バチくそかっこいい祓い屋ギャルなーたん

緋色 刹那

第1話 友達とお化け屋敷ではぐれたら、ホラー耐性つよつよギャルとマッチングした

 夏休み。友達と、話題のお化け屋敷に来た。


「きゃー!」「怖いぃー!」「もう無理ー!」


「み、みんな待ってぇぇぇ……!」


 ……秒で置いていかれた。

 あたりは真っ暗。怖がらせる気満々のBGMとセットが、とにかく不気味。まともに進める気がしない。

 しばらく立ち止まっていると、どこからともなくゾンビの格好をしたお化け役が飛びかかってきた!


「ヴァァァー!」

「イヤー! ごめんなさいごめんなさい! みんなといっしょなら楽勝とか調子乗ってごめんなさいぃぃぃー!!!」


「ちょっとぉ」


 パコン、とゾンビ役の人が後ろから殴られた。

 派手髪のギャルの子が小さなバッグを手に、ゾンビ役の人をにらんでいる。淡い色のカラコン、白いトラの顔が大きくプリントされたバンダナチューブトップ、デニム。可愛くネイルしたつけ爪、イヤーカフ。頭には、お化け屋敷じゃ絶対に使わないサングラスをかけていた。


「その子、怖がってんじゃん。やめなぁ〜?」

「ヴ、ヴァ?!」


 ゾンビ役の人はそそくさといなくなる。

 「大丈夫そ?」とギャルの子は心配そうに、私の顔をのぞいた。


「は、はい。ありがとうございます」

「タメ語でいいよ! あーし、敬語苦手分野だし」

「う、うん」


 私と同い年くらいに見えるけど、大人っぽくてカッコいい。スタイルもモデルさんみたいだ。

 動画を見ながらメイクして、雑誌に載っていた服をそのまんま着ている私とは大違い。


「もぉ、一人でこんなとこ来ちゃダメじゃん。あーしがゴールまで連れて行ったげる」

「一人じゃなかったんだけど、友達に置いて行かれちゃって……あなたも一緒に来た人とはぐれたの?」

「や? 一人で来たけど?」

「ひとっ、え?!」


 ギャルの子はニッと笑った。


「あーし、ホラゲーとか心霊スポットとか、そーゆー怖いの大好きでさぁ。今、夏休みだから全国のお化け屋敷まわってんの」

「だからって、一人で来なくてもいいんじゃ……」

「みんなでワイワイさわぐのもいいけどぉ、やっぱソロでも楽しみたいじゃん? ゆっくりセット見たり、お化けの声とかBGMとか聴いたりしたいじゃん?」

「ちょっと何言ってるのか分かんないです」

「あははっ! それ、リア友にも言われたー!」


 ギャルの子は「なーたん」と名乗った。

 私もフルネームを教えようとしたけど、「こういうとこで本名言っちゃダメ」と真顔で注意された。仕方なく下の名前だけ教えて、「つきピ」というあだ名をつけてもらった。


「何に聞かれてるか分かんないからね。生まれた場所とか、誕生日とか、うっかりでも言わないで」

「たしかに、最近はどこから個人情報が漏れるか分かんないもんね。でも、今は私たち以外誰もいないし、大丈夫なんじゃない?」

「……そっか、つきピには見えてないんだ。じゃあ、なおさら気をつけないと」

「見えてないって、何が?」

「ううん。なんでもない」


 なーたんは私と腕を組むと、まるでランウェイを歩くように、お化け屋敷を歩き出した。


 その後も何度か、お化け役の人と遭遇した。だけど、みんななーたんを見るなり、慌てて逃げていった。

 なーたんはそれを見て、ケラケラと笑う。とんでもないメンタルの持ち主だ。あまりにも怖がらないんで、お化け屋敷業界ブラックリスト入りを果たしているのかもしれない。


「止まって!」


 中間地点のあたりで突然、なーたんが足を止めた。暗いばかりで、お化け役の人はいない。


「……何もいないけど」

「シッ! 静かに!」


 私もなーたんに従いその場でじっとする。

 すると、生ぬるい風がゆっくり右から左へ通り抜けていった。


「もう大丈夫! 先、進も?」

「ねぇ。なんか今、変な風吹かなかった?」

「あーね。リタイアドアが近いのかも。外のあっつい風がここまできた、みたいな?」

「……なーたん、私にかくしごとしてない?」


 なーたんの目が泳ぐ。

 「実は……」と血だらけ(に見えるように塗ってある)床を指差した。


「さっき、そこをめっちゃでっかいGが走ってったのぉー!」

「ぎゃー! お化けより怖いよ!」

「だよねぇ! あーしもGはムリー!」


 なーたんはぶるぶる震える。私もGは苦手だけど、暗いのもお化けも平気がなーたんが怖がっているのを見るのは、なんだかほほえましかった。


「リタイアされる方はこちらでーす」


 なーたんが言ったとおり、リタイアドアを見つけた。「STAFF」と書かれた帽子をかぶった係の人が、ドアの前から笑顔で手を振っている。


「じゃあ、私行くね」

「えー! せっかくここまで来たんだから、いっしょにクリアしてこ?」

「むりむり! ここまで来れたのは、なーたんに頼りきってたからだし……」

「頼ればいいじゃん! クリアしたら、アイスおごってあげるから! お願い!」

「えー」


 なーたんは私の背後へまわり、強引に歩かせる。

 チラッと後ろを見ると、なーたんは係の人をにらんでいた。さっきは気づかなかったけど、係の人の笑顔は作り物じみていた。


  ☆


「ギャーッ!」

「あはははっ! こわーい!」


 最後に、大勢の女のお化け役の人達に追いかけられ、逃げるように外へ出た。まぶしくて、一瞬目が眩む。

 先にクリアしていた友達が、私を見て駆け寄ってきた。


未月みつき、中にいたの?!」

「いたのって、みんなが置いていったんじゃん」

「うそっ?!」


 みんな、一斉に顔を見合わせる。なんだか様子がおかしい。

 話をきくと、私がいつまで経ってもお化け屋敷から出てこないのを心配して、係の人に探してもらっていたらしい。だけど、お化け役の誰も私を見ていなかったし、監視カメラにも私の姿は映っていなかったそうだ。


「なーたんといっしょだったから、私だって分からなかったのかもよ?」

「なーたんって?」

「私といっしょに出てきた派手髪の子だよ。ほら、」


 振り返ると、なーたんはいなかった。まわりを見ても、なーたんらしい女の子はいない。


「おかしいな。さっきまでいたのに」


 必死になーたんを探す私を見て、友達の顔色がさらに悪くなった。


「ねぇ、未月。あんた、一人でお化け屋敷から出てきたんだよ?」

「うそ。だって、さっきまで一緒に……」

「嘘じゃないって。私達、未月が出口から出てきた瞬間見たもん」


 お化け屋敷のスタッフも、私と同じ年頃の女の子は一人もいなかったと話していた。それはつまり、なーたんも見つからなかったということ。


「未月が怖がると思って言わなかったんだけど、最近このお化け屋敷で失踪する人が増えてるんだって。過労死させられたスタッフの怨念とか、順路の途中で異界につながってるとか、いろいろウワサになってるって」

「宣伝のために流してるウワサだと思ってたけど、まさか本当だったなんて」


 私も友達と同じように青ざめた。

 思い返すと、やけにリアルなお化け屋敷だった。ゾンビは臭かったし、お化けは近づいてくるときに足音がしなかったし、リタイアドアの前にいた係の人の笑顔も怖かった。

 それと……なーたん。リアルすぎるお化けを笑い、リタイア寸前の私を出口まで送ってくれた。もしかしたらなーたんも、この世の人ではなかったのかもしれない。


 ……アイス、私がおごるつもりだったのに。せめてお礼だけでも言いたかったな。


 私はお化け屋敷の出口を振り返る。

 すると、なーたんがひょっこり出てきた。


「なーたん?!」

「お? つきピ、よっすー」

「え? なーたん、本当にいたの?」


 友達もなーたんを見て、驚く。

 「いるよん」と、なーたんは元気にピースした。


「つきピ、友達と合流できたんだ! 良かったね」

「もー、急にいなくならないでよー! なーたんまでお化けだったのかと思っちゃったじゃん!」

「ごめんごめん。落とし物? 取りに行ってた!」

「落とし物?」


 なーたんは「STAFF」と書かれた帽子を指でクルクル回していた。

 リタイアドアの前にいた係の人がかぶっていたものだ。外で見ると、むちゃくちゃボロい。


「それ、スタッフの人の帽子だよね?」

「そ。ずいぶん好き放題してくれちゃってたからさぁ、一発かましてやったの。んで、これは戦利品。後で、お寺に持ってってお清めしてもらう予定〜。あ、つきピはさわらないでね? 取り憑かれちゃうかもしんないから」

「……なーたんって、何者?」

「ん? ナイショ」


 なーたんは得意げに、ニッと笑った。


 その後、みんなでアイス屋さんに行った。

 私はなーたんに、なーたんは私にアイスをおごり合った。何時間もお化け屋敷にいたみたいに疲れていたから、すごく美味しかった。

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