翌日から、紘一はストリップバーに通い詰めるようになった。茉莉花の出演する回を調べ、その時間に合わせてバーを訪れる。平日のバーは空いていたのだけれど、かぶりつきでショーを見る度胸はなかった。はじめの日と同じように、カウンターでウイスキーを啜りながら茉莉花の出番を待つ。自分でも、自分が分からなくなった。こんなふうになにかに執着すること自体が、紘一のこれまでの人生にはなかった。去るもの追わず、来るもの拒まず、だったのだ。なにに対しても。情熱もそこそこで、そこそこの努力で入学できる大学に入学し、そこそこの努力で入社できる会社に入社した。恋人がいたこともあったが、それもまあ、そこそこの熱量だった。そんな自分が、なにをしているのか。

 舞台で踊る茉莉花は、何度見ても見飽きることはなかった。若さや色気や華やかさでは、いつも他の舞台にまけているのに、かぶりつきが一番多いのは常に彼女の舞台だったし、紘一が血を躍らせるのも彼女の舞台だけだった。

 これまでは、そこそこの熱意で、それでもそれなりに集中していた仕事中にも、彼女の姿が瞼裏に浮かぶことが増えてきていた。ふと気を抜いたときに、彼女の白い手足が脳内で蛇のように踊る。

 こののめり込み方は、ちょっと異常だ。自分でも、気が付いていた。だからといって、ストリップバーに通う足が止まるわけでもなく、紘一は茉莉花を見つめ続けていた。

 今日も今日とて、来てしまったな、と、茉莉花のショーを見終えた紘一は、後悔や罪悪感にも似た感情をいだきながら、店の外に出た。平日なので、繁華街の賑わいはそこまででもない。ため息を一つつき、すっかり通い慣れた駅までも道のりをたどりだす。

 その道のり半ばほどで、後ろからなにかがぶつかってきた。驚いた紘一が振り返ると、そこには短い黒髪の、色の白い女が立っていて、猫のような動作で素早く腕を組んできた。

 なんだ、この女は。

 紘一はぎょっとして、反射的に女から距離を取ろうとした。すると女は紘一を見上げて、小声の早口で言葉を紡いだ。

 「お願い、カレシのふりしてこのまま歩いて。変なのについてこられてるの。」

 黒い大きな目の目立つ女は、一瞬紘一にウインクを投げかけ、こうも言った。

 「お兄さん、いつも私の舞台、見に来てくれてるでしょ?」

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