりドSだ。

ただなんだろう。少し空元気のような気がする。

「ソラ体調大丈夫か?」

そんなことを聞いたらめっちゃ驚かれた。

「えっ!?面倒くさがらないなんて信じられない!」

「おい、自分の心配してる奴になんていいぐさだ」

「まあまあ、そう怒らないでよ。一日でこの本を読み切れってのは冗談だから。5日位掛けて読むと良いよ。他の訓練は休みにするから。」

「あ、ありがとうございます!!」

この時ソラはチョロいなと思ったことだろう。実はカイの想像は正しく、ソラの調子は悪い。

いや、悪くなり続けていた。



3日後、この本はどうやらこの世界について書かれているらしい。

今のところ分かったことは、この世界には3つの大陸があり、同じ位の大きさの大陸が2つ、それより少し小さい大陸が1つ。大きい大陸の1つは人が住んでおり、もう1つは魔族が住んでいる。この世界の魔族は地球の物語に出て来るような世界を支配しようとすることはないし、なんなら人とあまり関わらないようにしているらしい。魔王と呼ばれている魔族の王がいるらしいが悪の魔王とかそんなのではなさそうだ。

もう一つの少し小さい大陸には獣人やエルフの隠れ里が点在しており、場所は分からないが大きい国が1つあるらしい。その大陸はなんでも亜人の聖地なんて呼ばれているらしい。

亜人に対する差別意識があるようで亜人の聖地に行こうとする者は少ないとか。

魔族も亜人ではないのかと思ったがどうやら魔族は魔族、亜人ではないという評価らしい。何が違うのか分からないけど。時間や距離、重さなどの単位は地球と同じらしい。時間に関してはソラが使ってたから知っていたけど。分かったのはこれくらいだ。

後2日で読みきらないといけない。まだ半分いったかどうか位なため間に合うか不安だ。



2日後、読み終わりましたよ。最後は徹夜したけど。

転生後初の徹夜です。記念日みたいに言ってるけど本当はしたくなかった、死ぬまで。

してしまったものはしょうがない。そのおかげで読み終えることが出来たのだ。

だけど大切な何かを忘れている気がする。それを思い出せずモヤモヤしてるとソラが来た。

いつもより薄い。というか透けてる?そこまで考えたときに思い出した。ソラの調子が悪そうだったのだ。本から様々な知識を得る中で忘れてしまっていた。

「おい、どうしたんだよ。透けてるじゃないか?」

「さすがにもう隠せないか。僕の力が弱まってきてるんだ。後、数日で消えちゃうんだ」

それを聞いて言葉を失った。消えちゃうってもう会えないってことか?僕はまだソラに恩返しを出来てない。

僕に2度目の人生というチャンスをくれたこと、僕を強くしてくれたこと、何より面倒くさがりの僕をここまで導いてくれたこと。ソラがいなければ途中で辞めるどころかスタートラインにも立てなかっただろう。

最初は成り行きで強くなるための訓練をしていたが、途中からはソラとの約束を守り恩返しをするために訓練をしていた。そのソラがいなくなる?そんなのは嫌だ。

「な、何か助かる方法はないのか?」

「あるにはあるけど、やめた方が良いよ。君のプライベートな部分を全部僕が把握出来るようになるし、何より声だけになって実体にはなれないんだ」

「それはソラが僕に取り憑くみたいな感じ?」

「主導権はカイが握ることになるけど、僕も短い時間だったら体を動かせると思う・・・・・・ってやるつもり?」

そんなの決まっている。

「もちろん、ソラが良いならだけど。僕はまだソラに恩返しが出来てないのに・・・・・・完全にいなくなられたら・・・困るんだよ」

言っている途中で涙が溢れて来た。ソラも泣きそうだ。

「・・・・・・ありがとう。じゃあ『契約』が必要だから準備するね」

そう涙をぬぐいながら言ってきた。そして仰向けになるように言われたので、いつも寝ている場所で言われた通りにする。すると『契約』をするための儀式が始まった。

「我と汝は運命共同体。我が願えば汝も願う。汝が願えば我も願う。我と汝はこれを受け入れることを誓い契約する」

いつにも増して真剣なソラがそう言い終わると徐々に薄くなりながらも僕の胸の中に入っていった。

僕はなんともない・・・が成功なのか分からない。


「おい、ソラ!!返事しろ!!」

この時ソラにはまだ隠していたことがあった。それは、この契約が成功しても失敗してもカイの身に何も起こらないようにするためには、ソラ自身の命をかけなければならなかったこと。そんなことを言うとカイは自分の身はどうなっても良いと言い出すことは容易に想像出来る。そのため隠していたのだ。


ソラは死の淵に立っていた。そんな中、忘れていた記憶が走馬灯のように溢れてくる。

それは、カイを転生させる数日前のこと。ソラの元に何者かが訪ねて来た。それが誰なのかは思い出せない。とある依頼を受けていた。

その依頼とは、数日以内にこの世界に適正を持つ転生希望者の一人を転生させ、強くして欲しい。

強くした後は自由にさせても良いし、お前の手伝いをさせても良い。

そんな内容だったと思う。しかし、ある懸念があった。転生させるにはすごく力を使うため転生が成功しても自分自身がどこまでもつか分からなかったのである。そこでその何者かとある契約をしたのだがそれもまだ思い出せない。

そこまで思い出した時、その思い出したものがまた忘れていくような、夢から目覚めた時その夢の内容を忘れてしまうようなそんな感覚を覚えながら意識がはっきりしていった。



(うん?)

突然ソラの声が頭の中に響いた。カイは呼びかけに答えないソラが心配で何もすることが出来ず、仰向けになり『契約』をした場所に座り込んでしまっていたのだ。

「大丈夫・・・なのか?」

ソラは何か大事なことを思い出せないモヤモヤをいだいていたのだがそれ以外は何も問題がなかった。

(最近調子が悪かったのが嘘みたいに元気だよ)

「やっぱり、実体にはもうなれないのか?」

(うん、そうだね。実体と喋れないと寂しい?そうだよね。そうなんでしょ。嬉しいな~そんなこと言ってくれるなんて)

こいつ、人の中に入って反撃がないことを良いことにめっちゃ煽ってきやがる。だが、少し安心したのは隠せない事実である。

(ということで明日から訓練再開ね。もっと厳しくしていくから覚悟してね。)

前言撤回。安心なんてしてる場合じゃない。ドS度がさらに高くなっている気がする。ただソラが助かったという事実が嬉しくてつい了承してしまった。



4年と半年後、この間の食料は森林の果物や動物の肉などでまかなった。衣類に関しては自分は長くないと思っていたソラが大きめの服まで用意していたのでなんとかなっている。訓練のことは聞かないで欲しい。思い出しただけで気を失いそうだ。

攻撃魔法が飛んでくることはなくなったがその代わりに脳内に煽るような声が訓練中ずっと響くようになった。その言葉にどうしても反応してしまいサボることは出来なかった。



成果は武術の方もソラから言うことなしと言われた。

あれから最低ランクの一つ上、中級の魔獣を剣術のみで倒すことが出来た。

他のでも出来そうではあったのだが実践で使うのは絞っておいた方が良いと言われたため剣術以外は使ってない。追い込まれていざというときに使えと言われた。そう言われたのには理由がある。それは次の魔法についてで発明したあることが関係する



魔法に関してはあれから面白いことが分かった。

ある日、そういえばこの世界には魔法があるのに魔方陣がないなと思ったのだ。

そこで、魔方陣を想像しながら魔力を集め、火の魔法のイメージをそこに書き込む感じで試してみる。

するといかにも魔方陣ってものが出来た。

何かに書いたりしたわけではないのだがそれなりの強度がある。

普通に触れるだけだと何も起こらないのだが、魔力を手に集め触ると僕がイメージした通りの火の魔法が出た。

そのことが嬉しかった僕は、これだと思い今使える魔法を全て魔方陣にしていくことになる。

そして全て作り終わった時に気付いたのだ。これだけ作っても持ち運び出来無ければ意味が無いことに。

そこで数時間あれやこれやと試していた時インベントリを作れば全て持ち運ぶことが出来ることに気付いた。ゲームではよくあったがこの世界には無いらしい。だが、そのときはどうしても魔方陣を持ち運びたかった。なので、いつもなら試さないであろうインベントリの再現をしようとした。それがなんと成功したため僕は今一瞬で魔法を打てるようになっている。

そして、この魔法があることで様々な武器をそこに収納しておくことが可能になったのだ。


そんな僕は今ここを旅立とうとしている。

理由は前に出てきた魔法の学校に行くためのお金を稼ぐために近くの街に行くためだ。

何でも魔獣を倒すとお金が貰えるらしい。

魔獣と動物の違いだけど僕もいまいちよく分かってない。

とりあえず凶暴で強かったら魔獣だと僕は判断している。

半年で入学するためのお金を貯められるかは不安なのだが・・・・・・

なぜ面倒くさがりの僕が勉強しに行くんだって?僕は最後まで抵抗したんだけど、ソラに言いくるめられてしまったのだ。

そんなわけでこれから気の乗らない学校に行くための資金を集めに行くわけなのでとても憂鬱な気分だ。

そういうわけで9年半過ごしたこの場所とももうお別れだ。

少し愛着もあるがこの世界初めての街に楽しみな自分もいた。異世界というのは不安もあるがいざとなればソラも助けてくれるので最低限の不安しか持ち合わせていない。

こうしてカイはこの世界初めての街に行くことになったのだった。

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