OVER
多趣味な金龍
序章
LIMIT0:プロローグPart1
彼らはガントレットとトンファーを激しく打ち付け合っており、ガントレット使いは180cm以上で総合格闘家より筋肉質な日本人で、トンファー使いは200cmは優にありながらプロレスラーのようにどっしりとした体型の黒人だった。
そんな2人は既に10分近くの長期戦を繰り広げており、まもなく勝敗が決しようとしていた。
「フッ!」
ガントレット使いが右ストレートを打つ!
「グゥッ!」
相手は左トンファーで防ぎ、すかさず右トンファーを回転させてリーチを伸ばし、左脇腹に当てる!
「チィィヤッ!」「ヒュッ!」
ガントレット使いはその攻撃を意に介さず、軽く息を吐き出すと、右脚でボディに蹴りを入れる!
(危ねぇ!)
すんでのところで、トンファー使いは後ろへ跳躍して回避!
あとほんの少しでもトンファーの振りが速かったならば、回避の予備動作が間に合わずにこの一撃で
そして、両者はしばらく向かい合い、互いにこれからどう動くか探り合う。
ガントレット使いは余裕を持った表情で、トンファー使いは険しい表情で。
しかし(このままじゃ時間の無駄だな)とでも思ったのか、ガントレット使いが相手に話しかける。
「おっさん、アンタそろそろ疲れたんじゃないか? 今ならまだ軽傷で済むから大人しくしとけ」
「へっ、クソガキが……テメェこそ……俺のトンファーが効いてるんだから……大人しくしろ……」
先の攻撃は確かに当てられていたはず。
ただそれでも、ガントレット使いは脂汗ひとつかかずに不敵に笑い、未だに疲れた素振りすら見せない。
対して息切れしているトンファー使いは、致命的一撃を辛うじて【
だからトンファー使い、もといハードテイストは怒りと興奮が溜まりつつあった。
(さっきから人を小馬鹿にしたような言動をしやがって……いちいち
そして、ハードテイストは息を整えつつ右腕を上げ、低く構える。
打撃の当たる面積を小さくして的を絞らせ、相手の攻撃を確実に受け止め、カウンターで
これに耐えた者は、今まで戦ってきた相手の中で1人もいない。
更にダメ押しにと言わんばかりに、トンファーを腕ごと【
ハードテイストの名前の由来はここにある。
彼は常人にはない【
(さぁ来い、小僧。これで終わらせてやる)
普通の武闘家ならここで馬鹿正直に突っ込みはせず、ハードテイストが痺れを切らすまでじっと堪えるだろう。
実際に今現在、攻撃を当てる前に潰されるか当てても効かない今の状況への憤慨、相手をミンチにしたい欲求、これら2つは表情に出ずとも、彼の放つオーラから感じ取れるまでに達しているのだ。
しかし、真正面からねじ伏せる事が最短最速の方法だと、効率を重視するガントレット使いは判断した。
「フー……」
息を吸い込む。右足に極限まで力を溜めるために。
《ドッ!》
コンテナに穴を開けるほどに強く蹴り込む!
ハードテイストとガントレット使いとの距離、僅か10m!
(速いがタイミングさえ合わせればなぁ……)
9m、8m、7m、6m、5m、4m、3m、2m、1m……
「なんてこたぁないんだよボケェ!」
《ガァン!!!》
鈍い金属音が鳴り響く……
ハードテイストのフィニッシュブローは綺麗に決まり、頭蓋骨が割れる感触がトンファー越しに感じ取れた。
傷口からは鮮血が激しい勢いで噴き出し、ハードテイストの顔を赫に染める。
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!! ざまぁねぇな! 俺をバカにするからこうなるんだよ!」
だが、その喜びも束の間!
「何が……『ざまぁねぇな』だって?」
ガントレット使いの体に黄色いスパークが纏わり始め、奇妙な風が舞い上がる!
頭を垂れていた血はみるみる内に乾いていき、傷口は跡も残らずに癒えていく!
「馬鹿な!? 確実に頭は砕いたはず! なんで意識がある!?」
驚きのあまり、ハードテイストは一瞬固まる。
「今度は、こっちの番だ……覚悟しろ」
ガントレット使いはその隙を見逃さずに《ガシッ》とハードテイストの頭を掴んで引き寄せる。
彼は必死にその手を外そうと、トンファーを手放し、ガントレット使いの腕を掴む。
「んだよこのパワー!? さっきとは比べ物にならん! 外れねぇ!」
「それじゃァ……歯ァ食い縛りな!」
(ヤバい! コレはヤバい! マジでヤバい!)
「憤ッ!!!」
ハードテイストが立っていた部分が《ガギャッ》と凹む音が遮られ、代わりにド派手な音が響き渡る!
《ゴッガァァァン!!!》
それ程までにガントレット使いの鋭い頭突きの威力は絶大なもので、それ故にハードテイストは
「フゥ……とりあえずこれで済ませとくか……ってこれじゃ聞いてねぇな」
体の力を抜いた青年の目には、泡を吹きながら白目を剥くハードテイストが映っていた。
しばらくして頭突きの反動が若干ながら落ち着くと、耳に付けた小型無線機を使い、ガントレット使いは本任務の責任者に連絡する。
「
話しながら専用の捕縛道具をハードテイストに押し当てると、機械部分から発射された光線が輪を形成し、彼の腕と胴体をまとめて縛った。
『もう送っている。まもなく着く予定だ、
「ありがとうございます」
『それと一つ』
「なんですか?」
『あまり自分の【能力】を過信するな。分かってはいるだろうが、君の
「すいませんね、相手が思ったより硬くてどうしても手こずったんです」
『だったら仕方ないとしてもだ。君の戦闘スタイルは自傷行為に等しくて冷や冷やする。まだ若いんだからあまり無茶はせず、帰ったらゆっくり休んでおけ。良いな?』
「了解です。それでは」
話が済むと無線を切り、越は静寂の中で大きく息を吐く。
そして夜空を見上げると、こうした激動に身を任せるようになった出来事を振り返る。
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